その男危険
クレハがこの世界に来て数日が過ぎた
保護者代わりとして紅波を見に、ルピナスの父親の店『バーミリオン』に顔を出すのが日課になり始めた
彼女は人見知りなどは一切しないし、誰に対しても素直で誠実なため誰からも好かれる
それに加えて、あの歌唱力
街の中でも彼女の事を知らない者は居ないのではないかと思うほどに彼女の人気は凄まじかった
ルピナスの店に入るとカウンターの中にいるルピナスに日替わりランチを頼みカウンター席に座る
見れば店の中はがらんとして、もの悲しさがある気がした
店の中を見渡しているとルピナスが話し掛けてきた
「クレハちゃん今日はお休みなんですよ、この街に来てから毎日うちの店で歌いっぱなしだったのでお休みなんですけど、客もパッタリですよ!」
ルピナスは少し呆れの混じったような顔で言いながら俺の前に水をおく
「そうか」
自分の中にも"残念"の言葉が浮かんだが、ルピナスに悟られないように水を口に運んだ
しばらくして日替わりランチを食べていると店のドアが開き見なれた顔があらわれ気付かなかった不利をしたがその人物は態々俺の横の席に腰をおろした
「ルピナスちゃん、俺にもコレと同じの!」
横に座った男は俺の皿を指差してルピナスに言う
そして笑顔で俺の方へ体ごと顔を向ける
「久しぶりだね!さっきアシャティスに会ったんだけど、ハウ君の孫をこの世界に連れて来たらしいね!どんな子?君が面倒みてるんだろ?」
この男に彼女の話しはしたくない
だが、そんなことを言ったらこの男は逆に興味をもつだろう
「黒髪黒目の珍しい人物だ」
俺の言葉に料理を持ってきたルピナスが加わった
「黒髪黒目ってクレハちゃんの事ですよね!今うちで歌士をやってもらってるのだけど、かなりの美人で男と女両方の歌が歌える歌姫ですよ」
余計なことを
そんな事を言ったらこの男が黙っていられるわけがない
「へー会ってみたいな♪」
その言葉にルピナスは今までのはしゃいだ声とはほど遠い低い声を出した
「クレハちゃんに手出したら、ただじゃおかないから…」
ルピナスもこの男を危険人物だと認識しているようで安心した
その日の夜仕事が一段落するとあの男がやって来た
「ライライト君、お孫ちゃんに会いに行こ!」
俺は頭を抱えたくなったがそれをかろうじて征すると深く深くタメ息をついた




