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馬耳総論  作者: 馬耳東風
8/22

貞子3Dを成敗する

 はっきり言う。

「貞子さんをなんだと思っている!!」



 リングシリーズ云々言う前に、映画として成立していない。登場人物の誰一人として感情移入できないし、びっくりするのであって怖いという感情が全くわかない。ここまで、時間と金を浪費したと言う作品は未だかつてない。いや、冗談ではなくて本当にない。


 主人公に超能力がある、この設定はいい。何しろ原作では、茜は○○の○だからだ。だが、それが超能力に見えない。ジェロニモのアパッチの雄叫びにしか見えないし、最後の方は無双状態になる。これにどうやって感情移入しろと言うのだ。

 超能力を持つが故にそれがコンプレックスで、なかなか社会に馴染めないと言うのはいくらでも教科書がある。『テラ戦士Ψ BOY』(古すぎるって)、『エスパー魔美』、『イナズマン』、『超少女REIKO』、『クロスファイア』、『七瀬シリーズ』……。いくらでもある。アメコミヒーローもそうだし、日本の特撮ヒーローだってそう言うのが本道だ。マンネリを怖がって、名作を無視しちゃいけない。むしろ、参考にしてこれらがやっていない事をやるって言うのは、アマチュアだってやることだ。

 何しろ、超能力で苦労したと言うのが昔のエピソードしかない。自殺するまで追い込まれるのだが、そこまでいく過程がバッサリ。何となく、ハリウッド版リングでサマラのママが飛び降りるシーンを真似ているのだが、『もう落ちているよね』のタイミングで呼びとめられる。それに、超能力を使わない事のストレスやリスクもなく普通に生活を送っているので、発動する際の爽快感も解放感もない。イライラするとか、周囲の物を意図せず壊すとか、そう言うのすらない。超能力を使えることで、彼女が貞子と同じ存在だと言う暗示になるし、貞子が『お前だ』『お前じゃない』と言う伏線にもなるはずなのに。

 また、貞子の呪いがどうしてネットのクラウド上に移行したのかさっぱり分からない。井戸は確かに実在するし、そこが人身御供の場になっているのだが、どうやってそこから思念をネット動画に移し、移動可能にさせたのかもわからない。『観念は生物なり』と言うのなら、それはリングの様な場所のお膳立てが必要だし、デジタル化するそれなりの嘘を用意しないと、すとんと頭の中に話が収まらないし、脳内補完する材料がない。むしろ『情念も一つの電子情報体』とでも言ってくれれば、なるほどと騙される。このくらいの事、ここのサイトの住人なら普通に書けるレベルだと思うのだが。一つの小さなネジの破損が大きな事故を招くのは機械トラブルの基本的な概念だが、映画も小さな伏線や設定が、映画全体の大きな作用や評価に繋がる。小説も然り。基本だと思うのだが、プロの世界は違うのかも。

 途中までこの映画の良心だった刑事の捜査。呪いと言う不条理な存在に、常識と論理で挑み、解明していくという我々のための大切な役だ。常識の観点で、『そんなことあるわけないだろう』と言わせることで、観客にその在りえない事がこの世界を支配しているんだと言う後押しをする。荒唐無稽である事象に、どうしてそのような事が起こるのかという興味をひきたてる。そして、その常識をよりどころにする人々が非常識の世界に引きずり込まれることで、観る側もいよいよ理屈抜きで不条理な世界に心を委ねざるを得なくなる。

 ここだけはちゃんとやっていた。自殺にしか思えないのだが不可解すぎる事件。しかも、同時刻に発生している。そして、彼らは皆、同じものを見ていた。ちゃんとリングの世界観だ。そして、捜査のイロハに乗っ取って事件を追っていくのだが、彼らがなかなか本筋に絡んでこないのだ。主人公に尋問までする所まで行くのに、『あの教師のことを洗え』とか、『被害者の年齢、職業、ネット環境から類似点を探せ』とか、『柏田の部屋を徹底的にガサ入れしろ』がない。これがないので、物語は状況に流されるのみで事件の深部が見えてこない。

 事件のからくりがわからない、背景もわからない。それはそれでいいし、作劇としてありなのだ。不条理に徹することで色々考えさせる事ができるからだ。だが、この手の作品はそうではない。すでに生活にネットと言う物を扱う以上、それなりの理屈がないと納得できないし入っていけなくなる。正しいかとかではなく、何かの理由が必要なのだ。そう言う物が絡んでこないため、ほとんどパニックやスリルを楽しむアトラクション以上には決してなれない。いや、アトラクションだってもう少し良心的な値段にするだろう。

 こういった論理づけがないまま事件は進み、刑事の一人は呪殺されるのだが、貞子状態に髪を伸ばして部屋に入ってくるシーンでは、笑い声が起こってしまっていた。飲み会でやるレベルだから仕方ない。呪われているように見えないのだ。しかも、拳銃で自殺するのだが、今の観客は『踊る大捜査線』や『はぐれ刑事純情派』のおかげで、許可がないと拳銃を携帯できない事を知っているので、怖くも何ともない。『催眠』みたいに、自分で頭を壁に打ち続けて自殺するとかなら相当怖いのだが。結局、刑事達も物語に無機的に関わっていっただけで死んでしまう。もったいないと言うか、犬死と言うか……。

 そして、いつ、どこで知ったのかわからない貞子の過去。生前に既に人を殺しまくっていたらしく、相当凶悪な存在になっている。こういうのは死んで当然であって、呪いとかはお門違いだ。呪いと言うのは、かける側ではなく、かけられる側に呪われるのではないかと言う恐れややましさがないと怖くもないし、存在しえないのだ。原作では、世の中に拒絶され続けた貞子の一生に憐れみを感じるとともに、自分達も彼女を追い詰めた一人だと浅川と高山に言わせることで、読んでいる側にも貞子の怨念を感じさせるようになっている。劇場版でも、確かに化け物ではあったが、母親の志津子を追い詰めさえしなければあそこまで呪いに狂う怪物は存在しなかった。そして、志津子を追い詰めたのは大衆であり観客である。そこに、自分達も貞子に追われるかもしれない危惧が生まれる。

 だが、最初から大量殺人を行っている女に、そう言う恐れはあるだろうか。裁きを受けて当然、八つ当たりはするなよぐらいの感覚だろう。呪いが発生しても、過去の様に『自分にも思い当たる節があるのかも』と言う発想はない。『シッシッ、こっちくんな』程度だろう。怖くないから、スパイダー貞子が出てきてしまう。人身御供にされた少女達が変異したものらしいが、CGで増やし過ぎである。ドリキャスのリングでクリーチャーが出てくるが、そっちの方が怖い。しかも、かなり打たれ弱い。『リング無双』状態となってしまって、雑魚キャラに格下げとなる。

 そして、今回の貞子さん。最後の方でようやく出てくる。美人でよかった、と言うより、今までずっと美人が演じているのに、墓場鬼太郎みたいな隻眼のギョロ目で二次元超獣が一般イメージなんだろうか。三浦綺音だぞ、佐伯日菜子だぞ、中谷美紀だぞ、仲間由紀恵だぞ、矢田亜希子だぞ。そして、橋本愛だぞ。なぜだ?

 それは置いておこう。美人なのはいいのだが、悪意に満ちているのか、無意識の悪意の中の無邪気さなのかがわからない。可愛いのはいいのだが、その顔の下にある意思が全く分からないのだ。原作世界の貞子は『自分の遺伝子を継ぐ子供が欲しい』、『自分の存在を継ぐものがいないのなら、永遠の若さが欲しい』という願いがウイルスと結びついて、ひたすらクローンを増殖する新人類へと変貌する。旧劇場版では『自分が味わった恐怖を生きている人間に知ってほしい』と言う思いでビデオを作り、予期せぬ再生やエンドレスの呪いの環を作っていく。サマラにしても、自分の中に宿る悪魔をどうする事も出来ない中、母性を求め続けて幼い心が壊れていった過程がある。そこには、『構って欲しい、愛して欲しい』と言う無邪気な子供の純粋な甘えがめる。呪い自体に善意はない。だが、何処かで理解できるような部分がある悲しい悪意がそこにある。理解できる、要は感情移入できる。そこが長生きするキャラの必須条件だろう。だが、それは今回なかった。再生を望んでいると言っても願いと言うよりは、昔の続きをしたいだけの様に思える。だから、自分に繋がる恐怖、決して他人事ではない事情、隣に貞子がいるかもしれない不安は一切生まれない。ゲームのキャラと一緒なのである。ネットに意識を映すのであれば、『功殻機動隊』や『トロンレガシー』と言う教材がある。仮想世界やネットの海では、あの貞子と言う存在や怨念がどのように存在するのか、真面目に考えた形跡がない。原作でも『ループ』で仮想世界に触れているにも関わらず。


 批判はしても否定はしない姿勢なのだが、これは否定したい。3Dの価格で客を呼び込んじゃいけない。それでも、何かいい点を探してみよう。

 まず、『みんな作りもの』と言うセリフがある。正体不明の女管理人の言葉なのだが、原作を読んでいる人ならこれがループ界の事だとすぐにわかる。何より、彼女は貞子を呼び出した柏田が住んでいるアパートの管理人なのだ。管理人……。そう、彼女はループ界、あの世界を管理し監視し得る人物と言える。だから、井戸の位置も知っているし、住民である柏田が貞子を解放できる理由になりえる。貞子がバグなら、井戸はそこに通じるバックドア、管理人はキーと言う事になる。ここは、『マトリックス リローデッド』のキーメーカーと考えればいいだろう。

 後は中の人ネタなのだが、何と言ってもキバVS貞子さん。ネタだと思っていたら、本当に実現していた。しかも、ドッガハンマーよろしく、石を貞子のインターフェイスであるスマホに振りおろして叩き壊してしまう。存在する場所を失った貞子さんは絶叫と共に消滅。つまり、キバは貞子さんに勝利した。狙ってやったのだろうか?


 とにかく言いたい事は、こういう作品はもうやめてほしい。それなりのファンもいるし、不本意な姿であるが知名度のあるキャラになった貞子さんを貶めるような作品は作らないでほしい。そして、お願いだから2時間ドラマ版をソフト化してもらいたい。或は、あれの映画化。『真・リング』とか言ってやればいい。高山役は難しいが、浅川はオダジョー辺りで。ヘタレもヒーローっぽさも出る。別に、キバに対抗してクウガを出したいわけではない。むしろ、今回の続編があった場合、二大ヒーローの誰かがが出るのではないかと本気で思っている。





 貞子さんが本当に気の毒だ……。

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