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馬耳総論  作者: 馬耳東風
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B級映画の金字塔

 テレビで映画をやる時に面白いのには二通りあると思っている。一つは隠れた名作。あまり多くの劇場で公開されていないが、見ればなかなか面白いと言う作品だ。こういう作品をチョイスされると、センスのある製作者だなと思わせるのだが、地上波ではもうそう感じる事はなくなった。

 もう一つは低予算映画やB級映画である。低予算映画は前述の隠れた名作にカテゴライズされるが、B級映画は、とにかく肩の力を抜いて楽しめるので、映画館で見るよりも、テレビで吹き替えで気楽に見る方が向いているのだ。特に、宇宙ものや巨大生物は鉄板だ。前者で好きなのは『スピーーシーズ種の起源』、『スターシップトゥルーパーズ』、『ヒドゥン』など。気楽に宇宙人の侵略を見ながら、人類の悪戦苦闘を眺めると言うのは、二時間弱のテレビ放映の枠では一番疲れないで見ていられる。程よい予算や低予算のため、気負う事もない。

 後者では、古くは『ジョーズ』、最近では『アナコンダ』や『モンスター』などがある。だが、テレビで放映し、二時間枠でずっと画面に食い入る映画とい言えば『トレマーズ』だ。

 この映画は、『バックトゥザフューチャーⅢ』の同時上映作として見ている。最初は期待していないおまけとして観ていたが、本命と同じくらい面白く、映画館での観賞経験の中では最高ランクの気分のよさだった。年齢がばれかねない話題であるが……。

 何がいいかと言うと、ジョーズと同じシチュエーションなのだが、『陸の孤島』と言う日本ではあまり発生しえない状況がアメリカでは普通にあると言う状況に、日本人でありながら素直に入り込めるのがいいのだ。

 最初は荒野にただ一本走る道で外界と行き来ができる。だが、道路を封鎖され、車をすべて破壊され交通手段を失い、やがて地面の上にすら降りられなくなる。そして、建物に追い込まれていくのだが、それすら侵攻されていく。しかも、その理由がきちんと描かれるので、国の地理的条件の違いがすんなりと共感できるので、登場人物の追い込まれていく様子が理解できるのだ。


 また、巨大生物物と言うより、怪獣映画に近い空気が何とも言えず、トライスター版ゴジラが怪獣映画になりきれなかった答えがある程度は提示される。

 登場する怪獣はグラボイズ。アメリカ人が作ったモスラみたいな造形なのだが、やることなす事、佇まいが怪獣だ。そして、やる事も巨大生物系の様に人を襲う事もあるが、その属性を生かし名が人間を翻弄し、知能がないはずなのに悪意を感じるほど人間を追い詰めていく面がある。

 まず、なかなか姿を見せない。ポスターには大蛇の様な大口を開けた生物が地上にいる登場人物に地中から襲いかかる構図になっているのだが、これはフェイクで、蛇の様なものはグラボイズの舌、つまり一器官に過ぎない。なので、観客はグラボイズの存在をほとんど認識していないため、その姿を見た時はかなり驚くことになるし、実際にかなりの観客がギョッとしていた。チラチラ見せながら、中盤で一気に姿を表す。『ジョーズ』の手法であり、『ゴジラ』にも繋がる見せ方である。ここから、怪獣映画が始まる。

 グラボイズは、ポケモンで言えば、じめんタイプのナメクジの様な姿をしている。この生物っぽさを残しながら異形の姿を持つのは、巨大生物と言うより怪獣に近い立ち位置だ。そして、能力もまた巨体に任せたものではなく人知を超えている。

 まず潜行速度が非常に速い。人間の足ではまず逃げ切れない。しかも、視覚器官が退化している代わりに聴覚器官が発達しているので、徒歩か車しか移動手段がない人間は、グラボイズの裏をかく事が難しい。宇宙生物ではなく、地球の生物が一つの能力が特化することで人間を追い詰める。おお、怪獣だぞ。

 映画では、計四匹のグラボイズが出現する。一体は偶発的に死亡するのだが、残り三匹と言う情報が入ると、『どうやって倒すんだ?』という疑問がわく。地中から襲って売る事を予知できないが、グラボイズは獲物がどこにいるかは手に取るようにわかるのだ。対抗手段がないうえ、次第に学習していくグラボイズは人間を一人残らず食いつくそうとする。何しろ、建物の屋上に人間が逃げた事を理解し、家を破壊して引きずり落とそうとするのだ。野獣が一種の知的な意思を持って人間に襲いかかる。本能ではない。明確な意思を持って人だけを襲うと言うのは、ただ食欲に動かされる以外の『人格』の様なものを感じてしまうのだ。だが、ここで終わってはただの生物パニックもので終わってしまう。この作品を怪獣映画の位置にシフトさせる登場人物がいるのだ。

 バート・ガンマー。この登場人物がこの作品の魅力をグラボイズと共に完成させたと言っていい。

 この男、サバイバリストであり、ほとんど病気のガンマニア。しかも、自宅に核シェルターを持ち、辺鄙な田舎で何に備えているのか不明だが、大量の重火器を所持している。そして、このグラボイズの襲撃で、平和に嫌気がさしていたこの男の危険な部分が目を覚ます。

 何と、大量の重火器を使い、自力でグラボイズ一体を射殺してしまう。使った武器は拳銃、サブマシンガン、ライフル、象撃ち銃。これを個人で、何セットも用意しているのだ。弾薬も自分で配合しているので、威力が尋常ではない。そして残り二体も、彼が即席で作ったダイナマイトを利用して、直接的にも間接的にも撃退される。まさに、彼の存在そのものが東宝超兵器のようなものである。ちなみに、カミさんもガンマニアだが、まだ少しだけ常識があるので、そのせいで離婚してしまう。もっとも、他人から見ればその離婚の原因もくだらない上に非常識なのだが……。

 このバート・ガンマー。トレマーズシリーズの人気の原動力になったのか、4作あるシリーズにすべて出演することになる。そして、宿敵であるグラボイズも彼に勝つことが目的かの様に、進化し強化されていく。おお、まるでメカゴジラやギャオスやモスラではないか!……、少し冷静になろう。

 グラボイズが変化する。エイリアンのようなマイナーチェンジではなく、ポケモン並みの進化と言える。まず2では、地上で歩行するタイプになる。さらに聴覚器官が退化し、代わりに感熱式の視覚を獲得する。そして、獲物を捕食する度に無性生殖をおこない、しかも1分ほどで成体になる。そして、終盤では無数の個体がバートを含めた登場人物を包囲して襲いかかる。ちなみに、この進化体の名前はシュリーカー。グラボイズの腹を食い破って誕生する。一体、どういう関係なのか、不条理に満ちた存在である。エイリアンで言う、『エイリアン』が主なのか、『フェイスハガー』主なのか、そこに近い疑問が残るが、シュリーカーは一応言っておくとキモ可愛い。グロくはないので、2もお勧めできる。

 そして、バートのイカレ具合と暴走はエスカレートする。離婚にすっかりふて腐れてたのだが、グラボイズ出現に精気を取り戻し、一個小隊並みの武装を持ち込んで憂さ晴らしの様にハンティングを始める。そして、暗い砂漠を走行中にシュリーカーの群れに襲われる。普通のキャラに完璧に死ぬ所なのだが、この男は持てる限りの断薬をぶっ放し、大型トラックでシュリーカーを轢き殺し、とうとう一匹を捕虜にするという離れ業を演じる。さすがの彼も、もう駄目だと思ったらしいがそれでも生き残るこのしぶとさは、殺しても死なないゴジラの様だ。

 そして、我らがバートは、3でついに主役に躍り出る。脇役が主人公になるのだ。三味線屋勇次や飾り職人の秀が主水を差し置いて主人公に、かげろうお銀が黄門様を水戸に置いて諸国の旅に、孤門がついにネクサスに……。何処か脱線してるが、要するにあまりに強烈なキャラのため、1の主人公二人が離脱した後でも彼が主人公に座ることでシリーズが成り立ってしまう、そう言う事だ。そして、グラボイズ、シュリーカーに続く進化体も登場し、バトルはさらに激しくなる。

 今度の進化体は、飛翔形態アスブラスター。相変わらず聴覚器官は退化しているが、大きな翼とケツから噴射する引火物質で空を飛ぶ。もはやギャグのである。しかも、腹いっぱいになると寝る。間抜けにも程があるが、何故かこいつはグラボイズの卵を持っており、繁殖する。こいつらと故郷に戻ったバートが戦い、第一作のキャラも出てくる総決算的な映画である。そして、再びすべての武器を失ったバートは、まるでランボーの様なゲリラ戦を展開する。いや、武器が完全にランボーだ。実際見ると、彼のサバイバル能力の高さがよくわかる。

 ちなみにグラボイズの変異体であるエル・ブランコと言う白いグラボイズが出てくる。まるでアルビノ何とかみたいですな。こちらは、土地開発を牽制するためにバートが活かしておくことになるのだが、散々バトルを繰り返して共闘関係を結ぶなんて、まさに漢の姿である。そして、この流れはテレビシリーズへつながるのだが、これは見た事がないので知らない。ちなみに、ミックスマスターと言う変異体も登場する。ぜひとも日本でソフトを発売して欲しい。

 そして、バート自身のアナザーストーリーまで作られてしまう。スピンオフキャラなのにこの扱い、只者ではない。西部開拓時代の話で、バートの先祖が出てくるのだが、銃に触ったことのないヘタレである。グラボイズがで来るのだが、これがまだ幼体でかなり小さい。それでもダートドラゴンと恐れられ、ろく馬武器もないので土地の人間にとっては脅威なことこの上ない。しかも先祖であるハイラム・ガンマーは、村を守るためにダートドラゴンに立ち向かう住民を残して、『逃亡』する。どこまでもチキンなのだが、女の、いや、住民の勇気に突き動かされて村に舞い戻り、ついにダートドラゴンを撃破する。そして、この一件で銃器に目覚め、銃に対する偏愛は一族に受け継がれていく……。 


 グラボイズがすごいのか、バート・ガンマーがすごいのが途中からわからなくなっているが、要するにこの映画にはB級映画特有のパワーが秘められている。それでいてストーリーが破綻しておらず、心の底から楽しめ、ハラハラドキドキする事、請け合いだ。まともな作品がない邦画を観に映画館に高い金と貴重な時間を費やすより、近くのレンタル店でこのシリーズを一気に見た方が有意義に過ごせるだろう。


 このシリーズ、なめたらいけません!

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