クリスマスのお話《別れ》
12月24日――
白い雪が真っ黒な空から落ちてくる。
茶色の地面に降り積もる雪は、まるでチョコケーキにふられる粉砂糖のように甘そうだ。
しかし雪は甘くはなく、さらには冷たい。
南美は約2週間前の弘人の言葉を思い出していた。
《クリスマスは一緒にすごそうね》
そして、付き合って間もない頃の約束も。
「どういうこと?」
南美の声が震えているのは寒さのせいではない。
南美は目の前でうつむく弘人に怒りの眼差しを投げ付けていた。
弘人はその、のびた髪の毛に積もった雪を払おうともせず、微かに肩を震わせていた。
「私、弘人が大好きだよ?」
「……」
「どんなことがあっても、弘人以外の男子を好きになることはないから、ねえ!」
冷たい風が、南美の長い髪を揺らしていった。
目にたまった雫を、南美はすっかり冷えた手で拭った。
「ありがとう」
弘人がやっと、口を開いた。
低い、哀しげな声。
「でも、しょうがないだろ。ごめん」
「いやだ!」
南美は駆け寄り、弘人の手を握った。
大きくて頼もしいはずの弘人の手は、なぜか今は小さくて情けない。
「私は……弘人が遠くに……転校しても、ずっと好き」
「口ではそういえるだろ」
「口だけじゃないもん!」
南美は声を張り上げた。
すっかり擦れた声で、めいっぱいうったえる。
「私はこんなに大好きなのに、弘人は好きじゃないの?」
「そうだよ」
その言葉に、南美は目の前が真っ白になった。
雪に埋もれて死んでしまいたいと思った。
弘人は南美の手をふりはらい、後退りをしながら、
「だから、お前となんか転校しても付き合い続けたいだなんておもっちゃいねーよ!」
南美はふるふると頭を振って、弘人をまじまじと見つめる。
「だから、だから俺は……お前がきら……お前の幸せを…………ちくしょぉっ!」
弘人はがっくりと地面に膝をついた。
「なんで転校なんかしなきゃいけないんだよ、馬鹿親父! あぁ、もうわけわかんねぇっ!」
南美は弘人に駆け寄って、同じように膝をついた。
じわじわとズボンが濡れてくる。
「弘人っ」
南美はあふれる涙を堪えられず、流した。
泣き崩れる弘人を抱き締め、南美もまた、泣き崩れた。
《俺たち、絶対ずっと一緒にいような。俺は南美から離れられないと思うから》
暖かな家のなかでは、豪華なクリスマスディナーや、おいしくて甘いチョコケーキが並べられている。
これはあるひとつのクリスマスのお話。
みなさんのクリスマスが素敵な1日になりますように。
南美、は《みなみ》じゃなくて《なみ》です。