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竜人の血  作者: バショウ
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第二章・動乱

基本は三人称ですが、区切りを境にころころと視点が変わります。あらかじめ知っておくとまだ読み易いかもしれません。

1.支配


 外部の人間の侵入を想定していなかったのか、石の扉はあっさりと開いた。

 持ってきた松明に火を灯すロクヒトを確かめて、アキはごりごりと鈍い音をさせながら重い扉を閉めた。

「順調だな……中には誰もいないんだろ?」

「ああ。今この墳墓の中にいるのは俺らだけ、さ」

 ロクヒトも、肩の荷を下ろしたかのような態度で答える。表情も柔らかい。

「んじゃ、出発しよー」

 異常に重い扉を開閉したせいで、アキの腕は痺れていたのだが、気にした様子もなくサリが立ちあがった。

「……まあ、いいけどさ」

 手伝いもしなかったくせに……、愚痴をこぼしながらもアキも立ちあがる。

「おう、ささっと見つけてぱぱっと逃げようや、な? ジュン」「うん……」

 ロクヒトも陽気に続く。対称的に、いまだおどおどと辺りを窺うジュン。

「安心しろ、ジュン。確かに警備員はここを巡回してはいない。さっきの扉見ただろ? 立派な苔が生え放題だったじゃないか……少なくとも一、二年は誰も入ってないんだ」

「う、うん。そうだよね」

 かすかに表情を明るくさせ、ジュンが頷く。ほどほどの緊張は、むしろ良い方に傾く。

「まあ、油断はするなよ」

 最後に小さく付け加える。

 先導を切って歩くロクヒトがアキを振りかえり。

「じゃ、俺が先頭、次にジュン、サリ。最後はアキで。石室までは何も無いと思うけど……一応見逃すなよ?」

「了解。お前も気をつけろよ」

 まったくもって順調だ。

 先頭のロクヒト持つ松明が照らす、殺風景な石壁。整然としているが、一つ一つの石が大きいせいで、圧迫感がつのっていく。

(怖い、な)

 ここは、怖い。

 何千年も前に作られたという竜人墳。こんな物を人力で作った、当時の人々の執念や怨念を感じさせる。

 どれほどの権力を持っていたのだろう。初代竜人の力は、それほどまでに恐れるものだったのか。

 淡々と続いていく石壁に、絵が描かれた部分が出てくる。

 例えばそれは大きな竜人の前にひれ伏す人間の姿だったり、太陽を仰ぐ竜人の姿だったりする。

 どの絵をみても、必ず中心に竜人の姿があった。

 うわー、と素直に声を上げて感心するサリ。

 仔細に眺めたいのだろう。そわそわと、無言で歩くロクヒトと絵を見比べるジュン。

 アキは、ゆっくりと絵から目をそらした。

 描かれた古代人の竜人への崇拝の念に、飲みこまれそうだったから。


2.反乱


「今日はこれで終わりだな?」

 二百枚はあった問題集をマコトに渡し、竜人は笑った。

「はい。以上です。明日は早朝から武術の訓練となります」

 ふふ、と楽しそうに呟く竜人。

「そうか、それは楽しみだ」

「竜人様……」

「ああ、わかっておる。無闇に笑顔を見せるな、であろう?」

「はい……」

 支配者たるもの、滅多なことでは笑ってはならない。常に剛毅な態度を取り続けなければ、民につけいられてしまう。

「不便なものだ……笑うことも制限されるとは」

「それが竜人様の務めでございますゆえ」

「わかっておる。ただの愚痴だ……下がって良い」

「はい。ではお食事の用意ができ次第、お呼びに参ります」

「うむ。……しばらくはここで仮眠を取る。遠慮せず起こすように」

「……では、失礼します」

 音を立てずに扉を閉め、マコトは大きく伸びをした。

 これでしばらく自由だ……。

(私も昼寝といこうか……?)

 税を納めることのできない民の処理で不眠続きだったマコトは、そんなことを考えながら自室へと向かった。


(なんだ?)

 猛烈な吐き気を感じ、浅い眠りを中断させられたマコトは辺りを見渡した。

 いつも通りの部屋だが、何か違和感がある。

 と、かたかたと小さく振動する硝子細工の置物に目を止めた。

(竜人様の能力だったのか?)

 何事かと考えたところで、無遠慮な足音を聞き、不機嫌にドアを開けた。

「あなた、どうしたというのです! ここは王宮ですよ!」

 目の前を走っていた兵士を捕まえて問い質す。

「ああ? ……し、失礼しました! は、反乱です! 王室警護番役が反乱を起こしました!!」

 何だこいつは、といった視線を送ってきた兵士が、マコトの階級章を確認してその場にひざまずく。

「な、に? ……警護番役、全員がですか!?」

「はい!」

 反乱だと?

 まず兵士の狂言やただの流言を心配したマコトは、じっくりと兵の表情を観察する。

(正気だ……)

 ありえない。

 既にかりそめとはいえ、竜人の支配の元、この国は上手く動いていたはずじゃなかったのか?

 ここで反乱を起こして、何の意味がある?

「……竜人様は?!」

「竜人様は……つい先ほど崩御なさいました……下手人は、警護番役の一人です……捕まえられず、申し訳ありませんっ!」

「なっ……! ならば、あの振動は……!」

 死の際に竜人が上げた咆哮。文字通り断末魔の悲鳴だったのだろう。

 マコトは膝が震え出すのを自覚した。歯をがちがちと鳴らしながらも質問を続ける。

「じょ、状況は……」

「はっ、残っているのは親衛四番隊、五番隊、です! 二番隊、三番隊は壊滅、一番隊は四番隊の指揮下に入っております!」

 親衛隊は、一部隊につき五十名の精鋭が所属している。対して、王室警護番役は農民主体の兵だが、総勢六百人。とても、勝ち目が無い。

「たった、それだけ、ですか」

「はっ、はい」

「……司令部はどこだ」

「四階、会議室であります」

「わかった……行きなさい!」

 はっ、と言い残し、駆けて行く兵士を見送り、力の抜けたマコトはその場にずるずると座り込んだ。

「く、ははは……カゼサキよ!!」

(カゼサキ……お前は一体何のために竜人になったんだ!? 竜人とは、何だ!?)

 二年前から呼ばれることのなかった、マコトの甥だった竜人の名を叫び、泣きながら笑いだした。

 このままではマコトまでも命を落とす。頭ではそう理解しながらも、座りこんだままマコトは笑いつづけた。


3.空白


 三十分程歩きつづけ、疲労を感じてきたところで一度、休憩を取ることにした。

 松明を壁に立て掛けたロクヒトが、三人で車座になった中央に地図を広げる。

「今、この辺だから、石室まで後半分ってところだな……」

 埃っぽい空気の中での食事は気が進まなかったが、そうも言っていられない。

 鞄から出したパンを齧りながら確認していくアキ。

「もう半分かー」

 水を飲みながら相槌を打つサリに目を向け、アキは、

「疲れてないか?」

「うん? 全然だいじょーぶ。むしろ楽しみかな」

「そうか。ジュンも……まだまだ余裕だな」

 休憩するぞ、とのロクヒトの言葉を皮切りに、自らの松明を持ち出して壁の絵を観察しだしたジュン。一番心配だったのがジュンの体力だったが、意外と持ちこたえている。

「ところでさ、ここ……なんだろうな?」

 そう言ってロクヒトが指したのは、石室の隣りにある空白の部分だった。部屋なのか、ただのの柱代わりなのか、それすらも判らない。

「ああ、そうそう。俺も気になってたんだけど。ロクヒトの記憶違いか?」

 まさか、というように首を振るロクヒト。

「俺がそんな手落ちするわけないだろ? 王立図書館の地図も空白だったんだよ」

「空白、か」

 どうしても秘密にしなければいけなかった、ということだろうか。

(ならそれは何だ?)

「宝物庫、とかか?」

「うーん。確かにそれっぽいけど、な」

「しかし随分と広いな」

 そう、石室の部屋の三倍はある。

 ゆうに校庭くらいの広さを占めるだろう。

「人柱の部屋、とか」

 さらり、と恐怖を煽るようなことを漏らすサリ。

「や、やめろって。……宝物庫でいいんじゃないか? 直接地図に書いたら不穏当だ、って判断したとか」

「うん、じゃあ、その線で行くか。石室の前にまずこの部屋を見ておこう……ジュン、そろそろ行くぞ」

 ロクヒトが締めくくり、立ちあがってジュンを呼ぶ。

「う、うん。……わかった」

 何をしていたかと思えば、ずっと絵を写し取っていたらしい。

 名残惜しげにちらちらと壁画を見ながら戻ってくるジュン。

「ま、明日の二時まではこの中だ。帰りにでもゆっくり見ろよ」

 慰めるようにジュンの肩を叩き、再びアキ達は歩き始めた。


ロクヒト。十八歳。幼馴染四人組を引っ張ってきた。自らの才能を過信する癖があり、後先を考えることが少ない。秀学院に入る実力はありながらも、実家の窮乏のため、週に三日働きに出ている。

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