表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜人の血  作者: バショウ
11/12

第十章・裏切り

今回は後書きにそれぞれが得た能力を書いていきます。


1.疑問


 上手く動かない翼を広げ、ロクヒトは王宮へと向かっていた。

 何度も響く空気の振動は、アキと竜人が争うものに違いない。

 おそらく、ロクヒトたち四人の中ではアキが最強だろう。

 接近戦では、武術の師範代をつとめるアキに分があり、もし離れても咆哮を放つ。

 それを堪えて上空に逃げたとしても、今度はサリの炎が襲う。

 少なくとも、サリが共にいる限りアキに負けは無い。

 無いはずだったが。

 竜人には幾度もの戦いを生き抜いてきた実戦経験がある。

 もしそれにアキが対応できなければ、痛い目を見ることになってしまう。

 よろめきながらも、何とか門の前まで飛ぶことができた。

(ここからは、走るか)

 傷ついた翼をたたみ、ロクヒトは中庭へと駆け出した。

 中央の渡り廊下にさしかかった所で、階段を上るマコトが目に留まる。手にボウガンを持ち、集中していたのかロクヒトには気付かずに、そのまま二階へと消えた。

(あれで援護する気か……)

 少し迷い、ロクヒトもマコトの後を追った。

 手負いの竜人へ奇襲するとすれば、少しでも高い場所からの方が有利だ、と見越してのことだった。

 長時間の飛行は無理だが、姿勢を整えることくらいはまだできる。

 この、ほんの気まぐれが、マコト、そしてロクヒトたちの運命を変えた。

 ロクヒトがバルコニーへ足を踏み入れた瞬間、マコトの目の前を竜人が落下していった。

 胸を押さえ、信じられないといった表情で地面へと落ちる竜人。

(マコトが、やったのか……。ん?)

 一方のマコトはまだ警戒を解かず、新たな矢を取り出していた。その矢尻は紅く染まっている。毒が塗ってあるのだろう。

 何故さらに矢をつがえるのか。不審に思い、足音を殺し横から回り込む。

 マコトが構えるボウガンの先は、倒れたアキと、介抱するサリに向けられていた。

「おい、マコト……?」

 突然かけられた声に驚いた様子のマコトは、目を見開きながらも矢を放った。狙いを外した矢は、アキのすぐ横の地面に突き刺さる。

「あ、あんた何を……」

 ロクヒトが声を掛けなければ、矢が当たったアキは死んでいただろう。

 問い詰めようとしたロクヒトの声は、短剣を抜いたマコトに遮られた。その刃からも、紅い薬品が滴っている。

「……」

 無言のままロクヒトへと襲いかかってくるマコト。

「お、おっ? ……な、何しやがるっ!」

 翼を動かして風圧を生み出し、ロクヒトは大きく後ろへ下がった。

「……」

 やはり無言のまま、片手でボウガンに矢をつがえるマコト。

「何か、言え……う」

 ぴたり、とボウガンの矢先を額に向けられ、ロクヒトはうめいた。

(動けない……?)

 右に動いても、左に逃げても、その矢はロクヒトを貫く。

 そんな予感に脅え、ロクヒトはその場から動くことができなかった。

「い、嫌だ……やめろ、マコト」

「……すみません」

 小さく呟いたマコトは、矢を放つ。

 紙一重でロクヒトはその場にしゃがみこんだ。意図しての行動ではない。死の恐怖に腰が抜けたのだ。

 既にボウガンは必要無いと判断したか背に収め、腰の剣を抜くマコト。

 紅く染まった刃の恐怖に身を縛られたロクヒトは。

「あ、あ、アキーっ!!」

 恥を捨て、叫んだ。



2.意思


 一時的な酸欠によって完全に意識を失ったアキは、サリに揺り動かされて意識を取り戻した。足や腕、腹など、いたるところを切り裂かれ、出血は少なかったものの、猛烈な痛みを感じる。

「うう、竜人、は?」

「よ、よかった……心配したん、だよ……」

 痛みを堪え辺りを見渡し、仰向けに倒れる竜人を目に止める。

「サリがやったのか?」

「……え? う、ううん」

 どういうことか、と立ち上がりかけたアキは、地面につけた右手に衝撃を感じ、目を向ける。すぐ横、ほんの数センチの所に矢が刺さっていた。わずかに見える紅い矢尻は、毒の証だろう。

「う、うお?」

 慌ててサリを抱え、横に飛ぶ。恐れていた追撃は無かった。

 数歩で壁際の木の陰に隠れ、矢を観察する。方向を考えると、バルコニーからのものの様だった。人影は無く、逃げたか隠れたかしたのだろう。

「くっそ、誰だよ……」

 良く見ると、倒れた竜人の背にも同じ矢が突き刺さっている。竜人を殺したのは、正体不明の狙撃手のようだった。

「……サリはここで待っててくれ。俺は……」

 確かめに行く、と言おうとしたところで、「アキー!」と叫びが聞こえた。

「……ロクヒト?」

 考える間も惜しい。助走をつけ、一気に二階のバルコニーへ飛ぶ。手すりに手を掛け、腕の力を使い、降り立った。

 そこには、剣を構えたマコトと、へたり込むロクヒトの姿があった。


「なんのつもりだ……、マコト?」

 軸足をマコトに向け、一気に飛びかかれるように構える。

「……ふぅ」

 立ち上がったロクヒトと、小刀を構えたアキにはさまれたマコトは、ため息らしきものを吐き、紅き剣を下ろした。

 そのマコトを周りこむ様に移動し、アキはロクヒトを庇うように前に立つ。

「まず剣を捨てろ。……理由を聞こうか」

 できれば闘いたくはなかった。

 一時仲間だった、ということもあるが、竜人をも一撃で倒した毒は危険に思えたからだ。運悪くかすりでもしたらそれだけで命を落とすかもしれない。

「……いくら私でも、あなた達二人相手にして生き残れるとは思いませんよ」

 自嘲するように笑い、剣を投げ捨てた。

「竜人を殺したのはマコト、あんただろう? 何故、ロクヒトまで……?」

「前竜人、……カゼサキの願いは、竜人による中央集権の再生でした」

「……わからないな。なら竜人は必要な存在だろうに?」

「多いのですよ。私が竜人になれない以上、一人いれば十分です。……そう、知識と記憶を受け継いだ、ジュンがいればね。……彼を王に据え、私がその補佐をする、これが理想でした。このまま四人の合議制なんてことになってしまえば、必ず対立が起こりますからね。……少し、焦ってしまったようですけれど」

 確かにそうだ。国が落ち着いてからゆっくりと暗殺すれば良かったのだ。

「俺は、王になる気は無いが。それでも邪魔なのか」

「問題は、竜人が存在するということですよ。今はそう考えていても、いつ心変わりすることやら。何しろ、竜人の寿命は無限に近いのですから」

「……仕方ない、な」

 小さく呟き、アキはマコトを睨む。

「私を殺しますか?」

「……いや、動けないように……っ?」

 アキの油断を突くかのように、突然背中から取り出したボウガンを構えるマコト。

 慌ててロクヒトを突き飛ばし、アキ自身も大きく跳び退る。

 一瞬前までアキのいた位置を矢が通過し、石壁に突き刺さる。

「くそっ」

 こうなっては手段を選ぶことができない。

 牽制変わりに、手に持った小刀を投擲する。

 それは十分に予期していたらしく、あっさりと横に動きかわすマコト。ボウガンには新たな矢をつがえ、アキを狙う。

 ロクヒトを探すと、こちらも飛びかかる機を待っているようで、わずかに体を前傾させている。

 次にマコトが矢を放った時がその機会だと分かってくれているだろうか。

 少なくともマコトはそれに気付いているようで、じりじりと先ほど投げ捨てた剣に向かって移動している。 

 剣を取られては矢を放った後も安全とは言いがたい。

(使いたくはなかったが)

 マコトに気付かれぬように少しづつ息を吸うアキ。

 今回の咆哮は手加減する余裕が無い。人間のマコトは、気絶ですめば良い方だろう。ロクヒトはまがりなりにも竜人だ。なんとか意識は保てるはずだ。

「くっ          おおおおっ!!」

 震える大気、舞い上がる埃、その振動は王宮すら揺らし、床にいくつも亀裂を造った。

 びくり、と体を震わせたマコトが、勝ち誇ったように笑った。

 どういう事か、いぶかしむ間も無くマコトは、アキの咆哮を食らい硬直しているロクヒトに向け矢を放った。

 紅く染まった矢は、呆気なくロクヒトの翼を貫いた。

 撃たれたロクヒトは倒れ、咆哮の衝撃と矢のショックに耐えられなかったか、あっさりと気を失った。


「りゅ、ロクヒトっ!」

 完全な失神を見て取れたマコトはそのままに捨て置き、倒れたロクヒトに呼びかけた。

 薄く広がった翼から、くたりと力が抜けていくのがわかった。

 マコトの狙いを読みきれなかった悔しさと、ロクヒトに対する申し訳なさにアキは歯を噛み締めた。

「……くそっ、悪い、ロクヒト。俺を恨め!」

 矢が刺さった翼を、根元から引き千切る。

「う? ああああああっ!!」

 計り知れぬ痛みに悲鳴を上げ、転げまわるロクヒト。

 慌てて体を押さえ、アキは服を破り、傷口へと締めつけるように巻いていく。

「我慢しろっ、死ぬよりはマシだ!」

 顔中に汗を浮かべながらうめくロクヒトを抱え、中庭に飛び降りる。

 着地の衝撃に再び悲鳴を上げるが、今は構っていられない。

「サリ!」

「う、うわあ? ど、どうしたのそれ血!?」

 痛みに暴れるロクヒトをうつ伏せに押さえつけ、サリを呼び寄せる。

「止血薬と造血剤と痛み止めを寄越せっ、早く!」

 こくこくと頷いたサリ。鞄から幾つかの薬草と粉末を取り出し、まとめてロクヒトに飲ませる。

「これ、造血と痛み止め!」

「水は無いが、気合で飲め!」

 目に涙を浮かべながら、必死で飲み下そうと口を引き結ぶロクヒト。

 続けて酒と包帯を取り出し、「傷口、出して」

 既に血で固まりつつあった服の切れ端を剥いでいく。

「や、やめっ痛いっ!」

「我慢だ」

 暴れるロクヒトを全力で押さえつける。めきめきと骨が軋む音が響いたが、暴れて治療の邪魔になるよりは良い。

 ふたを開け、瓶の中の酒を全て傷口にふりまくサリ。

「うっうう……」

 消毒の痛みも加わって、ぼろぼろと涙を流す。

 集中しているのか、無言のまま止血用の軟膏を塗り、手際良く包帯を巻きつけるサリ。

「……ふう、一応、終わり」

 叫びつかれたか荒い息をつくロクヒトへ、瓶に残った酒を飲ませる。

 痛み止めの代わりか、先ほどの薬を流しこむためだろう。 

「う……不味い」

 顔色を蒼白に変え、ぐったりと体中の力を抜くロクヒトを囲み、アキとサリは安心し小さく笑った。



アキ・竜神の持つ筋力、そしてそれに耐え得る骨格。内臓等も全て変化している。特殊な声帯により、咆哮を放つことができる。外見はごつごつした爪だけが変化している。

サリ・炎を吐く能力を得た。熟練により、口以外からでも炎を生み出すことができる。

ロクヒト・翼。空を駆け、一抱え程の真空の空間を作り出すことができる。

ジュン・歴代竜人の記憶。人の感情を読むことができる。悪意には敏感。金色の目を持つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ