05
おばさんたちのおしゃべりと笑いの輪から抜け出すとずいぶんほっとして、私はじいちゃんに駆け寄った。近づく私を見て背を向けゆっくり歩き出すじいちゃん。小走りで隣に並ぶ。
「今何時?」
校門を出て、ふと思い立って尋ねてみる。道の脇に生えている木の一本一本ではいちいちセミが鳴いている。みんみんやらじーじーやら、うるさいったらない。
「七時ぐらいち思うばってんが」
みんみんの間にじいちゃんの声が挟まって、見上げるとじいちゃんも見上げていた。太陽のほうに首を巡らしている。
「太陽の場所で時間が分かるん?」
驚いて尋ねると、いや分からん、とじいちゃんはあっさり首を横に振った。
「分からんばってんばあちゃんが朝ごはん作って待ちよるよ。早よ帰らないかんばい」
そう言って、つばの広い麦わら帽子の下で顔を綻ばせ私を見下ろす。
「カナちゃん、家まで競走たい」
オッケー分かったよーいどん! 勝手に叫んで走りだす私を、じいちゃんはゆっくりと追いかける。民家と田んぼに挟まれた田舎道には、さまざまなセミの鳴き声が溢れている。すべてに対して平等に力強く照りつける太陽は、私の夏を祝福してくれている。
「じいちゃんおそーい!」
遠く離れた麦わら帽子に向かってそう声を上げてから、私はお味噌汁の匂いが漂う家へと駆け込んだ。