03
じいちゃんと一緒に、むんと胸を張って最後の深呼吸を終える。終わるとすぐに、みんなぞろぞろとおじさんおばさんのところに群がっていった。今日ラジオ体操に来たという証のハンコをもらうのだ。私も駆けて行こうとすると、じいちゃんが引き止める。
「よかたい。そげん急がんでも」
そのまま上半身を捻ったりして全く動く気配がないので、わたしも仕方なくそこにとどまった。しゃがんで砂に絵を描いていることにする。ワンピースを着た女の子の絵を描こうとしたのにとってもヘンで、むしゃくしゃして両手で砂をかき散らしていると、ビーチサンダルを履いた黒こげの足が二本、私の前にぬっと現われた。上から声が降ってくる。
「パンツ見えよるぞ、カナ」
私はさっと足を閉じて三角座りの姿勢になる。できるだけワンピースのすそを引っ張って足を隠しながら、目の前の黒こげ足の持ち主を睨みつけると、そいつはにっと歯を見せて笑った。歯だけが白くてやたらに目立つ。
「うるっさいわハゲ。見んといてーや」
「ハゲとらんばい! 丸刈りにしよるだけや」
私がハゲという単語を出すと尚貴――ひとつ年上のいとこ――はぷんすか怒って反発してきた。
「だいたいハゲちいうのはじいちゃんのごたっとを言うとばい。なあじいちゃん」
そう言われてもじいちゃんは特に反論するふうもなくストレッチを続けている。
ふと思いだしたように「一人で来よっとね、ナオは」と訊いた声に応えて、尚貴はまたにっと笑い「偉かろ」と頷いた。今日を含めてみっつのハンコがある体操カードを、私に見せびらかすようにかざす。
「ほら見てみーカナ。今んとこ皆勤やぞオレは。カナはまだカードも持っとらんとやろ」
「うるさいうるさい! カナは昨日こっち来たばっかやねん、そんなん当たり前や」
「そげなことは知らん」
尚貴は相変わらずにやにやしながらそう言って、手をタンクトップにこすりつけて汗をぬぐった。私はだんだん目に涙がにじんでくる。悔しくてたまらない。
「いじわるアホ尚貴! どっか行け!」
半分泣きながら叫んでやると、尚貴は困ったような顔になって私を見下ろした。それでも若干笑っている。
「そうかー。せっかくカナもセミ採りに誘ったろーち思いよったけど、そげん言うならやめるわ。じいちゃんも兄ちゃんも一緒に行くけどカナはお留守番なー」
「そんなんひどいわ! 行く行く行くカナも行く!」
今度こそ本当の泣き声になって私は尚貴に訴える。尚貴はまたにやにやした。
「昼食べたらじいちゃんち行くからな、用意しとけよ。泣くなや泣き虫」
「泣き虫ちゃうわ!」
「そしたらその目から流れよるのは何よ」
「もう! 黙れハゲ! どっか行け! 帰れ!」
尚貴が校庭からぶらぶら出て行くと、「カナ、カードもらいに行くか」とじいちゃんが私を呼んだ。わたしは立ち上がってワンピースの砂を払う。大またのじいちゃんに小走りになりながらついて行っていると、じいちゃんが私をうかがって苦笑した。
「いつからそげん威勢の良くなっとったと」
「知らん。大阪みんなこんなんや」
むすっとして答えると、じいちゃんはまた笑って前を向いた。