01
なんだかとっても蒸し暑い。セミがみんみん鳴いている。
夏だ。
じいちゃんちだ。
目を開けて飛び起きると畳の上だった。今日も布団から転がり出ていたらしい。それやからカナにはベッド買ってあげられへんねん。そうこぼす母の声が耳の奥でよみがえる。ずいぶんと遠い声。
そうだ、ここはじいちゃんちだ。小言のうるさいお母さんはここにはいないのだ。
「お、カナ、起きたと。ラジオ体操行くね」
その声に振り返ると、じいちゃんが入り口から部屋を覗いて笑っていた。ハゲた頭に麦わら帽子を乗せて、首に白いタオルを巻いている。
「うん!」
返事をしながらパジャマを脱ぎ散らかす。洋服や宿題の詰まったダンボールを漁っていると、入り口から軽く叱る声音が飛んできた。
「ちゃっ。どげな格好ばしとっとね」
「パンツいっちょー」
軽快に答えてワンピースをすっぽりとかぶる。全体にひまわりがプリントされたノースリーブのワンピース。いちばんのお気に入り。
「ちょっとトイレ!」
宣言してトイレに行き、出てくるとじいちゃんはもうサンダルを履いて待っていた。私も慌ててサンダルに足を突っ込む。三つもついたマジックテープの一番上のものだけを外して、無理やり足をねじ込んだ。
「ばあちゃんいってきまーす」
平屋の奥に向かい声を張り上げる。ガラガラっと豪快な音と共に戸を横にスライドさせて開ける。降り注ぐセミの声にアツアツの陽光。私は小学校のある方へと駆け出す。
「飛び出したらいけんよー、じいちゃんから見えるところでおらないかんばーい」
追いかけてくる声に振り返って「分かってるー!」と叫び返した。じいちゃんは鷹揚に頷くと、日焼けした顔を白いタオルで拭い笑った。