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転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第三章:国家の影

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シーン1:灰の馬車と、笑わない男

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

その日の朝は、妙に静かだった。


いつもなら夜明けと同時に図書館の前で村人たちが列を作り始めるのに、今日は誰一人来ていない。

私はカウンターの椅子に腰を下ろし、ルビの背中を撫でながら、この異様な静けさの意味を考えていた。


「エルド。村が静かすぎる」


「……そうですね。昨日の夜から、なんとなく変な感じがしていました。村人が、口々に『見慣れない馬車が街道を通った』と」


「馬車の数は?」


「……三台だそうです」


私は撫でる手を止める。

ルビが不満そうにキュッと鳴いた。


三台。

村人が誰も来ない朝。街道を来た馬車。

点と点が、一本の線になる。


「来たか」


私は椅子から降り、羽ペンを置く。

今朝まで読んでいた水車の設計書を閉じ、表紙をそっと撫でる。この本を広めるのは、今日が終わってからになるかもしれない。


「リリア様、身を隠した方が」


「なんで?」


エルドの顔が引きつる。「な、なんでって……王都の使節が来るんですよ? 相手は国家権力です。あなたはまだ五歳で——」


「だから隠れるの?」


「……それは」


「逃げたら、向こうは私たちが悪いことをしていると判断する。堂々と迎えれば、これは正当な図書館の運営活動だってアピールできる。どっちが得か、理屈で考えて」


エルドはぐっと黙り込んだ。

彼は私の論理には反論できない。でも、本能的な恐怖は論理で消えるものでもない。私は彼の震える手の上に、自分の小さな手をポンと乗せた。


「怖くて当然だよ。でも——」


「——リリア館長」


マリナが入口の扉を薄く開け、顔だけ覗かせる。彼女の頬は青ざめていた。


「お、お客さん。すごく、怖い感じの。あと騎士さんも、いっぱい……」


「分かった。ありがとう、マリナ。あなたは奥に下がっていて」


「で、でも——」


「大丈夫だから」


私は言い切った。


マリナは唇を噛んで奥の書架の陰に引っ込む。私はエルドに目配せしてから、正面扉の前に立った。


背筋を伸ばす。

深呼吸を一つ。

前世の研究者として、何度も学会の聴衆に向かって立った時の感覚を呼び起こす。


——押し開けられた扉から、朝の冷気が一気に流れ込んできた。


最初に目に飛び込んできたのは、騎士たちだ。

深緑のマントに金の縁取り。腰には長剣。二列縦隊で図書館の玄関前を左右に分かれて整列している。総勢十二名。辺境の廃図書館に差し向けるには、明らかに過剰な規模だ。


その中央に、一台の馬車が止まっていた。


漆黒の車体に王家の紋章——双頭の鷲と本の意匠。それを刻んだ銀の飾り金具が、朝の薄曇りの空の下でも鈍く光っている。御者台には表情のない男が二人、まるで彫刻のように静止していた。


馬車の扉が開く。


最初に降りてきたのは、若い従者だった。ふかふかした羽根飾り付きの帽子を取り、うやうやしく頭を垂れる。


そして次に降りてきた男が——ヴァルグラム公爵だった。


年齢は四十代半ばだろうか。

長身で、やや痩身。深紺の法衣ほういに金糸の刺繍が走り、首元には王立図書塔の紋章が入った細い鎖を下げている。白髪交じりの短く整えられた黒髪。縦に長い鋭い顔立ち。唇は一文字に結ばれ、目は——灰色だ。


感情の読めない、銀板のような灰色の瞳。


「……なるほど」


彼は図書館の建物を見上げ、その一言だけを呟いた。


驚かない。感嘆もしない。

壁の内側で淡く明滅し続けている魔導知識核の光が、窓の隙間から漏れ出しているのに。それを見ても、彼の表情は微動だにしない。


この人は、動揺を見せることを自分に許していない。

前世で何度も見てきた種類の人間だ。国家官僚の最上位に立つ者に特有の、鉄の仮面。


「アーベルシュタット辺境図書館の管理者はどちらか」


従者ではなく、ヴァルグラム本人が口を開いた。

低く、静かで、しかし驚くほど通る声だ。それ自体が一種の圧力になっている。


「私です」


私は一歩前に出て、答えた。


騎士たちがざわりと動いた。

視線が一斉に、私という極めて小さな存在へ収束する。困惑と、軽蔑と、そして驚きが混ざった目つき。


ヴァルグラムだけが、まったく表情を変えなかった。


彼はゆっくりと視線を下げ、五歳の私と正面から向き合う。

その灰色の目が、私を品定めするように一秒——二秒——


「……リリア・アーカイブ嬢、と聞いている。辺境伯アーカイブ家の令嬢で、現在五歳」


「その通りです」


「転入届も、資格証明も、図書館運営申請書類も、一切提出されていない」


「提出窓口が三十年前から機能していないので。申請しようにも送付先がなかったというのが正確なところです。もし窓口を再開していただけるなら、今すぐ書類を揃えますよ?」


沈黙。


ヴァルグラムの灰色の瞳が、かすかに細くなった。

感情の読めないその顔に、ほんの一瞬だけ、何かが過ぎった気がした。驚きとも、興味とも取れる何かが。


「……礼儀は心得ているようだな」


「教養の基礎です。本で学びました。ここは図書館ですから」


私は彼を真っ直ぐに見上げる。


見下ろされている。身長的にも、権力的にも、年齢的にも、あらゆる意味で。でも、目を逸らさない。


前世の私は、どれだけ正しい理論を持っていても、権力者の前では萎縮した。資金を握られ、発表の場を奪われ、最後は論文を未完成のまま過労で死んだ。

でも、今は違う。

今の私には、目の前で証明された事実がある。武器がある。


「王立図書塔管理長官、ヴァルグラム公爵閣下」


私は彼の称号を正確に呼ぶ。


「遠路おいでいただいたことに感謝いたします。ぜひ、中でお話しませんか。お見せしたいものがあります」


ヴァルグラムはしばらく私を見つめていた。

背後の騎士たちが、無言の空気圧で私を押しつぶそうとしているのが感じ取れる。でも私は動かない。


やがて、彼は従者に目配せした。


「……案内せよ」


私は一歩下がり、図書館の扉を大きく開ける。


「どうぞ、閣下。知識は開かれた場所で初めて力を持ちます。王立図書塔の管理者であれば、それはよくご存知のはずです」


ヴァルグラムの足が、廃図書館の敷居を越えた。


後ろから、エルドの緊張で乾いた息継ぎの音が聞こえた。

ルビが、棚の陰からこっそりと顔を覗かせて、私の足元に擦り寄ってくる。


(——さあ。始まりだよ)


私は心の中で小さく呟いた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


リリアの物語を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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