表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第一章:廃図書館の夜明け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

シーン4:停滞の理由と最初の種蒔き

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

エルドと手分けして、まずは一階のフロアを片付け始めた。


埃まみれの本を種類ごとに分け、腐って倒れた本棚の残骸を隅に寄せる。床の石畳を覆っていた三十年分の砂埃を、乾いた雑巾でぬぐっていく。


「げほっ」


私が小さく咳き込むと、隣でモップをかけていたエルドが手を止めた。


「リリア様、やはり僕がやります。五歳の身体でこれ以上の労働は——」


「平気。鼻の粘膜がちょっとびっくりしてるだけ」


私は袖口で鼻先をこすり、手元の雑巾を絞る。水桶の水はすでに真っ黒だった。


「それにしても、見事に空っぽだね」


私は館内をぐるりと見渡す。


さっき本が光を呼んだことで一時的な高揚感はあったけれど、冷静になって見直せば、状況は絶望的だ。かつては数万冊を収蔵できたであろう広大な空間。そのほとんどが空の棚だ。残っている三百冊も、カビが生えたり表紙が取れたりしているものが半分以上を占める。


「エルド。なんでこんなことになったの? 王都から予算が打ち切られたって言ってたけど、そもそも本をどこへやったのさ」


エルドのモップを持つ手が、ぴたりと止まった。


彼は顔を伏せ、少しだけ言い淀んだ後、重い口を開いた。


「……三十年前、『知識統制法』が敷かれたんです。王国の発展は王家が管理する、という名目で。地方の図書館にあった有益な本は、すべて王都の『王立図書塔』へ接収されました」


「有益な本?」


「はい。最新の魔導具の設計図、高度な建築理論、高位魔法の術式……そういった、世界を劇的に進歩させる可能性のある本はすべてです。ここに残されたのは、基礎的な農法や古い歴史書、あとは誰も読まない難解な学術書だけでした」


私は雑巾を水桶の縁に引っかけ、立ち上がる。


「つまり、地方の人間が本を読んで、勝手に技術を発展させないようにしたってこと?」


「……そういうことです。王都は、知識を独占することで国家の安定を図った。辺境の図書館はただの『古い知識の保管庫』に成り下がったんです」


私は目を細める。


なるほど。あの照明魔石の異常な出力を見た後なら、王都の懸念も理解はできる。この世界の「理解すれば技術が進化する」というルールは、強力すぎるのだ。もし悪意を持った人間が強力な破壊兵器の本を深く理解し、それを多人数で共有したら? 一晩で街一つが消し飛ぶかもしれない。


知識の独占は、為政者にとって最も合理的な防衛策だ。


でも。


「……愚かだね」


「えっ」


「知識を一部の特権階級だけで回してたら、いずれ社会全体が停滞する。一部の人間だけが進歩しても、それを支える末端のインフラが追いつかなければ、国は歪むよ。現に、この辺境はどう? 三十年前から何も変わってないんじゃないの?」


エルドは反論できなかった。彼の沈黙が、私の言葉を肯定していた。


冷たい風が、割れた窓ガラスの隙間から吹き込んでくる。肌を刺すような寒さ。これが辺境の現実だ。王都が知識を独占し、光と暖かさを享受している間、ここの人間はずっとこの寒さに耐えてきたのだ。


「なら、やることは決まりだ」


私は腕まくりをした小さな両手を腰に当てる。


「私たちが、ここで知識を解放する。王都が隠した『未来』を、この廃図書館からばら撒いてやる」


エルドが目を見開く。


「リリア様、それは……王都に対する明確な——」


「反逆? 違うよ。ただの『底上げ』。理屈は通るよ? 国全体が豊かになれば、王都だって得をするんだから」


私はにやりと笑ってみせた。五歳の顔で悪い笑顔を作っても、ただの生意気なガキにしか見えないだろうけれど。


その時だった。


——ギイィ……。


分厚い樫の木の正面扉が、重たい音を立てて少しだけ開いた。


「……誰?」


エルドが警戒したように振り返る。


扉の隙間から覗いていたのは、小さな影だった。赤茶色のおさげ髪。擦り切れた麻の服。年齢は十歳か、十一歳くらい。手には、泥で汚れた小さな布包みを抱えている。


「あの……」


少女の声は、か細く震えていた。彼女は私とエルドを交互に見比べ、それから、天井で煌々と輝き続ける照明魔石を見上げた。


「……光ってる。本当に、ここ、魔法が使えるの……?」


エルドが呆然と呟く。「マリナ……? どうして、ここに」


「知り合い?」私が問うと、エルドは慌てて頷いた。


「村の子供です。でも、どうして」


マリナと呼ばれた少女は、おずおずと図書館の中へ足を踏み入れた。彼女は私の方へ向かってきて、抱えていた布包みをそっと差し出した。


中に入っていたのは、黒ずんだ硬いパンが二つと、萎びたリンゴ。


「これ……あげるから。だから、お願い」


彼女は必死の形相で、私を見下ろした。その目には、涙がいっぱいに溜まっていた。


「お母さんの病気を治す魔法、教えて……!」


しんと、静まり返る図書館。


私はマリナの震える手と、その中にある粗末な食べ物を見る。これが、彼女が持てるすべての財産なのだろう。それを差し出してでも、すがりたい希望がここにあると思ったのだ。あの光を見て。


「マリナ、ここは図書館だ。魔法を教える場所じゃない……」


エルドが止めに入ろうとするのを、私は片手で制した。


「エルド、ストップ」


私はマリナの正面に立つ。五歳の私から見ても、彼女は少しだけ背が高い程度だ。栄養状態が悪いのが、その細い手首から伝わってくる。


「お母さん、どんな病気? 咳は出る? 熱は? 体に斑点は出てる?」


「え……あ、うんと、熱がすごくて、ずっとゴホゴホって……血も、少し吐いて……」


結核か、それに類する気管支系の感染症。


前世の知識が瞬時に病状を分類する。この世界に抗生物質はない。でも、栄養と衛生状態を改善すれば、進行を遅らせることはできる。そして、何より——


私は、壁の奥の魔導知識核をちらりと見る。


「治るよ」


「……え?」


「治る」私ははっきりと断言した。「でも、魔法じゃない。知識で治すんだよ」


私は近くの棚に駆け寄り、さっき仕分けした本の中から一冊を抜き出した。分厚い、革張りの本。タイトルは『初等薬草学と衛生管理』。


「マリナ、字は読める?」


「す、少しだけなら……村長さんに、ちょっと教わって……」


「よし。じゃあ、今からここで読書会だ」


私は本を読書台にドサリと置き、マリナの手を引いて椅子の前に立たせた。


「私が読み方を教える。理屈も説明する。あなたはそれを理解する。いい? ただ文字を追うだけじゃない。なぜ手を洗わなきゃいけないのか、なぜお湯を沸かして飲まなきゃいけないのか。その『なぜ』を頭に入れるの」


「で、でも、そんなことでお母さんが……?」


「治る。この図書館が、そういうルールになってるから」


私はマリナの目を見据える。迷いを一切見せない、絶対的な自信を持った目で。


「私を信じな。あなたのそのパンとリンゴの代金分は、きっちり未来で払ってあげる」


マリナの目に溜まっていた涙が、ぽろりと落ちた。彼女は力強く頷き、椅子の背もたれをぎゅっと握りしめた。


「……うん。読む。わたし、読む!」


「エルド! ランプ持ってきて。手元が暗い!」


「は、はいっ!」


私は本を開いた。古い紙の匂いが、ふわりと舞い上がる。


ここから始まるのだ。


王都が見捨てた辺境の廃図書館で。五歳の幼女と、十七歳の青年と、一人の村の少女。


たった三人から始まる、世界のアップデートが。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


リリアの物語を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ