表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第一章:廃図書館の夜明け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

シーン2:本が光を呼んだ夜

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

天井の照明魔石は、ほぼ死んでいる。


三つ並んでいるうちの一つはすでに完全に砕け、残り二つも表面が黒ずんで薄暗い橙色の光しか出していない。日没まであと一時間ほどだろう——外からの光が角度を落とし始めて、館内はじわじわと夕暮れの色に染まっていた。


「読めないね」


私は壁際の読書台に一冊の本を広げながら、ぽつりとこぼす。


「ろうそくを持ってきます。一応、備蓄が——」


「待って」


エルドが立ち上がりかけたのを、私は手のひらで制する。


農業改良論を拾った棚の隣。そこに、薄い水色の表紙の本が埃を被って差さっていた。さっき本棚を直したついでに目に入っていたのだ。表題は『燃素理論と光熱変換の原理』。


前世の知識と照合する。


燃素理論——フロギストン説。十八世紀ヨーロッパで信じられた、燃焼の誤った解釈。でもそれ以前に、この本が「光熱変換の原理」を扱っているということは——


「照明魔石の仕組みが書いてある本、だよね、これ」


エルドが首をかしげる。「そうです。魔石の構造に関する古い学術書かと。でも専門的すぎて、ここ三十年、読んだ人間は——」


「私が読む」


取り上げて、開く。


紙は変色していたけれど、文字は丁寧に残っていた。丁寧な細字で、理論式らしきものと図解が並んでいる。この世界の学術文体特有の回りくどい言い回しはあるけれど、内容の核は単純だ。魔石は内部に魔力をため込み、それを光エネルギーへ変換する。変換効率は魔石の純度と、魔力の「波長」に依存する。


読む。一行ずつ、確実に。


ただ文字を追うのではなく、理解する。前世の物理知識と結びつける。光のエネルギーは振動数に比例する——プランクの式。魔力を「エネルギー媒体」として置き換えると、この世界の照明魔石は実質的に発光ダイオードに近い仕組みで動いている。入力する波長の精度が低いから、変換効率が落ちる。だとすれば——


ぱっ、と。


光った。


「——え」


エルドの声が、裏返った。


天井の照明魔石、残り二つ。そのうちの一つが、突然、白に近い輝きを取り戻した。橙色の薄明かりだったものが、一瞬で図書館の奥まで届く清澄な光になる。棚の間に伸びていた影が消え、床の石畳の目地まで鮮明に浮かび上がる。


私は本から目を上げて、天井を見る。


「……光量、三倍以上は出てる」


「なんで、どうして——」


「本を理解したから」


エルドが石のように固まっている。口が半開きになって、天井と私の手元を交互に見ている。


「……理解した、だけで?」


「魔石の仕組みが書いてある本を、理解した。そしたら実際の魔石の出力が上がった。——これがこの図書館の法則だよ、エルド」


「そんな、馬鹿な」


「馬鹿じゃない。再現性がある。さっき農業改良論を読んだ時も、壁の核が光った。偶然が二回続く確率より、因果関係を仮定する方が合理的でしょ」


エルドが、ゆっくりと椅子に座り直す。


頭を抱えるような仕草をして、でも視線は天井に釘付けのまま。その白い光の中に、彼の真っ直ぐな目が照らされている。


「……信じられない」


「信じなくていい。まず検証しよう」


私は本を持ったまま、館内を歩き出す。読書台から窓際へ。窓際から奥の書架へ。天井の魔石は、私が動いても光り続けている。本を持ったまま歩くだけで光が変わるわけではない——「理解」が発動条件だ。つまり、理解は継続的な効果をもたらしている。


「ねえ、エルド。この図書館に来た人間の記録、ある?」


「……三十年前まではあります。閲覧台帳が、裏の収納室に」


「そこに、最後に誰かが読んだ記録が入ってる本は分かる?」


エルドがようやく立ち上がる。ぎこちなく、でも確実な足取りで。


「三十年前の最終来館者は……農業関連の本を一冊借りていったという記録が」


「今、その本は館内にある?」


「……戻されていません」


「だよね」


そう呟いて、私は手の中の本を見る。


光熱変換の原理。ここに書かれた理解が、魔石を動かした。ならば——この図書館に蔵書が戻り、それを理解する人間が増えれば増えるほど、出力は上がり続ける。農業の本を理解すれば作物の収穫量が増える。建築の本を理解すれば建物の強度が上がる。衛生の本を理解すれば病が減る。


理解した人数分だけ、この世界の技術が動く。


「……すごい」


思わず声に出ていた。前世の私が、どれほど一人でデータを積み上げ、論文を書き、それでも世界の何も変えられなかったか。この世界では——本を読んで、理解して、それだけで現実が変わる。


でも今、この図書館の本を読める人間は、私とエルドだけだ。


「エルド」


「……はい」


「一人で理解するのと、百人で理解するのと、どっちが効果が大きいと思う?」


沈黙。


でも答えは出ている。エルドの顔が、ゆっくりと変わっていく。困惑から、理解へ。理解から、何か大きいものへの——畏怖のような表情へ。


「……人数が多いほど」


「そう」


「だとしたら、この廃図書館が——」


「人が集まれば、国を動かす」


言い切る。


天井の白い光が、静かに、でも確かに、図書館全体を照らし続けている。


三十年間、誰にも読まれなかった本たちの間に、今夜、光が戻ってきた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


リリアの物語を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ