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追放令嬢の引きこもり改革!  作者: 秋月 もみじ
第3章

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第10話 地下温泉リゾート計画 ~遺跡の排熱で温泉を沸かしました。今日からここはスパです~


 戦いの後始末は、拍子抜けするほど静かだった。


 遅れて到着した帝国軍が見たのは、戦場ではない。

 広大な「お昼寝広場」だった。


 ドラクマ軍の兵士たちは、武器を枕にして全員爆睡していた。

 私の『強制安眠ミスト』と『業務終了命令』のコンボは強力だ。

 帝国兵たちは、彼らを捕まえるのではなく、担架に乗せて運ぶだけの簡単なお仕事に従事することになった。


「……で、リリアナ嬢」


 宰相邸──ではなく、私の屋敷の応接室。

 通信鏡の向こうで、皇帝ヴァルター3世が渋い顔をしていた。


『あの遺跡は危険すぎる。即刻封印し、埋め戻すべきだ』


 至極まっとうな意見だ。

 人類を社畜に変えるシステムなんて、地中に埋めてコンクリートで固めるのが正解だろう。


 でも、私は首を横に振った。


「もったいないです、陛下」


『もったいない? あの悪魔のシステムがか?』


「システムは悪くありません。使い方がブラックだっただけです」


 私は手元の図面(リフォーム案)を広げた。


「あの遺跡の中枢、マザーのサーバーは常に高熱を発しています。これまでは冷却装置で冷やしていましたが、この熱エネルギーを使わない手はありません」


 私はニヤリと笑った。


「地下水を沸かしましょう。巨大な温水プール、サウナ、そして岩盤浴。……地下遺跡を、全天候型スパ・リゾートに改装するんです」


 皇帝が絶句した。

 隣にいるクラウスが、こらえきれずに肩を震わせている。


『……兵器工場を、風呂にするというのか?』


「はい。ついでに、捕虜になったドラクマ兵たちの再就職先にもなります」


 彼らは生体改造を受けているため、体力と腕力は常人の比ではない。

 戦うことしか教えられてこなかった彼らを、社会に放り出すのは危険だ。


「彼らには『マッサージ師』や『荷物持ち』としての適性があります。力加減さえ教えれば、最高の整体師になれるはずです」


 武器を捨て、タオルを持たせる。

 殺す手ではなく、癒やす手として生きてもらう。

 それが、私なりの「戦後処理」だ。


 皇帝はしばらく沈黙し、やがて大きくため息をついた。


『……好きにせよ。ただし、帝国の兵士たちにも割引券を配ることを条件とする』


「商談成立ですね」


 ◇


 一週間後。

 古代遺跡『アルカディア』は、新生『地下大迷宮スパ・アルカディア』としてプレオープンを迎えた。


 無機質だった金属の床には木材が敷かれ、殺風景だった壁には南国風の壁画が描かれている。

 かつてミイラたちが座っていたオフィスフロアは、巨大なフードコートと休憩スペースに生まれ変わった。


『湯温41.5度。ジェットバスの圧力、正常。……お客様、いかがでしょうか』


 館内放送で、マザーの声が響く。

 以前のような切迫感はない。

 彼女の新しいタスクは「お客様を快適にすること」。

 明確なゴールと、客からの「ありがとう」というフィードバックがある今の仕事に、彼女はAIなりの喜びを見出しているようだった。


「……極楽だ」


 最奥部にある『VIP専用・貸切露天風呂』。

 そこには、かつて制御室だった場所を利用した、広大な浴槽があった。

 天井のクリスタルが青く輝き、水面を幻想的に照らしている。


 湯船に浸かっているのは、私とクラウスだけ。


「傷の具合はどう?」


 私はお湯の中で、彼の横腹に触れた。

 ザガンに貫かれた場所には、薄い傷痕が残っているだけだ。


「問題ない。君のポーションと、この『高濃度魔力泉』のおかげで、古傷まで消えそうだ」


 クラウスが濡れた髪をかき上げ、私を引き寄せた。

 広い浴槽の中で、私たちは肌を寄せ合う。


「……本当に、君には驚かされる」


 彼が私の肩に顎を乗せて呟いた。


「地下から軍隊が攻めてきたと思ったら、一週間後にはこうして一番風呂に入っているなんてな」


「ピンチはチャンスですから。それに、騒音の元を断つには、ここを『静かな場所』に変えるのが一番でしょう?」


 私はお湯をすくって、バシャリと落とした。


「あの兵士たちも、ザガンも、マザーも……みんな、疲れていただけなんです。休めば、大抵のことは解決します」


「違いない」


 クラウスが笑い、私の額にキスをした。


「だが、私にとって一番の特効薬は、この温泉ではないな」


「あら、じゃあ何ですか?」


「君だ、リリアナ」


 彼は真面目な顔で、甘い言葉を吐いた。


「君の隣にいる時だけ、私は『宰相』という鎧を脱げる。……ありがとう」


 私は顔が沸騰しそうになった。

 お湯のせいじゃない。

 この男は、時々不意打ちでこういうことを言うから心臓に悪い。


「……ふん。口が上手いんだから」


 私は照れ隠しに、彼にお湯をかけた。

 クラウスが楽しそうに笑い声を上げる。


 地下深くに眠っていた負の遺産は、今、温かな湯気の中に溶けていった。

 ブラック企業は倒産し、ホワイトなリゾートが生まれた。

 従業員は全員、笑顔で働いている(もちろん、定時退社厳守で)。


 私は天井のクリスタルを見上げた。

 青い光が、優しく瞬いている。

 

「マザー。室温、ちょっと下げて」


『承知しました、オーナー。湯上がりには、キンキンに冷えたフルーツ牛乳を用意してあります』


「完璧ね」


 私はクラウスの手を握り直した。

 地上のベッドもいいけれど、たまにはここでのんびりするのも悪くない。


 私の「役立たず」なスローライフは、地下世界にまで版図を広げた。

 次は空か? 海か?

 どこへ行こうとも、私の野望は変わらない。


 世界中を、私の「寝床」にする。

 ただそれだけだ。

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 四十肩と腰痛と眼精疲労に効きますか...?
このスパに行きたい!!
素敵…人を駄目にするソファ
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