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追放令嬢の引きこもり改革!  作者: 秋月 もみじ
第1章

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第2話 辺境開拓 ~初日で家が建ちました。全自動ライフの始まり~


「お、お嬢様……本当にここでよろしいのですか?」


 御者の震える声で、私は目を覚ました。

 馬車の窓から外を覗く。

 鬱蒼とした森。立ち込める霧。

 遠くから聞こえる、獣の遠吠え。


 王都を出て五日。

 ついに到着したようだ。私の楽園、ヴォルグ荒野へ。


「ええ、ここでいいわ。ありがとう」


 私は荷物を持って馬車を降りた。

 荷物といっても、手提げ鞄ひとつだけだ。

 中身は最低限の着替えと、魔力回復用の干し芋。

 あとは全部、私の頭のプログラムにある。


「そ、それでは! 私はこれで失礼します!」


 御者は私を降ろすや否や、逃げるように馬車を走らせた。

 無理もない。

 ここは人間が生きていける場所ではないとされている。

 彼は私が自殺志願者に見えたのかもしれない。


 土煙を上げて消えていく馬車を見送り、私は大きく伸びをした。


「さて」


 静かだ。

 社交界の喧騒も、王太子の怒鳴り声もない。

 ただ、殺気だけが濃密に漂っている。


 ガサッ。


 背後の茂みが揺れた。

 振り返るまでもない。

 殺気の方向からして、三体……いや、五体か。


「グルルルル……」


 現れたのは、赤い体毛を持つ狼型の魔獣、レッドウルフ。

 牛ほどの大きさがある。

 涎を垂らし、飢えた目で私を見定めていた。


 普通なら悲鳴を上げて逃げ惑うところだろう。

 でも、逃げると疲れる。

 走るなんて論外だ。


 私は右手の人差し指を、指揮者のように軽く上げた。


(対象識別:敵性生物。ランクC)

(処理フロー起動:迎撃 → 解体 → 素材分別)

(実行)


 脳内で構築したコードが、魔力となって世界に干渉する。


 ヒュンッ!


 風を切る音と共に、私の周囲に展開していた不可視の「自動迎撃魔法」が作動した。

 圧縮された空気の弾丸が、正確無比に狼たちの眉間を貫く。


 ギャンッ!


 五体同時に絶命。

 無駄な戦闘時間はゼロ秒。


 だが、私の魔法はここで終わらない。

 倒れた狼の死体がふわりと浮き上がると、真空の刃が皮を剥ぎ、肉を切り分け、骨を砕く。

 一瞬で「レッドウルフの毛皮(上質)」「魔石」「食肉」に加工され、私の足元に綺麗に整列した。


「うん、動作確認よし」


 私は満足げに頷いた。

 これが私の固有スキル【自動化オートメーション】。

 一度手順を組んでしまえば、あとは魔力が続く限り、勝手に仕事をしてくれる。


 素材は亜空間に放り込んでおく。

 毛皮は冬用のカーペットにいいかもしれない。肉は今夜のステーキだ。

 魔物が「資源」に見えてくる。


「次は、家ね」


 野宿は嫌だ。

 虫に刺されるのも、固い地面で寝るのも御免だ。

 快適な睡眠には、堅牢な壁と屋根、そして空調が不可欠である。


 私は周囲を見渡した。

 手頃な岩場と、巨木が立ち並んでいる。

 建築資材には困らない。


(建築モード起動)

(設計図読み込み:タイプ『引きこもり要塞ver.3.0』)


 指先を動かす。

 周囲の岩がひとりでに砕け、直方体の石材へと変わっていく。

 木々が必要な分だけ伐採され、乾燥、製材されていく。


 ガガガガガッ!


 まるで早回しの映像を見ているようだ。

 石材が積み上がり、土台ができる。

 柱が立ち、壁が張られ、屋根が乗る。


 接合部には接着魔法。

 隙間風対策に結界魔法。

 断熱材の代わりに、空気の層を固定する術式を壁に埋め込む。


 所要時間、約十分。

 荒野のど真ん中に、不釣り合いなほど立派な石造りの平屋が完成した。


「ふう……少しMPを使ったわね」


 軽い目眩を感じながら、私は完成した我が家へ足を踏み入れた。


 中は広すぎず、狭すぎない。

 掃除が面倒なのでワンルームだ。

 だが、設備にはこだわっている。


 まず、床。

 全面に「ホコリ分解魔法」を付与してある。

 ルンバも掃除機もいらない。床が勝手に綺麗になる。


 次に、キッチン。

 蛇口をひねれば水が出る。

 地下水脈から水を汲み上げ、ろ過し、適温に温めて循環させるシステムを組んだ。

 王都の上水道より清潔で美味い水だ。


 そして何より、寝室。

 部屋の奥、一番日当たりの良い場所に鎮座するのは、キングサイズのベッド。

 スライムの体液を特殊加工して作った、低反発マットレス。

 鳥型魔獣の羽毛を詰め込んだ布団。


「……完璧」


 私はよろめきながらベッドへダイブした。


 ぼふん。


 体が沈み込む。

 柔らかい。包み込まれるようだ。

 王宮の硬いベッドとは雲泥の差。

 これが、私が求めていたもの。


「あー……幸せ……」


 窓の外では、私の魔力に惹きつけられた魔物たちが集まってきている気配がする。

 だが、家の周囲五十メートルには「自動迎撃タレット(ゴーレム製)」を四機設置済みだ。

 近づく者は全て、明日の朝には素材に変わっているだろう。


 私は枕に顔を埋めた。

 明日も起きなくていい。

 誰にも命令されない。

 ただ、生きて、寝て、食べるだけ。


 なんて素晴らしいんだろう、無職。


 意識が急速に遠のいていく。

 私は今日一日分の(主に移動で疲れた)労働を労い、深い眠りの底へと落ちていった。


 この時、私はまだ知らなかった。

 私が設置した迎撃タレットの殲滅速度が早すぎて、森の生態系が一晩で変わりかけていることを。

 そして、その異常な魔力の波紋が、国境を越えて隣国の監視網に引っかかったことを。


 まあ、知ったところで起きたりはしないけれど。

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