90 『ネヴァス』7733
まるで暗闇を凝縮したような存在だった。雪明かりが白を撒く中で、ただ一箇所だけ夜が濃くなる。フードの影に顔は沈み、口元しか窺うことができない。見えるのは、乾いた唇の形と、かすかに覗く歯。しかし、嘲笑っているような気配は届く。
全ての元凶。どこまでこの男が関与して、どこから関係ないのかわからない。しかし、わかっているだけでもその凶悪さは筆舌に尽くしがたい。魔王の騎士クルーガや元老院に呪いを掛け、エリアを断罪させようと仕向けた。地霊族を扇動して、コズネスと戦争させようと画策した。そして、八年前の内戦でも様々な暗躍をしたと考えられている。特にその起因となった先代魔王の暗殺事件も、自らがやったと主張している。どこまで真実かはわからないが、全て事実だとすれば、ここ数年にあった争いの大半はこの男が引き起こしたと言っても過言じゃない。魔王城の庭で会戦した時、こいつを逃がしてしまったのが悔やまれる。
男は退屈そうに腰を浮かすと、ひょいと屋根の縁から飛び降りて、俺と相対するように立った。骨断ち包丁を担ぐように肩へ当て、とんとんと小刻みに動かしている。彼は俺の影に隠れているスズナを見た。スズナの肩が微かに強張る。
「ま、たいして導き手ちゃんには期待してなかったがなぁ。だが、せっかく抑え込んでいた感情の引き出し方を教えてやったのに、こうも簡単に丸め込められちゃってサァ?」
「……お前がスズナを唆したのか」
「唆したって他人聞きが悪いねェ。ただ少しちょっとだけ枷を外してやっただけさ。あのどす黒い憎悪の塊は導き手ちゃんが自前で持っていただけだろ。オレに責任はねえよ」
反省の色は全くなかった。知っている。前に会った時もそうだったから。包丁の刃が男の肩で小さく鳴る。とん、とん。まだ戦うつもりはないらしい。俺にとっても好都合だ。補填魔法で左掌の傷を塞ぎながら、少しでも情報を得ようと対話する。
「どうやって村に入った。導き手の奇術がなければ境界は越えられないはずだ」
俺はふつふつと湧き上がる怒りを抑えて、ぞっとするほど低い声で問い掛ける。状況から考えると、スズナがどこにも見付からなかったのは、黒ローブの男に連れ去られていたのだろう。そして男によくわからないことを教え込まれた。しかし、スズナの所在がわからなくなったのは、村まで帰還してからのことだ。彼女が自分から村の外へ出ようとしない限り、接触することはできないはず。
俺の疑問に、男は薄く嗤った。
「そうみたいだなァ。二日ほど何度も村へ入ろうと試したが、妙な術式に弾かれてサ。ほんと困ってたんだよ。だけど、運がいいことに?」
「……そういうことか。討伐隊が村へ帰還する時に紛れていたんだな」
「正解だ。いやあ、勇者サマに気付かれそうになった時はヒヤヒヤしたぜェ? だが、村にさえ入ってしまえば、俺の勝ちさ」
「言ってろ。どんな企みをしていても俺が止める」
男は肩の包丁をとん、とん、と人差し指で弾き、歯を見せて笑った気配を作る。
「その自信がいつまで持つかなァ。――白き尾を靡かせる諸君!」
男は長いローブの裾を翻し、両手を空へ広げた。遠巻きに見ていた者たちの視線が集まる。何をするつもりだ?
「オレの名前はネヴァス! 憎しみを愛し、壊す者! お前らはいまこの瞬間、オレを心の底から憎む。必ず憎まなくちゃいけない! なぜならオレが、このオレが八年前の内戦を引き起こした張本人だからだ! 先代魔王クラディオを殺し、そして地霊族や白狐族へ罪を擦り付け、内戦が触発されるように民衆を扇動した! 全てこのオレがやったことだ! さあ、恨め。憎め。心からの憎悪をオレに向けてみろ。くははっ、八年前の清算を今から始めよう!」
周囲の隊員が息を詰める気配。松明の明かりが揺れ、影がネヴァスと名乗った男の足元で濃く溜まる。男は両手を空に広げたまま無防備だ。血気盛んな若い隊員がカタナへ右手を添えて、一歩踏み出した。
「てめぇが!」
「やめろ! 狙いがわからない、挑発に乗るな!」
男の自白は事実がほとんどかもしれないが、この瞬間に発言したのは意味があるはずだ。煽られて激情してしまうと思う壺になる。
すんでのところで飛び出しかけていた青年を押し留めると、黒ローブの男――ネヴァスは面白くなさそうに舌打ちした。
「なぜ止める!? 復讐はあの内戦を生き残った全員に与えられた権利だ! オレが憎いんだろ? 殺してやりたいんだろ? 八年間も抑えつけていた感情をいま解き放てばいい。オレがその重い愛を受け止めてやる。さあ、オレを殺してみろよ!」
「俺は、俺たちは……!」
「――やめろ!」
制止の声を振り払って、隊員のひとりがカタナを抜いて斬り掛かった。止められない。ネヴァスは嬉しそうに笑いながら骨断ち包丁で迎撃する。それを皮切りに、遠巻きに見ていた隊員たちが揃って斬り掛かった。そこかしこで抜刀剣術の発光。俺の声は届かない。
俺は動けない。スズナが狙われてしまえば厄介だ、ひとりにはできない。だが、俺が目の前で繰り広げられている戦闘を止めなければならない。矛盾した状況、心だけが逸る。この場にエリアが、ファイドルが、リオウがいればよかったのに。
「攻めろ――!」
「行かせろ、今だッ!」
「数で押し込め!」
言葉は雪に吸われ、若い隊員の足音が先に届く。抜刀の閃き。ネヴァスが笑う。
「そうだ、来いよ。もっと恨みを寄越せ!」
力量が離れすぎていた。踏み込んだ一人目の刃が、包丁の腹で易々と弾かれ、肘の角度をひとつ変えただけで柄頭が喉に入る。乾いた音。倒れる音。二人目は袈裟に斬り下ろすが、雪の面で脚を払われ、刃は空を切った。三人目の刺突は、包丁の欠けで引っかけられて逸らされ、肩口を浅く裂く。血が白に散った。ネヴァスは飄々と位置を入れ替えながら捌き続ける。雪牙隊の隊員たちは複数人でも攻めきれない。
憎め、恨めと。ネヴァスは叫びながら、同時に抑揚のねじれた声で詠唱を始めた。音の端が冷え、周囲に魔力が渦巻く。こうなれば俺も加勢するべきだ。しかし、スズナをひとりには……
「――光を否定する存在。真理は決して晴れぬ心の濁流」
雪が鳴り、足元の影が一拍沈む。低く笑って、詠唱を続ける。
「覆え煙霧濛濛の白昼夢――」
ネヴァスは最後の一節を詠んだ。魔法が完成する。
「絶念の霧」
一瞬のことだった。視界の端から端まで純白で染め上げられた。雪じゃない、一歩先も見通せない濃霧だ。指先を目の前に掲げると、輪郭が溶けていく。それほどの濃さ。音が方向を失い、前後左右の紐が切れて、聴覚の床が抜けたみたいだ。近くにいた隊員たちの気配も遠ざかる。息を吸えば、冷たさではなく重さが入ってくる。これは魔法の専門家であるエリアさえ晴らすことができなかった濃霧だから、なおのことたちが悪い。ただ俺のコートの裾を掴んでいるスズナの温かさだけが、確かに感じるものだった。
しまった、と俺は歯噛みする。事前にその詠唱が濃霧を出現させる魔法だとわかっていれば、無理にでも中断させるため飛び込むべきだった。あの中庭で既に経験している俺は問題なくても、雪牙隊の彼らはこれが初めてだ。咄嗟に対応できるはずがない。さらには、魔法などで吹き飛ばすこともできないのだから、彼らの焦りも理解できるもの。
ただ彼らの心配をしているだけではない。どこから攻撃が来るのかわからない。俺はスズナを抱え直し、感覚をさらに尖らせた。視覚には頼らない。
「――こっちだ」
「来たぞ! 右だ――違う、左だ!」
「斬られた」
若者たちの声が全方向から届く。白い海を黒い影が縫うように泳いでいる。刃の位置は見えない。ただ、空気が一瞬だけたわむ。まれに乳白の幕が裂け、骨断ち包丁の背だけが黒く光っては消える。そして、どさりどさりと連続して倒れる音。やられている。彼らにとっては慣れない戦場だ。アドバイスをしたかったが、適切な言葉はどこにもない。
歯痒い気持ちだが、俺は動けない。打てる手は限られていた。俺はスズナの耳元で静かに伝える。
「スズナ、協力してくれ。俺たちだけ外に出すんだ」
「っ! わかりました!」
言葉が少なくても作戦の共有は滞りない。感情をぶつけ合った仲だ、心の奥深くでどこか繋がりを得たような感覚があった。
黒い影が白い海を縫う。ネヴァスが吠えるたび、隊員の息が荒れる。背で誰かが倒れる気配。雪の鳴き声。とんとん、と骨断ち包丁が肩を叩く音。倒れる音は右斜め前。次々と隊員の怒号が減っていく。きっと無事だと信じたい。俺は歯を食いしばり、その瞬間を待った。
そして――
「待たせたなァ?」
ご丁寧に正面から斬り込んでくるネヴァス。その動線はスズナに重なっている。やはり最後には彼女を狙うのだ。だからこそ、俺は世界の理を捻じ曲げる手段に出る。
「スズナ!」
「――はい!」
しゃらん。
軽やかな音が世界を一変させる。白い世界は赤く染まった世界へ。時間帯は黄昏時。出端を挫かれたネヴァスは、たたらを踏んで立ち止まる。周囲を見渡して、理解して、嗤う。
そう、この場は俺とスズナとネヴァスの三人だけ。地に伏した隊員たちはどこにもいない。世界が変わったのだ。――しゃらん。さらに鳴る。次は澄み渡った青空が美しい世界。――しゃらん。そして三度目。薄暗く、陽が沈んで一刻も経っていない宵闇。月光に照らされて、荒廃して打ち捨てられた村が浮かび上がる。同じ場所に重なっているという外の世界に、俺たち三人は隔離された。ここならば、周囲の被害を考える必要なく戦うことができる。
ネヴァスは嗤った。嗤う。腹の底から愉しそうに嗤う。
「くはははっ、はは! やられた! まさかそうするなんてなァ!」
乾いた嗤いが月まで昇る。宵闇の村は息を潜め、崩れた屋根と折れた梁が生き物の歯のように空を噛んでいる。風は尾根から吹き下ろし、左頬を撫でた。ここは外の世界。三人だけだ。
「なら、ここからは二人だけの世界だ。――スズナ、退け」
導き手の奇術は術者を中心に発動するらしい。だから、必然と彼女も俺たちと一緒に移動してしまったが、ネヴァスを外の世界に隔離できたいま、戦場にスズナのいる場所はない。俺の足枷になるだけだ。
「わかりました」
狐面の奥からしっかりとした返事が聞こえる。もう弱音はない、決意に溢れた声音だ。――しゃらん。音は細く、遠い。月明りが歪む。世界が軋んで、その場所から少女の姿が消え去る。これで彼女は安全圏に逃げることができた、脅かされる心配はない。二度目の音が聞こえないのは、境界で待機しているのか。
ネヴァスが舌を打つ。
「ちっ、つまんねェなあ。弄ってやろうと思ってたのによ」
「お前の手は、もう届かない。二人だけで決着を付けよう」
「まあいいか。それも面白そうだしなァ。――光を否定する存在。真理は決して晴れぬ心の濁流」
向き合った状態で、ネヴァスはあの濃霧魔法の詠唱を始める。俺は動かない。動く必要もない。雪牙隊の青年たちと違って、あの魔王城の中庭で俺は既にその魔法を体感しているし、俺ひとりならば問題なく戦えることもわかっている。俺はその魔法の完成を待った。
「覆え煙霧濛濛の白昼夢――」
それにしても、ネヴァスが紡いでいる詠唱は全く聞いたことがないものだ。一般的な魔法体系である起句・主句・装句・終句の四文節に分割できないし、そもそも神聖語ですらない。白狐族の奇術に似ていなくもないが、どこか違うと直感が訴えている。まるで世界の理そのものに干渉しているような感じだ。
「絶念の霧」
世界がまた白で満たされた。視界は端から端まで乳白で塗り潰され、輪郭は溶ける。だが、左頬を打つ風は変わらない。風上は左、背には折れた梁の根元。右前二歩のところに、崩れた井戸の縁石――ここを起点にする。
ここから視覚は邪魔になるだけだ。俺は両目を閉じて、微弱な感覚だけに頼る。やはり濃霧の中では明瞭に気配を察知することはできない。が、問題はなかった。とん、とん――半拍。包丁が肩で鳴り、音が止む。そこから来る。右後方、首の高さ。空気が撓む。俺は半足だけ左へ体を滑らせ、振り返りざまに刃を寝かす。白が掠め、霧が薄く裂け、包丁の背だけが黒く光っては消えた。
防がれたとわかると、ネヴァスは後退して濃霧に消える。そして刹那、全く逆の方向から骨断ち包丁が迫る。すんでのところで伏せるように避けて、不安定な体勢のままその場所へ宵闇の剣を滑らす。当たることはなく、また逃げられる。また別方向から攻撃。白い海を斬り裂いて飛来してきたのは二本の短剣。投擲だ。素早く剣を振り払って弾き落とすが、その気が逸れてしまったところで、さらに別方向からネヴァスが躍りかかってくる。
今度は高い。ほとんど頭上だ。俺は一歩潜って、剣を撓らせながら斬り上げる。手応え。硬い。包丁が弾かれて、霧がばらけた一瞬、ネヴァスの口元が輪郭を持った。追撃しようと踏み込むより先に、ネヴァスの気配が霧に紛れる。全方位からの波状攻撃。男はこの戦い方を熟知していた。
呼気が白にもならない白で散る。耳を澄ます。とん、とん――今度は三拍。溜める気配。前からだ。宵闇の剣を正眼に構えて準備するが、ふっと煙のように気配が消えて、そして後方に現れる。瞬時に振り返りながら半身に剣を置いて防ぐが、衝撃は想定していた以上だった。骨断ち包丁には気持ち悪く蠢いている黒いオーラ、剣技が発動していた。不壊黒鉄製の剣が折れることはなかったが、勢いを殺し切ることはできず大きく吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
ぼろぼろに風化した家屋の壁を突き破り、俺の身体は木製の床に転がる。ネヴァスはその隙を見逃さず、骨断ち包丁を片手に突っ込んでくる。なりふり構わず、転がるように剣を振って迎撃し、その反動で立ち上がる。数合の打ち合いを繰り広げながら移動し、屋外へ。雪の下には砂利の感覚があるから、どうやら庭に出たらしい。戦場が悪すぎる。四方を家屋に囲まれていて、物影が多すぎる。屋根もあるから、頭上側からの攻撃も注意しなければいけない。庭石がごろごろと転がっていて、足回りも悪い。俺は敵が得意とする戦場に迷い込んでしまったらしい。ネヴァスもそれを理解しているのだろう、そこで追撃をぴたりと止めて、霧の奥に姿を隠した。
戦況は互角。俺は防戦一方だが、神出鬼没のネヴァスが振るう骨断ち包丁を全て防ぐことができている。だが、何かひとつでも状況が変われば、天秤が釣り合わなくなるのは確実。俺はこのひとときの静寂を利用して、ネヴァスの分析を始める。癖でも、攻撃の法則性でも何でもいい。どれかひとつでも理解できれば、有利になる。
最も不思議なのは、多方向から迫る攻撃だ。中庭での激戦でも同じことを考えた。まるでこの戦場に何人もの敵が存在していて、一斉に攻撃されているような感覚だ。明らかに移動する時間なんてなかったのに、前の攻撃から間髪入れずに別方向から包丁が肉迫する。濃霧での戦闘に慣れているから、そんな理由で説明できない不自然さ。いったい乳白の奥で何が起こっている――
そこまで考えた時、視界の端で翠緑の光が瞬いた。濃霧に紛れて見失いそうになるほど弱弱しい光。記憶が刺激された、どこかで見たことがある。意識がそちらに引っ張られるが、すぐさま別方向から迫る攻撃に引き戻される。眼前で激しい火花が奔り、宵闇の剣と骨断ち包丁が交差する。――なるほど、やっと理解した。
「ネヴァス」
流れるように逃げようとしてた彼の名前を呼ぶと、ネヴァスは怪訝な顔で立ち止まった。濃霧で互いの身体の輪郭が蝕まれる距離。
「どうしたァ? まさか、もう限界だなんていうなよォ?」
「いいや。ネヴァス、お前の戦い方はもう通用しない」
「あァ?」
「その不自然な動き――転移魔法だろ?」
「…………」
長い沈黙。図星だ。
転移魔法。古の大戦で失われたという魔法のひとつで、僅か一瞬で莫大な距離を移動する魔法。しかし、それがただの伝説ではないと俺は既に知っている。魔界からフロゥグディへ、地霊族の村から魔王城へ、二度も俺は実際に経験していた。なにも誰かが再現したのではない、転移魔法そのものが封じ込められた魔石のような遺物をエリアが所持していたのだ。それがあったからこそ、徒歩ならば数年は掛かる距離を俺たちは移動できた。
そう、それがここ白狐族の村まで来た理由のひとつだ。転移魔法が刻まれた遺物はその二度の使用に耐えられず、割れてしまった。だから同じような長距離移動の手段を探して、ここまで来た。
そこまで考えて俺は思い当たる。エリアが残した意味深な言葉を反芻する。
「――石は割れる。割れれば使えぬ?」
そういうことか。先ほど見た翠緑の光が転移魔法だとすれば、理屈は簡単だ。攻撃して、濃霧に隠れて、転移して、別方向から攻撃。そう考えれば、明らかに移動する時間なんてないのに多方向から攻撃できたことも説明できる。しかし、転移魔法が自前で再現したものでなければ、それは遺物によるもの。とはいえ、それは数回使用してしまうだけで割れてしまう。だから、魔王城の執務室まで転移した時、エリアの掌には粉々に砕けた石の破片が残った。
覚えている。同じものを見たことがあった。魔王城の中庭でネヴァスと戦って取り逃がしてしまった直後、雪の上に砕けた魔石の結晶が落ちていた。ということは――。
「ネヴァス。お前は転移魔法が封じられた遺物をいくつも持っているんだな」
遺物は数回の使用で割れる。貴重なものだとすれば、戦闘に用いないはずだ。しかし、彼は何回も利用していた。それならば、同じものをいくつも持っていると考えるのが道理。どこで手に入れたのかは不明だが、湯水の如く利用できるならそれなりの量があるに違いない。
考えがそこまで行き着くと同時に、俺はエリアの先見性に驚嘆した。ネヴァスが移動する方法の絡繰りに気付けるように、あんな助言をしていたのだ。しかも、その時点でネヴァスが村へ侵入しているかもしれない可能性と、俺が彼と会戦する可能性まで考えているのだ。もはや先見性という言葉で表される範疇になく、本当に彼女は全てを見通していたのだろう。仲間のカタナ使いソラカゼの一件もあるし、偶然ではない。やはり魔王らしいと改めて思った。
ネヴァスは俺の確信を交えた推測に、暫く沈黙していた。そして、おもむろに嗤い出す。
「――あはっ、あはははァ! まじかァ! 気付かれてしまったかァ! ああ、そうさ。種も仕掛けもない、ただの転移魔法だ!」
ネヴァスは俺へ見せるように左手を広げた。きらりと指の間が煌めく。指に挟まれているのは、四つの結晶。あれが転移魔法の封じ込められた遺物。俺とエリアが追い求めていたものがそこにあった。




