74 カタナ使いと弓兵7708
天に一度昇った太陽が、地平線に落ちる夕焼けの時間帯。
多くの動物が昼間の活動を終えて、これから眠りに就く時間帯。
人間も例外ではない。野営道具を広げ、寝床を準備し始める。そんな時間帯。
訪れる夜の帳に目が慣れず、襲う眠気に抗えない。この時間はあらゆる生命が最も警戒を疎かにしてしまう。
だからこそ、彼らの肉を喰らう魔物にとっては、絶好の狩りの時間になるのである。
「ウオォォーーン!」
今夜の獲物を見付けた一匹の獣が吠えると、散開していた仲間たちが一ヶ所に集う。
闇へ溶け込むような漆黒の毛皮に、赤い瞳。額から突き出た特徴的で立派な角。知性ある者がホーンウルフと名付けた中級位の魔物だ。
集まったホーンウルフの数は五匹。その中で身体が一際大きく、威厳ある風格を漂わせたホーンウルフが、見付けた獲物を遠目で観察する。
人間が一人。装備を見るからに中級の冒険者で、街に帰るつもりが深い森に迷ってしまい、帰れなくなってしまったのだろう。そして、都合がいいことに、野営の道具を忘れたようで、天幕を設置する様子はなく、とぼとぼと歩いているのが見える。
今夜の飯に丁度いい。ホーンウルフの長はそう判断した。
「――ウォン!」
短い一鳴き。他のホーンウルフは頷き、再び散開する。長は遅れて、その後を疾走する。
ホーンウルフは単体だとそこまで強くない。だが、最も知性ある個体が他を束ねて、群れで行動する。群れて獲物を追い掛け回し、疲れ果てたところで寄ってたかって仕留める。
親から教えてもらった狩りの仕方だ。これまでそれで失敗したことはなく、動物の中でも冒険者の中でも恐れられる存在にまでなった。何度か頭の回る冒険者たちが徒党を組んで討伐しようとしてきたこともあったが、長は頼れる配下を指揮して返り討ちしたのみならず、何人も胃の中へ収めてやった。
今回はもっと簡単だ。相手はただの冒険者が一人。しかも、挙動不審な様子から考えると手練れではなく駆け出しの冒険者。囲んで同時に奇襲すれば、仕留めるのは容易いだろう。
少し久しぶりの御馳走だ。人の肉は美味い。彼らは普段から良いものを食べているから、その肉は酷くバランスが取れた味をしていて、クセもない。親が狩ってきた人間を初めて食べた時の感動は、今でも忘れられない。だが、最近はその味にありつけないことが多かった。非常に癪だが、知恵ではホーンウルフを勝る人だ。ホーンウルフの狩場が周知されているのか、冒険者がうろつくことはなくなった。とはいえ、今日は運がいい。獲物を見付けたのだから。
口内に記憶の味が広がり、唾が溢れ出す。我慢しなくても、その味はあと少しで現実のものとなるだろう。
散らばった配下たちが、また一点に集まろうと疾走する。その中心には、とぼとぼと歩く人間。奴はホーンウルフには気が付いていない。それも当然だ。地面を見ているばかりで警戒もしていないし、周囲には木々が散立している。姿は見えないはずである。
よし、いまだ!
配下五匹が一斉に宙へ踊り出し、一直線に噛みつこうと青年へ迫る。
殺った。
そう確信したのだが、嫌な予感が脳裏を駆け巡る。
ただの悪い勘だ。だが、過酷な環境を生き抜いてきた魔物にとっては、ただの勘でも馬鹿にできない。
にやり、と白髪の青年が笑った気がした。
ホーンウルフの長が配下を引き留めるよりも速く、青年が動いた。
こちらが見えていないはずなのに、腰の武器を抜刀。
「――危急存亡」
声が届いた瞬間。
純白の閃光が迸り、赤い花を散らす。
目にも留まらぬ速さだった。
青年を取り囲むように飛び掛かっていた配下五匹が、血飛沫を散らしながら吹き飛ばされた。どちゃりと音を立てて落下する。
その光景を前に、頭が真っ白になる。
いったい何が起こった。理解できない。いや、理解したくない。刹那の間に、冒険者の武器によって我が配下を切り捨てられたなんて。
ホーンウルフの長は血の気が失せた顔で、仲間の元へと走り寄る。ああ、まだ致命傷だったらどんなによかっただろう。冒険者の剣は正確に喉笛を斬り裂き、既にその命を絶えさせていた。その瞳に光は宿っておらず、最後まで自分が死んだのを理解していないようだった。
見渡す。他の配下も見る限り息をしていない。そんな、あいつらは、こんな青年にたった一太刀で殺されたというのか。自分を支えて百獣の王にしてやると嬉しそうに語っていた仲間が。
――グルルルゥゥッ!
憎悪。憤怒。
よくも、よくも、我が配下を。
感情に任せて、白髪の青年へと疾走する。冷静に考えれば、仇討ちなんて悪手なのだろう。配下五匹を刹那にして絶命せしめる技量ならば、ホーンウルフの長であっても瞬く間に切り捨てるはずだった。ホーンウルフは群れで狩りをする生物。集団が瓦解した時点で勝ち目はなかった。だが、あいつらがいない世界なんて到底耐えれぬものだし、せめて一矢報いなければ顔向けできぬ。
踏み込み、跳躍。牙をこれでもかと尖らせて、冒険者に迫る。絶対に、絶対にその喉仏を喰い千切ってやる!
静かな声が響いた。
「乾坤一擲」
顎が虚しくかみ合わされる。僅かに青年は後ろへ身体を倒し、ホーンウルフの攻撃を紙一重で避けた。続けて、滑らかな動作で武器を振るう。
首元に灼熱が奔った。
突如、ぐるぐると回転する視界、脳を焦がす莫大な痛み。
そこで視界の端に、頭部のない獣の身体が見えた。理解が追い付く前に、意識が闇に飲まれる。暗転。
「……終わったか」
青年は呟きながら武器を払って、そこに付着していた血糊を落とした。確かにこの武器は最高級で頑丈だが、付着した血を放置していると錆びて切れ味が悪くなってしまうのだ。夜が訪れるまでには手入れしなければ。
青年は静かに武器を鞘へ納刀すると、頭上を見上げて誰もいない虚空に話し掛ける。
「付近の様子はどうだ?」
常人であれば気が狂っていると思う光景であるが。
しかし、その質問に答えが返ってくる。
「うん。風の動きだと周囲に他の仲間はいないみたいだね。これで依頼は達成、今日は豪華な食事にありつけるぞ!」
「……街に戻るのはお前だけだ。あんな敵だらけの場所に長居したいとは思わない。俺はいつも通り野宿するから、エニセイは得た金で遊んで来い」
「えー、私一人だと嫌かなあ。ギルドに証拠届けて報酬貰ったら、戻ってくるよ。目が見えない私が一人で行動しても面白くないもん」
不貞腐れた口調の主が、木の幹から降りてくる。
薄汚い格好をしている、エニセイと呼ばれた少女だ。両目に眼帯を巻き、ぼさぼさの髪を十把一絡げに纏めている。身体を包むローブはぼろぼろ過ぎて、乞食と間違われても不思議ではない。ただ、それなりに高身長である少女の背を越える無骨な弓が背負われてなければの話だが。
エニセイは眼帯越しに青年と目線を合わせた。目が見えなくても周囲の風を読み、たいていのものを知覚することができる彼女は、感極まったと飛び跳ねて表現する。
「それにしても凄かったよ。たった一太刀でホーンウルフ五匹を倒した姿には胸がきゅんきゅんしたよ! 迸る一閃、飛び散る血潮、そして佇む英雄の後ろ姿! まっ、もっとも私は姿なんて見えないんだけどねー」
「俺にそのような評価は必要ない。だが、お前こそいつも通り凄いな。あのホーンウルフにここまで近距離で存在を気取らせないなんて」
「まあまあ、私って弓兵だし? 当然っしょ!」
「それでいい」
ふんす、と自慢げなエニセイに投げやりな言葉を返しながら、青年は地に転がる魔物の屍に近付く。腰から一振りの小太刀を取り出したのは、ホーンウルフからギルドへの提出品を回収するためである。
本当は魔石を取り出すつもりだったが、幸いなことに、仕留めたホーンウルフは名前通りに立派な角を有している。通説だと、ホーンウルフの角は突進時に敵へ突き刺して動きを鈍らせるものであり、加えて長すぎると却って食事の邪魔になったりとする理由から、角を消耗武器のように使い捨ているのが一般的だ。それゆえ、立派な角があるのは珍しい。
「これだと高く買い取って貰えそうだ。後は収納魔法の容量が許す限り素材を詰めて、残った肉は食べるぞ」
「えー、狼の肉とか歯応え悪くて嫌なんですけど! ねえ、ソラカゼ。街で何か一緒に食べない?」
「……却下だ。敵だらけの街に滞在したくない」
ソラカゼと呼ばれた青年は淡々と魔物の死体を解体しながら、素っ気なく答える。
敵だらけ。
どこを見ても魔族、左も右も魔族。
ソラカゼの故郷は魔族に滅ぼされた。だから魔族を憎んでいる。
殺して殺して殺し続けても満たされない憎悪。わかっている、故郷を滅ぼした敵はそんなところにいない。殺しているのは関係のない一般人。でも、殺し続けなければ死んだ皆が報われない。
本当はこうして魔族の街への侵攻を控え、足りぬ資金を賄うため、冒険者ギルドの依頼を受けているのも不本意なのだ。
その点はエニセイも同じであるはずだ。
彼女は自分の話をしたがらないが、断片的な話を繋げれば、両親を殺したのは魔族で、エニセイから視力を奪ったのも魔族であるはずだ。それにも関わらず、気軽に魔族の街へ行く選択肢を薦めるその心が、ソラカゼにとっては理解できなかった。
一度、その理由を本人に聞いたことがある。エニセイは答えた。目の見えない世界で、顔もわからない相手に憎しみを持つことは難しい、と。こうも答えた。エニセイが共に魔族を殺しているのは、ソラカゼたちがそうしているからだ、と。
「……そうなると、エイジはいったいどこで何をしているんだ?」
同じ観点に則ると、ソラカゼたちの仲間だったエイジは単純だった。故郷と両親を殺された憎しみ、それだけを胸に戦ってきた。ゆえに、エイジがここで復讐の旅から離脱するのは考えにくいことだ。エイジが失踪して、その後を仲間のアガサが追ってから一カ月以上。最後に届いた連絡は、エイジを追っているはずのアガサが送った一週間前のものだけだ。しかも、なぜか人界へ向かっているという頓狂な内容の。
「そろそろ次の連絡が来てもおかしくない。もし、来なければ俺たちだけで行動する必要がある」
「まあいいんじゃない? たまには休息も大事だと思うし。それに、たまにはこうして二人だけで気楽な旅をするのもいいかもね。だってほら、みんなと一緒に旅している時はソラカゼっていつも喋らないもん。今こそチャンス。普段は聞けないことをどんどん聞いていくよ」
「……勝手にしろ。答えるかどうかは俺の自由だ」
その突き放したような態度は、長くは続かなかった。
「じゃあ、遠慮なく。――ねえ、その身体を覆っている薄い膜ってなに?」
「ッ!」
予想もしていなかった鋭い言葉に声が詰まる。喉の奥で小さく息を噛み殺し、ソラカゼは振り返る。視線は自然とエニセイの顔――いや、眼帯に向いた。薄汚い布の向こう側にある虚ろな瞳はどこを見ているのだろう。
「……なぜ」
短く問うと。
「風が教えてくれるんだ。空気の舌触りが違う。ソラカゼの肌の上だけ、薄く撥ねる層がある。ほら、焚き火の熱の前で指先を滑らせると、ふっと揺れる膜があるでしょ? あれに似てる」
言いながら、エニセイは両手を胸の前でぱたぱたと動かす。ふざけた仕草に見えて、その実、彼女はいつも真剣だ。だからこそ、彼女の問いは軽口に紛れても、刃物のように核心を捉えてくる。
「それって魔法?」
「魔法じゃない」
「魔法だよね」
「違う。ただの護りだ。森を渡るための」
「ふうん?」
気のない返事。しかし、彼女の体温が半歩こちらへ寄る。ソラカゼが半歩下がると、エニセイはさらに一歩踏み出す。
「なんで逃げるの?」
「……」
逃げている、そう表現されてまで、伸ばされる細い腕を避けるほどの度胸はなかった。彼女の指先が服の表面を無造作につついた。見えていない指先が、膜の端に触れる。ぱり、と乾いた音が響く。びくり、とソラカゼの肩が跳ねる。刹那、目の奥に微光が走った。赤い――それを自分で自覚した瞬間、喉が冷たくなる。
「――やめろ」
無意識に伸びていた左手で、彼はエニセイの手首を掴んでいた。強すぎないようにと思ったが、指は細い骨を三本とも確かめてしまうほどに深く沈む。エニセイが小さく息を吸う。痛みではない、驚きでもない、やっぱりという納得した顔だ。
ソラカゼは急に彼女が恐ろしく感じた。これについて指摘されたことは一度もない。今まで最も近くにいた仲間のエイジや、この方面に最も精通している最恐の魔術師アガサにさえ。だからこそ、誰にも気付かれてないと慢心していた。気付かれないと自負していた。なのに、こんな加護さえ持っていないただの人族が隠していたものを見破るなんて。いったいいつからだ。あの村で霹靂の魔王と名乗る少女と交戦した時か。それとも、まさか最初から……?
喉の奥で燻る猜疑と焦燥を、ソラカゼは奥歯で噛み砕く。掴んでいたエニセイの手首の骨の細さが、ふっと現実に引き戻した。自分の指が彼女の皮膚に食い込んでいる。遅れて、強ばった力を解く。
「悪い」
「ううん。……やっぱり、痛くはなかったよ」
痛みの有無ではない、とソラカゼは言いかけてやめた。彼女に触れた瞬間、薄膜がきしんで、内側に籠めた熱がひと息ぶん漏れたのを、彼自身が一番よく知っている。怒りは匂う。覆いがなければ、森の底にまで流れていく。ソラカゼにとってエニセイは仲間だ。刃を向けるべき敵ではない。
「私、ソラカゼのこと信じているから。いつか私に教えてくれるって。今はそれでおしまい」
「……いずれな」
それで充分、と彼女は頷いた。余計な言葉を重ねない。風のように通り過ぎる気遣いに、ソラカゼの肩の力が僅かに抜ける。気まずさを誤魔化すように、ソラカゼは直前の作業に指を戻す。
小太刀の刃は淀みなく腱を断ち、角の根元を探っては、鈍い手応えの直前で止まる。毛皮を綺麗に削いで革袋へ落としていく。収納魔法なんて便利なものは使わない。というより、使えない。魔法への適性が全くない地霊族と同じように、ソラカゼは魔法だけは扱うことができなかった。加護を持たないエニセイの収納魔法も容量が少ないので、必要な素材だけ選別して残りはここに置いていく。小太刀の刃に付いた血糊は草で拭い、丁寧に鞘に収める。エニセイはそのすぐ後ろで、風の指先で周囲を撫で、近付く気配の有無を確かめていた。
「……さっきの話だけどさ」
「どれのだ」
「エイジのこと。連絡。私はね、焦らなくていいと思うの。追ってるアガサがついてるなら、糸は切れない。風って、そういうとこ律儀なんだ」
「風に律儀などあるのか」
「あるよ。私がそう決めたから」
子どもの理屈のようでいて、妙に説得力があった。エニセイは口許をゆるめ、背負い弓の弦を爪ではじいて調子をみる。薄い音が膜に吸われて消えた。
「……終わった。角は五。牙は二十。皮は一枚、傷が多いが使える」
「十分。ギルドの買い取りで飲み食いには困らないね。って言うと、また『街には行かない』って返すんでしょ?」
「行かない」
「はいはい。じゃ、野営場所を探しに行こうよ。もう陽が暮れるから……」
エニセイは言いながら、踵を返す。歩幅は軽いが、足裏は地味に確かだ。彼女は両目が見えていないのに、周囲の存在を知覚できるらしい。魔力で練った風を薄く空気に混ぜて、その流れを汲み取るのだと説明されたことがあったが、魔法を使えないソラカゼには真似できないことだし、そもそも興味すらない。ただ、本当に杖も使わず周囲の枝葉にもほとんど触れずに移動していくその姿は、不思議な光景だった。彼女はその特殊な創造魔法があるからこそ、加護を持たない身であるにも関わらず、勇者一行として行動を共にできたのだ。
ソラカゼはエニセイに従って森を進んでいく。エニセイの役割は斥候のようなものだが、索敵能力や状況把握能力に優れているため、共に行動する時は彼女が先導する。加護を持つソラカゼですら察知できない距離が離れていても、彼女は風から敵影を読むことができる。
だからこそ、ぴたり、と彼女が立ち止まったことで、敵の接近かとソラカゼは身構えてしまった。そしてエニセイは呟く。
「ごめん。焦らなくていいって言ったの撤回するよ。……焦った方がいいかもしれない」
「なぜ?」
「だって――」
エニセイは唇を尖らせ、風の流れを指で示す。そこまでされて初めてソラカゼはそれを感知した。薄膜が微かに震える。遠くで――羽の打つ、整った律動。薄暮と暗闇の境目に、白いものが点になって現れ、すうっと糸を手繰るようにこちらへ傾いてくる。
ばさりっ、と音を立てて白い鳩がソラカゼの肩に着地した。
アガサが使役している伝書鳩だ。その足に紐で括り付けられているのは、待ちに待った連絡であるはずだ。
ソラカゼはまず長旅を労うようにわしゃわしゃと撫でて、エニセイは収納魔法から餌を出して与えた。前の手紙が本当だとすると、この伝書鳩は遠く離れた人界からソラカゼたちの魔力を頼りにここまで来たのだろう。……それにしては、あまり疲れているようには思えないが。
ソラカゼは紐をほどいて、鳩の足から回収した封筒のしわを丁寧に伸ばした。隣から覗き込むエニセイが言う。
「風を読む私には文字が認識できないから、いつも通り読み聞かせしてねー」
そう頼んだエニセイは、しかし、何かに気付いたように声を上げる。
「……ん? その封蝋、いつもと違う蝋で留められてる?」
僅かな空気の流れが違うだけで、目が見えぬというのにエニセイは封蝋がおかしいことに気付いた。封筒は赤い蝋で密閉されている。これは他の者に中身を見られていないことを保証するためのもので、いつものことだ。しかし、いつもと異なる点は施された封印の意匠だ。
アガサが使う封蝋は整世教会のシンボルである正七角形をモチーフにしている。だが、手中の封筒に付けられているのは、星や月といった天体のデザインを取り入れた複雑な幾何学的模様。
そこまで把握した途端、ソラカゼは身の毛をよだたたせた。
「ソラカゼには誰からの手紙かわかる?」
エニセイが尋ねてくるが、どうでもいい。ソラカゼにはその封蝋が誰のものか心当たりがあった。実際に見たことはないが、存在だけは知っている。世界でたった一人だけしか使用を認められないもの。まさか、どうして、そんなはずは。
「……魔王の封蝋」
魔族を統べる王。今の時代だと十二代目霹靂の魔王エリアしか使えない封蝋が、アガサからの手紙に付いていた。
いったい、何が起こっているんだよアガサ。その呟きは声にならず、喉の奥で響いただけだった。




