通夜
閉店した
[裏地]という酒場で
私は生まれた者の責務
[自分の死を待つ事]
を全うする。
放置されたギターラが
まるで旧約に登場する
小動物の死骸の様に
横たわる店内で・・
【QUIDQUID AUTEM PINNULAS ET
SQUAMAS NON HABET,
REPTILIUM VEL QUORUMLIBET
ALIORUM ANIMALIUM,
QUAE IN AQUIS MOVENTUR,
ABOMINABILE VOBIS】
【水や川に住むもののうち、
鱗の無いものは皆、
忌むべきものである】
見たまえ。
奏者のいない割れたギターラ・・
机の上に置かれた果物の死骸・・
籠の上の死んだセモラ鯛・・
皆、死骸だ・・
運命に見捨てられた者達。
ならば今夜は
死体を見張る通夜。
私は不機嫌な墓守となる。
ああ、
こんなに重い湿度の夜だろうと、
恋人達の陽気な夜だろうと、
ファドは奏でられるべきだ。
それは生きる者の務めだから・・
冷たい机上に置かれた
レンガ色の貝
チフィネルス・ラビアトゥスの様に
固い嗚咽と苦しみは
生きる者の特権だから・・
【VIDENTIBUS OCULIS TUIS ET DEFICIENTIBUS
AD CONSPECTUM EORUM TOTA DIE】
【お前の目は
腐りながらも彼らを見つめる】
そうだ。
死者の分際で真昼に嫉妬し、
無駄に血を流し、
誰もが魂の痛みに苦しむ。
我らは羨望に目を背ける事を
許されない。
胴枯れ病や、
赤錆病に
罹患しながら
永遠の命に浸る事を
許されない。
横たわるセモラよ。
腐汁と腐臭がお前を包み込み、
乾いた黄土色の葬儀を
執り行うまで、
私はその
見張り番となろう。
貧困と飢えと破壊を
その身に受け、
それでも陽気な猫の様に笑う
寡婦の誇りを
私は知っている。
神よ、なぜ貴方は
哀れさをいつも
夜の中に見失うのか?
ああ、
鱗の無い
水の中の者達に哀れみを!!
教えてくれ・・
ヌタウナギよ。
死んだ魚にも歌はあるか?
泥の中にも救いはあるか?
【ET QUICUMQUE MORTICINA
EORUM TETIGERIT,
POLLUETUR ET ERIT IMMUNDUS
USQUE AD VESPERUM】
【そして
彼らの死体に触れる者は、
夕方まで穢れるであろう】
おお、この世は
死体の山だ!!
虚しい霊安室だ!!
強き者よ・・
神に見捨てられた魔女よ。
ああ、私は知りたい。
死んだセモラ鯛の秘密を・・
ユダヤの秘儀を・・
しかし、
それは恐らく
悲しみで出来ているだろう。
かつてのユダヤが
そうであった様に・・
おお、
その悲しみを
分かち合おうとすらせずに、
我々は、
旧約の民を見棄ててしまった・・
よって、寡婦は子供達を連れ、
姿を消してしまった・・
キリストは今も
十字架に架けられたまま・・
籠の上には
セモラ鯛が死んだまま・・
皆、死骸だ・・
だから、
それが罪と孤独って事さ。
私達皆が、自分でしでかした事だ。
それだけは私は知っている・・
だから従うんだ。
神の呪いを受け、誰もが
従わざるを得ないんだ・・
【PROCEDO JAM,
BABAE, NEQUE DOLEO JAM
QUICQUAM NEQUE AEGRE FERO】
【私は進んでいく・・
悲しみや、痛みに嫌悪し・・】
それでも笑って、
逞しく生きる事は
通夜の夜に
祝宴を繰り広げる事と同じでは?
ああ、そうだ。
その様な陽気で反骨的な
神との対話を
皆、去っていく
この通夜の様な地上でこそ
私は大笑いしながら望んでいる。