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第98話 終焉の狂詩曲、王都決戦!

 ガシャーン!


 謁見の間の巨大なステンドグラスが粉々に砕け散り、夜風と共に絶望が舞い込んだ。

 宙に浮かぶ第三王女マーサと侍女アルディスの禍々しいオーラは、王宮の荘厳な空気を一瞬にして死の色に塗り替えていく。


「ごきげんよう、お姉様。そして……真実から目を背け続ける、愚かな父上と母上」


 マーサの声には純粋な殺意ではなく、冷徹なまでのこの日を待っていた感が滲んでいた。

 彼女が高らかに腕を掲げると王都の上空に浮かび上がった巨大な魔法陣が脈動し、街のあちこちから絶望の悲鳴が上がり始めた。


「魔獣だと⁉ この王都に!」


 エルグランド公爵が窓の外を見やり、驚愕に目を見開く。

 マーサは玉座に座る父王と、震える実母マリッサを見下ろして囁く。


「父上、母上。教えてくださいな。なぜ、我が国はこれほどまでに腐敗しているのですか? なぜ、グリーンウェル叔父上の悲劇は歴史から抹消されたのですか? わたくしはただ、真実が知りたいだけ。この国を蝕む膿を、全て白日の下に晒したいだけですの」


 マーサの言葉が終わると同時に、凝縮された闇のエネルギーが玉座に向かって放たれた!


「陛下をお守りしろ!」


 鋼の鎧を着た近衛騎士たちが一斉に王の前に立ちはだかるも、闇の奔流に触れただけであっさり吹き飛ばされてしまう。


「儀式の準備は整いましたわ。さあ、始めましょう? この腐った国に真実という名の鉄槌を下す、最後の祝宴を!」


 マーサがそう言って手を振り下ろすと、謁見の間の床からも禍々しい紋様が光を放ち、異形の魔獣たちが次々と召喚されていく。


「馬鹿な……!」

 

 騎士団長が愕然とする間に、巨大な爪を持つ魔獣が騎士団をまとめて薙ぎ払う。

 鎧が引き裂かれて宙を舞う。王宮騎士団は、わずか数秒で沈黙した。


「ひぃっ……!」


 第二夫人マリッサは悲鳴を上げて腰を抜かしていたのだが、そんな彼女を庇うように1人の女性が凛として前に立った。

 豪華なドレス姿でありながら、手に細身の剣が握られている。


「母上!」


 リイナの叫び声で誰だかわかった。

 リイナの母、王妃マーマレードだ。


 キィン!


 王妃の一閃が、闇の奔流を寸分の狂いなく切り裂く。


「なっ……⁉」


 マーサが驚愕に目を見開いてる中、俺は思わず鼻の下を伸ばした。


(うおおおおお! あれがリイナの母親! 王妃様か! 髪型以外リイナと瓜二つじゃねえか! つまり、リイナが成長したらああなるってことか! あの気品! あの美貌! そしてあの隠しきれないおっぱい! 最高だぜ! 処女じゃない経産婦なのが残念だ! いや待て……母娘丼こそ勇者の特権って言うよな?)


 って、んなこと考えている場合じゃねえ。魔獣だと⁉ マーサ王女、とんでもねえことしやがって!


「老骨をこき使わせるとは……やれやれじゃな。ほれ、カレンも働け。儂より倒さなければべナルティじゃ」


「やってるっての。ペナルティねえ。あたしが勝ったら曾祖父さんがペナルティな!」


 パーカッションじいさんとカレンの大魔法が、魔獣たちを次々と屠っていく!


「私もカレンちゃん側で参加します!」

「私の呪殺した分も、カレンさんに加算です。……フフ」


「ちょっ⁉ 老人虐待じゃあああああ!」

 

 アンナもレイラちゃんもフルスロットルで稼働した。

 これは王宮の雑魚掃討は、みんなに任せて大丈夫そうだな。

 

 俺は即座にリュカたちに向かって叫んだ。


「リュカ! ウッド! シルフィ! ミャミャ! ここは俺たちに任せろ! お前らは街へ向かってくれ! 王都の市民を、あのクソったれな連中を守ってくれ!」


「……セイヤ。分かった。必ず守り抜いてみせる!」


「了解した。死ぬなよ……セイヤ」


 リュカは俺の意図を即座に汲み取り、仲間たちに号令をかける。

 黄金の剣閃と孤高の斬撃が、謁見の間に溢れた魔獣の群れを瞬時に切り裂き、道を切り開く。


「まったく……カッコつけだけは一級品だな。顔が悪いのが残念だ」


「にゃっはっは、性格も残念にゃ」

 

 シルフィの矢とミャミャの爪が続き、彼らは市民を守るべく、嵐のように戦場を駆け抜けていった。

 くそう、覚えておけよ、ビッチどもめ。


 リュカたちが去った直後、俺の目はマーサとアルディスの間に立つ男の姿を映し出した。


「おっさん……!」


 そこにいたのは死んだ魚のような目で虚空を見つめ、無表情で佇む、魔法学校の新人教師にして41歳童貞、フェリックスのおっさんだ。


「フェリックス殿! どういうことだ! マーサ! 彼をどうしたのだ!」

 

 リイナが叫ぶも、おっさんからの返事はない。


「無駄ですわ、お姉様。彼はもう、わたくしたちの忠実なる駒。グリーンウェル叔父上の魂を受け入れるための、最高の器ですもの」


 マーサがクスクスと笑って告げる言葉が合図かのように、フェリックスのおっさんの全身からどす黒いオーラが噴き出した。


【グリーンウェル(憑依体)】

【最終性交時間: 22年と6ヶ月3日前(相手:故・妻・マリア)】


 『リア充チェッカー』が仕事をしやがった!

 ただ表示は一瞬でかき消え、再び無機質なウィンドウがポップアップする。


【フェリックス(人間・魔導士)】

【最終性交時間: 無】


 表示が目まぐるしく点滅し、俺の脳を混乱させる。

 グリーンウェルとフェリックスの人格が、おっさんの身体の中でせめぎ合っているのか⁉


「マーサ! お前のやり方は間違っている! 真実を求めるなら、こんな方法ではない他の方法が……!」

 

「黙りなさい、お姉様! 貴女のような太陽の下で生きてきた者に、日陰者の気持ちなど分かりはしない!」


 マーサ王女の魔法が炸裂するもリイナの剣が切り裂く。

 こうして、王女姉妹の戦いの火蓋が切って落とされた。


「アルディスさん! あなたの目的はなんですか! なんでマーサ王女に手を貸すんですか!」


 アンナの問いにアルディスが不適に笑い、美しい顔が歪み。

 

「 私の目的のために、マーサの力が必要なだけよ」


「リイナの邪魔させるわけにいかない。曾祖父さん、魔獣は任せた。アンナ! レイラ! あたしたちであの侍女を止める! 多分、グリーンウェルの次に厄介なのが彼女だ! セイヤ……」


「みなまで言うなカレン。おっさんは俺に任せろ。みんな、頼んだぜ。リイナの姉妹喧嘩の邪魔させんな」


「なんじゃ? ペナルティ勝負は儂の勝ちになりそうじゃな」 

 

「ああ、それでいいさ。曾祖父さん」


 フッと、パーカッションじいさんに笑みを浮かべるカレン。

 俺でもわかるぜ。どっちがカッコいいかがな! 

 

 カレンの獄炎、アンナの拳、レイラの聖なる光がアルディスへと殺到する。


「ひ孫のくせにかっこつけおってえええええ」


 おっ、パーカッションじいさんのやる気スイッチが爆上がりだ。

 もう雑魚は、じいさんに任せて安心だな。


「おっさん! どっちが喋ってんのか知らねえが、まとめてぶん殴って正気に戻してやる!」

 

「「黙れ小僧!」」


 俺はギリリと拳を握りしめ、二つの魂がせめぎ合う、最強にして最弱の敵と対峙した。


「セイヤ……! 逃げろ……! 俺に、構うな……!」

 

 フェリックスのおっさんの、苦悶に満ちた声が聞こえる。


「勇者セイヤ……! 貴様だけは、この俺が直々に葬ってやる!」

 

 グリーンウェルの、威厳に満ちた低い声に変わる。


 グリーンウェルが手をかざすと、足元から黒い結界の壁が突き出して俺を襲う。

 俺は咄嗟に【リア充絶対殺すマン】を発動させて壁を拳で粉砕した。


「くっ……! まだ俺の意識が……邪魔をするか……!」

 

「おっさん! 負けるな! 41年間の非モテ魂を思い出せ! あの屈辱を! 孤独を! 今こそ力に変えるんだ!」


「黙れ小僧がああああああ!」


 リア充絶対殺すマンが発動しては消え、発動しては消える。

 グリーンウェルの圧倒的な力と、フェリックスの非モテ魂による抵抗の狭間で、俺は紙一重の攻防を繰り広げるしかなかった。

 やりにくいぜ。グリーンウェルとタイマンなら何とかなるかもだが、童貞フェリックスのおっさん相手だと俺は瞬殺される。

 どうにかして、フェリックスのおっさんを引き剥がさねえと。


 こうしてリイナ対マーサ。

 カレン、アンナ、レイラ対アルディス。

 パーカッション対魔獣群。

 そして、俺対グリーンウェル&フェリックス。


 王都の運命を賭けた、終焉の狂詩曲が幕を開けた。

 

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