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第95話 ただいま、愛すべきクソったれな王都冒険者ギルドへ

 数日間に及ぶ旅路の果て、俺たち勇者一行はついに王都の壮麗な城門をくぐった。

 ロンブローゾでの死闘とフェリックスのおっさんとの奇妙な別れが、まるで遠い昔の出来事のように感じられる。

 門を抜けた瞬間、懐かしい活気と喧騒が俺たちを包み込んだ。


「ふぅ……。ようやく戻ってきたな」


 リイナが安堵のため息をつく横顔は、故郷に戻った安らぎと、これから始まる王宮での尋問への覚悟が入り混じった複雑な色をしていた。


「お腹すきましたー! 王都に戻ったら、まずはギルド飯屋の『ドラゴンステーキ・火山ソース添え』って決めてたんです!」


 アンナが目をキラキラさせ、子供のようにはしゃいでいる。

 まったく、こいつの頭の中は食い気と経験値のことしかないのか。

 まあ、そこが可愛いんだけどな! どんどん食べておっぱいを成長させるんだぞ。決して横幅増やすんじゃないぞ。


「王宮へ向かう前に、まずはギルドへ寄って情報収集といきましょう。セイヤさん、私もお腹が空きました」


 レイラちゃんが俺の袖をくいっと引きながら、上目遣いでねだってきやがる。

 くそっ、可愛いじゃねえか! 演技でタカってるだけだと分かってるのに! くっ、金ならいくらでも出してやるしかない!


「カレン、王都は初めてか? 案内してやるからなんでも言いな」

 

「……別に。それより、本当にいいのか? あたしみたいなのが王宮に入っても。あたしは勘当娘だぜ?」


 カレンが不安そうに呟くが、リイナが力強く肩を叩いた。


「何を言う。君はもう、我々の大切な仲間だ。父上には私が責任を持って話を通す。何も心配いらん」


 ……ああ、いい光景だぜ。

 リイナも、アンナも、レイラも、カレンも、俺がいないところでどんどん仲を深めてやがる。

 俺が女体化していた時の、あの楽しかった女子トークの輪に男の俺はもう入れねえんだ。

 ほんの少しだけ寂しい気分だが、まあいい。

 この光景を守るためなら、俺はなんだってできる。


(……それに、俺にはまだ、やるべきことがあるからな)


 俺たちは一直線に冒険者ギルドへと向かった。

 ギルドの中は相変わらず、汗とエールと微かな血の匂いが混じり合った、独特の熱気に満ちている。

 俺たちの姿を認めた冒険者たちが、「おお、勇者様御一行のお帰りだ!」「ロンブローゾでのクーデターを鎮圧したって噂は本当だったのか!」と、ざわめき始める。


 フッ……悪名も、ここまでくれば英雄譚か。悪くない気分だぜ。

 そんな喧騒の中、俺たちの目に見慣れた4人組の姿が飛び込んできた。


「セイヤ! 無事だったか!」


 声をかけてきたのは黄金のナイト、リュカだ。その隣にはウッド、そしてシルフィとミャミャもいる。

 4人とも俺たちと別れた時より幾分か精悍な顔つきになっている気がする。王都で何やら調査をしていたはずだが、順調に進んだのだろう。

 まあ、連中の頭の上の表示はいつも通りだったがな!


「おう、お前らこそ元気そうじゃねえか」


 俺がにやりと笑い返すと、ウッドが静かに頷いた。


「ああ。お前たちのおかげで、王家の闇の一端を掴むことができた。……感謝する」

 

「にゃはは、セイヤ、ちょっと見ない間にまたブサメンになったにゃ? 前よりもっとブサメンにゃ」

 

「ミャミャ、やめなさい。……だが、セイヤ。貴様にはまだ貸しがあることを忘れるな。魔王を倒した後、きっちり返してもらうからな」


 ミャミャの軽口と、シルフィの氷のような視線。

 うん、こいつらもいつも通りで何よりだぜ。

 合コンの約束忘れるなよ?


「それで、調査の方はどうだったんだ?」


 俺がそう尋ねると4人の背後から、見覚えのある白髭の爺さんがひょっこりと顔を出した。

 伝説の大魔導士、パーカッション爺さんだ。

 けれど顔は喜びとは程遠く、なぜかガタガタと小刻みに震えて顔面蒼白になっている。


「てめえ……!」


 カレンの瞳が一瞬にして燃え上がり、両手に獄炎が渦を巻く。

 爺さんは殺気に気づくと、ビクッと肩を震わせ、助けを求める子犬のような切実な目で俺たちを見つめた。


「そこのお嬢ちゃん、誰じゃったかのう……?」


 爺さんは虚ろな目でカレンを見つめ、首をこてんと傾げた。瞳には、もはや何の光も宿っていない。


「ここはどこじゃ? 儂は誰じゃ?」


 爺さんの悲痛な叫びは、やがてか細い呟きへと変わり、彼はその場でくるくると回り始めた。

 カレンは燃え上がらせた炎をふっと消すと、深いため息をついた。


「……チッ。ボケ老人相手に、もうどうでもいいや」


(くそっ! あのエロジジイ、まさか痴呆のフリして難を逃れやがったんじゃ! とんでもねえタヌキ爺だぜ!)


 俺は仲間たちをテーブル席に残し、1人で受付カウンターへと向かった。

 目的はただ一つ。この王都に、俺が愛した日常がまだ健在であるかを確かめるためだ。


「はい、こんにちは! 勇者様、お帰りなさいませ!」


 カウンターの向こうで栗色の髪をポニーテールにした受付嬢サリアが、完璧な営業スマイルを浮かべていた。

 その笑顔は俺が旅立つ前と何一つ変わらない。

 俺はゴクリと唾を飲み込み、祈るような気持ちで彼女の頭上に視線を送った。

 頼む……頼むぞ……! 俺が愛した、あのクソったれな日常であってくれ……!


 そして俺の脳裏にポップアップしたウィンドウは……。


【サリア(受付嬢)】【最終性交時間: 2分14秒前(相手:ギルドマスターと副ギルドマスターと衛兵隊長とその他大勢)】


 俺はゆっくりと天を仰いだ。

 目に涙が滲む。


(……ああ。そうだ。これだよ。これなんだよな)


 込み上げてくる、どうしようもない安堵感。

 旅立つ前はこの光景に吐き気を催し、世界そのものを呪った。

 だが、今は違う。


(……まあ、俺には一生縁のない世界だけどな)


 ほんの少しだけ胸がチクリと痛んだが、それだけだ。

 目の前には腹を空かせた仲間たちがいる。俺を待っている奴らがいる。

 もう、それだけで十分じゃねえか。


「……ただいま」


 俺は誰に言うでもなく、そう呟いた。

 声は自分でも驚くほど穏やかだった。


「どうかなさいましたか、勇者様?」

 

 サリアが不思議そうに小首を傾げる。


「……いや。なんでもねえよ。ああ、帰ってきたんだなって、思っただけさ」


 俺はフッと笑みを漏らし、仲間たちが待つテーブルへと踵を返した。

 そうだ、俺の戦いはまだ何も終わっていない。

 魔王はまだどこかで暗躍している。

 俺のハーレム計画も、まだ一歩も進んでいない。


 だが、それでいい。

 このクソったれな世界で最高の仲間たちと共に、これからも戦い続けるのだ。


「おーい、お前ら! 腹減っただろ! 今日は俺の奢りだ! 好きなだけ食え!」


 俺の威勢のいい声に、リイナたちがぱあっと顔を輝かせる。

 そうだ、それでいい。

 愛は世界を救わない。

 だが俺の奢る飯で目の前の可愛い女の子たちが笑顔になるなら、それだけで俺がここにいる意味はあるってもんだ。


 俺の勇者としての、どうしようもなく下劣で最高にエキサイティングな毎日はこれからも続くんだから。

 

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