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第89話 第一王女vs第三王女、運命のディベート場外戦

 巨大ホールは一瞬にして沈黙と絶望が支配する檻へと変貌した。

 俺たちの周囲に音もなく展開された半透明の黒い結界は、まるでこの空間だけを世界から切り取ったかのような禍々しくも完璧な球体だった。


 即座に俺を除く全員が動いた。

 カレンの両手から放たれた獄炎と、サーシャの雷撃が結界の内壁に炸裂するが傷一つつかない。カミラ学長とカーラも詠唱を開始するが、その魔法が形を成すことすらなかった。


「無駄だ!」


 リイナの剣閃が、アンナの渾身の拳が、寸分の狂いもなく同じ一点を穿つが、キィン、と甲高い音を立てて弾かれるだけ。


『……闇よりもなお昏きもの、ヤマの投げ縄が汝の生命を捕らえ……』


 レイラの呪殺詠唱すらも、結界に吸収されるかのように虚しく霧散していく。


「おやおや、勇者様は抵抗しないのですか? 私の結界魔法はいとも容易く壊したくせに。まあできないでしょうね! なにせ彼の結界魔法は史上最高にして最悪の芸術品! こんな彼を表舞台に出すことなく干からびさせていた王国は愚かね!」


 結界の外で侍女アルディスの愉悦に満ちた笑い声が、反響して俺たちの鼓膜を不快に揺らした。


(ぐっ! 俺が手を出せないのは、『リア充絶対殺すマン』が発動しないからってだけなんだが、なんか勘違いしているようで助かるぜ。仲間になんで動かないんですか! とか言われなくて助かるからな)


「ちょっとセイヤさん! 一般人のこの私も巻き込まれてるんですから、勇者ならなんとかしてくださいよ! モブを巻き込まないのが信条なんですよね!」


 パニックに陥ったシャーロットに襟首をガクガクと揺さぶられるが、どうにもならんもんはどうにもならん! 無のおっさんの張った結界魔法なんだ。例えこれが、魔法覚えたてのクソザコ結界魔法だったとしても俺には破ることはできんのだ!


「落ち着けシャーロット、みんなも冷静になれ。拘束されているわけじゃない。まだ何か仕掛けてくるはずだ。だろ? マーサ王女にエルフのアルディスさんよお? こんなことをするのはよっぽどの事情があるはずだ。なにせ平和な魔法学校での日々をチャラにしてでも成し遂げたいんだからなあ! 成功しても失敗してもレンデモール王国どころか人間の世界に居場所がなくなるだろうによ!」


 俺は逆転の一手を思いつくための時間稼ぎとして、敵に動機を語らせる作戦を取った。


「フフフ、安い挑発ですこと。よろしい。乗ってあげましょう? 理由も知らずに散るお姉様が哀れでなりませんからね」


 よし、マーサ王女が乗った。


「哀れ……か。マーサ、私は君を大切な妹だと思っている。昔も今も変わらずな」


 リイナが剣を構えながら放つ静かな呟きに、マーサの美しい顔が昏い喜びに歪む。


「ええ、私もですわ、リイナお姉様。第一王女として率先して公の行事に参加し、民思いで自らを律し、欲に塗れない性格。凛々しいお姿からレンデモール王家の象徴として、太陽のように目立ってくださいました。……おかげで私は日陰者として、思う存分に魔法を研究することができました。感謝感激ですわ」


「恨みや権力欲、というわけではなさそうですね。王となる後継者は第一王子ディートヘルム様がいます。万が一のことがあっても、数多くいる弟君から選ばれるでしょう。リイナ様、ディートヘルム様の母君である王妃殿下と、マーサ様の母君の仲が悪いといっても、それは後宮の権力争いの範疇。直接手を下そうとするのは、愚の骨頂でしかありません」


 レイラの冷静な指摘に、マーサの顔がさらに愉悦に歪んでいく。


「ここまでして、あたしたちを巻き込んでいるんだ。魔法の研究内容を触りでもいいから教えてもらいたいね。……マーサ姫様は知っていたんじゃないかい? リイナの呪いの正体を。そいつを我が物にできれば、王国よりも価値のあるものが手に入ると。リイナが婚約者を次々と惨殺される呪いの割には、他に被害は起きていない。まあ、危なかった一幕はあったが」


「カレンちゃん、それってリイナに呪いをかけたのが、マーサ姫か、マーサ姫のお母さんだったってことですか⁉ それとも、グリーンウェルという男の人を憑依させようとして、失敗してリイナに憑いちゃったって感じですか⁉」


 カレンの鋭い推理にアンナが驚いて叫ぶ。


「……なるほど。憑依魔法は手っ取り早く力を手に入れるのに最適だし。難点は巨大な魔法陣が必要で組み立てに時間がかかるし、一流の腕前と場所も必要。その点、王国第二夫人の立場なら場所も人材も用意できそうだし」


「サーシャが真面目に推理に参加している……だと?」


「このくらい簡単だし! グリーンウェルとかいうおっさんを憑依に降臨させた理由は分からないけど、カレン様を狙ったのは許せないし!」


 俺の絶句に、サーシャが激しく捲し立てる。

 そこだ。なぜグリーンウェルなんだ? 超絶凄腕でインテリヤクザで、目の前の魔族の数千倍怖いが人間のおっさんだ。もっと分かりやすい魔族を降臨させるのがデフォだろう。

 ……ここから考えられるのは、儀式そのものが完全に失敗したか、グリーンウェルを知っていて選んだかだ。

 だが、グリーンウェルは俺に告げた。俺を知っていて生きているのはお前だけだと。なら、失敗か? いや、後者は一つ抜け道がある。


「……わざとですわ。お母様は私に憑依させようと試みてましたが、私がリイナお姉様を媒体にしましたの」


 マーサの瞳孔が開き、その声は昏く、低いトーンに変わる。


「だってそのほうが、壊れていくお姉様を見れると思ったのですから! 恐怖し、絶望し、発狂し、最期は自害して自らの人生に幕を閉じ、憑依させていた者を引き受ける役目を担おうと思っていたのに残念ですわ。……お姉様、婚約者が選ばれるたびに惨殺されているのに、無情すぎません? 普通のお姫様なら絶対に壊れていますよ?」


 ゾクリとする。ちっ、そういうことかよ。こいつ、ガチのサイコパスだ。


「……そこまで妹に思われていたのはショックだ」


「ええ、そうです! もっとショックを受けてくださいな! お姉様が死ねば、私は大満足なんですから!」


 マーサの高笑いが響き渡る中、俺たちの拳が強く握られていく。無論、俺もだ。

 だが、リイナは違った。彼女は優しい音色で呟いた。


「悪いが、私は死ぬつもりは毛頭ない。……そして私はマーサ、君を……妹を恨むこともない。これは生涯そのままでいると宣言しよう」


 リイナの言葉に俺たちも自然と笑みが出る。


「分かりました! リイナがそう言うのです。私も全身全霊をかけてリイナの願いを叶えましょう!」

 

 アンナがフンスと気合を入れる。


「強く願った言葉は魂に深く刻まれます。純粋であればあるほど、邪な思いを打ち破る力となるのです。これはセイヤさんにはできないリイナ様だから呟ける聖なる願い」

 

 レイラちゃん? 俺イジりはほどほどにして! 今は超絶シリアスな場面なんだから!


「あたしも正義や悪といった思想はねえ。けれど、カッコいいかカッコ悪いかなら、カッコいいほうを選ぶさ。マーサ姫様、あんた最高にカッコ悪いぜ」

 

 カレンのセリフのほうがカッコいいじゃねえか! それ、俺が言ったことにしてくれないか?


「私はカレン様推しだし! カレン様の敵は私の敵だし!」

 

「リイナ様を支持しましょう。学長として、いえ、1人の魔女として」

 

「ま、カレンはともかく、生徒会長として、生徒の不手際には鉄槌を下さないといけませんわね。王族であっても忖度しません」

 

 サーシャも、カミラ学長も、カーラ生徒会長もこっちに完全についた。

 これは勝てる流れだ。


「マーサ王女さんよ、降参するなら今はまだ罪にもならんかもだぜ? それでも続けるか?」

 

 俺の挑発にマーサは小さく舌打ちした。


「さあ、第一王女リイナ様たちはどうやってこの結界魔法を攻略するのか! 第三王女マーサ様は一般人の私まで巻き込んでどうするつもりなのかあああああ! どっちにしろ、ここで私が犠牲になったら憑依魔法とやらで、勇者セイヤの身体でもいいので呼んでくださいね? みなさま、お願いします!」


 シャーロットの実況風の願いが結界魔法内に響き渡る。

 って! みんな頷くなよ!

 

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