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第88話 おっさんはすべからく信用できない

 クーデターという名の茶番劇は俺たちの活躍によってあっけなく鎮圧された。

 人質にされていたカーラ生徒会長やサーシャたちも無事解放され、反乱を起こした女教師たちは魔法のロープでぐるぐる巻きにされ、壇上で無様に転がっている。

 観客だった女子生徒たちは恐怖と興奮の入り混じった表情で解散させられ、巨大ホールには俺たち関係者だけが残った。

 

 さて、ここからが本番。カミラ学長と共に、このイカれた女教師たちの尋問を開始しようとしていたが、その前に一悶着始まる。


「ちょっとカレン! なんで準決勝で辞退してるのよ! この私が怖かったのね? 3年連続で優勝していたのに、4年目で記録が途切れるのが怖かったんでしょ?」


 カレンの従姉であるカーラ生徒会長が腰に両手を当て、仁王立ちで突っかかってきたのだ。


「あ~はいはい。それでいいですよ。優勝おめでとうございます、カーラお姉様」


 カレンは恭しくペコリと頭を下げるが、声には一切の感情がこもっておらず、むしろ「ああ、めんどくさい」という雰囲気をプンプンと全身から発散させていた。

 カレンも普通の女の子相手ならイケメンムーブをかますくせに、身内、特にこの従姉にはどうも塩対応だな。


「なあにがおめでとうよ! どうせ自分が出れば勝っていたとでも思ってるんでしょ! それに決勝はまだ終わってないわ! サーシャ! あとで決着はつけるわよ!」

 

「望むところだし! でもでもぉ、カーラ生徒会長のパートナーだった教師も、そっちのクーデター参加者ですよねぇ? 責任取って辞退するのが筋なんじゃないんですかぁ?」


 おお、やるじゃんサーシャ。腰をくの字に曲げ、片方の眉をくいっと上げる挑発的なポーズでカーラに応戦する。

 女同士の戦いって、こうもネチっこくて怖いのか。リアルは知りたくなかったよ。


「ぐっ……! それはそれ! 私は人質にされた被害者なのですから、関係ありませんわ! ですよね⁉ お母様!」

 

「カーラ、学校では学長と呼びなさい。ディベート大会の件は後回しです。今は生徒会長として、この事態を収束することに尽力しなさい」


 カミラ学長の凛とした声に、カーラは「……分かりましたわ」と不満げに口を尖らせながらも引き下がった。


「それでカーラ嬢、貴女のパートナーだったベルタ教師に、特に違和感は感じなかったのか?」

 

「は、はい、リイナ姫殿下。ベルタ教師も、他の先生方も、特におかしな点は何もありませんでしたわ」


 リイナの問いに、カーラは神妙な顔で答える。その目に嘘はなさそうだ。

 

(まあ、そうだろうな。彼女は性行為の蚊帳の外にいる存在だ。えてしてそういう人間は、夜の営みに関する他人の変化なんざに気づけるはずもねえ。なにせ、この俺がそうだったからな! 憎いぜ、夜は快楽に溺れているくせに、昼間は『私、そんなことしてませんよ?』みたいな澄まし顔で生きてる連中がよお! なあ? シャーロット!)


「なんで私を見るんですかぁ⁉ セイヤさん! もしかして私なら脈アリだとでも思ってます? 言っておきますが、静脈も動脈もあなたを見ると逆流して吐き気がするんですが⁉」

 

「どういう理屈だよ! 俺だってビッチバニーガールはお断り……できねえ!」


「できないんかい! ま、まあ、私はお断りですけどね」

 

 ちくしょう……! バニーガール衣装ってのは反則だろ! 胸の谷間も、ハイレグ気味の股間のV字ラインも、男の理性を破壊するために作られた最終兵器だろが!


「そう言えばカレンちゃんが言ってましたが、カレンちゃん退学後に新しく雇われた先生方が多いようですね。全員、学長さんが直接声をかけて雇ったのですか?」

 

 アンナの純粋な疑問に、カミラ学長は静かに首を横に振った。

 

「男性教師が使い物にならなくなった直後、残った女性教師たちに誰か推薦したい者はいないかと尋ね、紹介された者たちばかりです。全員、採用面接も淀みなく突破し、授業の評判もよく、生徒たちの魔力も既存の教師陣より遥かに早く上達させました。世に埋もれた逸材や、名のある方もいたので信頼していたのですが……」

 

「その中で、一番多く紹介したのはどの先生なのでしょう?」


 レイラちゃんの鋭い質問に、カミラ学長の視線が捕らえられた女教師の1人……俺が取り押さえたレギーナへと向く。

 

「レギーナ先生。叛乱に加担した教師は全員、貴女の紹介ですね」

 

 無言を貫くレギーナへ、俺は学長と女教師たちを交互に見ながら訊ねた。

 

「じゃあ、おっさん……あの死んだ魚の目で、人生に不幸しか経験してなさそうなフェリックスも、このレギーナって奴の推薦か?」

 

「ええ、そうですが?」


 答えたのはカミラ学長だ。


「確かに無名でしたが、レギーナの今までの推薦実績から腕前は疑いませんでした。実際、会った瞬間に、彼が最高峰の魔導師なのは私にも分かりましたから」

 

「ああ、あたしにも分かったぜ。見た目に反して、相当な実力者だっていうのがな」

 

 カレンも真剣な表情で頷く。

 

「私の魔法も防いだし、実力があるのは理解できるけど……ってことは、あのおっさんもこいつらの仲間ってこと⁉」

 

 そんなサーシャの疑問に、リイナが首を横に振った。

 

「態度から察するに仲間ではないだろう。それに、もし仲間なら今こうして立っているのは我々ではなかったはずだ」

 

「そうですね。あのダメンズおっさんが正式に教師となってから、取り込むつもりだったのでしょう? 違いますか?」


 レイラちゃんの尋問に、レギーナが忌々しげにチッと舌打ちする。どうやら図星のようだ。

 おっさんにとっては、そっちのほうが童貞捨てるチャンスだったかもな。

 喜んでレギーナ先生たちの性奴隷となって、腕を振るうおっさんの姿が見えたぜ。

 フッ……悪いなおっさん。おっさんの童貞は世界の平和のために守らせてもらったぜ。

 

「ということは……セイヤさんが珍しく役に立ちましたね。フェリックスさんと先に仲良くなっておくなんて、グッジョブです♪」

 

「ククク、俺の功績をもっと褒め称えるがいいぞ、アンナ!」

 

「女の子に好かれない、っていう共通点がありますからね♪」

 

「そういうオチつけなくていいから!」


「疑問が一つありますわ。レギーナ先生は、在野のそれほどの人脈を、どのようにして集めたのでしょう?」

 

 カーラのもっともな疑問に、カレンが「……それについては、あたしに一つ心当たりがある」と、静かに口を開いた。

 

「魔法学校を退学した直後から、視線を感じることが増えたんだ」

 

「それってサーシャや、あんたの親衛隊の女の子たちじゃねえの?」


 俺の間髪入れる質問に、カレンは首を横に振る。

 

「いや、それとは違う。……好意じゃない。値踏みされているような、見定められている感覚だ」

 

(なるほどな。それが魔王軍の仕業である可能性は極めて高い。グリーンウェルがカレンの始末を俺に依頼したように、魔王軍にとって都合のいい駒と、使えないどころか危険な駒を選定してるってわけか。つーか、この俺もまんまと利用されてたしな)


「レギーナ教師を表の顔にして、裏で全てを取り仕切っていたのが、侍女のアルディスと第三王女のマーサ姫殿下なのでしょう。……ですね、レギーナさん」

 

 レイラちゃんの更なる追及に、レギーナの顔がサッと青ざめる。これも当たりか。

 

「人間に擬態していたエルフが王女の侍女、ね。擬態ってだけで怪しさ満点だぜ」

 

「……控え室にいるフェリックス殿と合流しよう。彼から直接話を聞く必要がある」

 

 リイナが重い口調で告げ、俺たちの間に緊張が走った直後。


 キィン、という甲高い音と共に、俺たちの周囲に半透明の膜が出現する。

 

「なっ⁉ これって結界魔法⁉」

 

 サーシャが驚愕の声を上げる。

 その結界の外に、3つの人影がゆらりと現れた。


「形成は再び逆転ですね、勇者御一行様」

 

 現れたのはマーサ王女と侍女のアルディス。

 そして……傍らには俺たちに向けて無表情に右手をかざしている、見慣れた男の姿があった。


「ちっ……おっさん! 洗脳されたのかよ⁉」

 

 そう、この最強の結界魔法を構築したのは俺たちが今まさに話していた男、フェリックスだったのだ。

 

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