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第77話 男の友情と乙女の友情は決して交わらない

 ロンブローゾ魔法学校が誇る大図書室の空気は、古びた羊皮紙の匂いと張り詰めた静寂によって支配されていた。

 俺の目の前で、カレンの従姉だという赤髪ロングの女……カーラが取り巻きの女生徒たちを引き連れて仁王立ちしている。

 鋭く吊り上がった目はカレンと俺たち部外者を、値踏みするように細められていた。


「あら? 退学になった一族の面汚しのカレンじゃないの? なんでこんなところにいるのかしら?」


 図書室のギスギスした空気は最高潮に達していた。

 カレンは挑発に乗らず、ただ黙ってカーラを見つめている。

 そんな無反応さが、余計にカーラの神経を逆撫でしているのが手に取るように分かった。


(さて、と。俺の『リア充チェッカー』、仕事の時間だぜ)


 カーラ、取り巻き、全員の頭上を一瞥する。うん、表示は全員【無】だ。

 ですよね~。こんなギスギスした女の園でヤりまくってる奴がいるわけねえか。健全な学校で安心したぜ!

 ……と思うと同時に、俺の背筋を氷のような悪寒が駆け抜けた。


(……いや、待てよ。全員【無】ってことは、俺のスキルが発動しないってことだ。つまり、この場所で俺は……最弱中の最弱じゃねえか!)


 命の危険をヒシヒシと感じる。


「クソッ、こいつら、取り巻きたちと百合止まりでレズまでいってないとはな」


「は?」


 俺の魂の呟きに、場の空気がピシリと固まった。

 カーラの鋭い視線が初めて俺を正確に射抜く。


「……なに、この男。喧嘩売ってるのかしら? 百合? レズ? 侮辱的な言葉ね。ロンブローゾ魔法学校の生徒に対する、明確な宣戦布告と見なすわ」


「セイヤ、突飛な発言はよせ。庇うのが不可能な発言だぞ」


 リイナがこめかみを押さえ、心底呆れたように呟いた。


「セイヤさん、魔王を倒したら牢にお見舞いに行きますね!」


 アンナちゃん、俺、今の発言で何年牢に入れられるの⁉


「仲間だったことがバレるとマズイのです。ここは率先してセイヤさんを牢に突き出しましょう」


 レイラちゃん、フッと悪魔のような笑みを浮かべながら言うのやめて! 本気に聞こえるから!

 そんな仲間たちの無慈悲な反応の中、カレンがすっと俺の前に立った。


「カーラ姉さん、突っかかってきたのはあたしにだろ? 無関係な男は関係ないさ。言いたいことはあたしに言いな」


 カレンちゃん……カッコいいぜ。でも「無関係」って強調されたの、ちょっと傷ついたよ。


「ふ、ふん! ともかく、カレン、私はあんたを認めない。退学生徒が校舎内にいるのも気分が悪いし、部外者を連れてきているのも気に食わないわ。とっとと出ていくことね。私たちはこれから明日のディベート大会の打ち合わせをするの。あなたが三連覇して勝ち逃げした、ね」


「今回は男子生徒が1人残らず不参加だから、カーラ様の優勝は間違いなしですわ。退学してくれてありがとう、カレンさん」


 取り巻きの1人が勝ち誇ったように鼻を鳴らす。

 当のカレンは、ぽん、と手を叩いて「ああ、そんな時期だったか」と、全く意に介していない様子だ。


「行こう、みんな。すまなかった」


 リイナがカーラたちに深々と頭を下げ、俺たちの肩を叩と、彼女たちに背を向けて歩き出しながら凛とした声で続けた。


「カレンは私の呪いを解くために尽力し、この場を案内してくれたのだ。それだけは覚えておいてくれ」


 そんなリイナの後ろ姿に、カーラたちは「フンッ」とそっぽを向きながらも、ちょっとだけカッコいいと思っているのが顔に書いてある。


「あの方、第一王女のリイナ様では?」

「まさか……でも万が一があるわ。出ていくんだし、放っておきなさい。それよりも明日の対策よ」


 ふむふむ、リイナの正体に勘づいたか。さすがは名門の御令嬢、処世術は弁えてそうだ。

 これでカーラ派との争いは収まりそうだな。


 そう思った瞬間だ。

 俺のリア充絶対殺すマンが発動した!


「なっ⁉」


 俺目掛けて水平に向けられる銀色の刃を、俺はギリギリで躱して拳で剣を粉砕する!


「セイヤ! 無事か⁉」


 リイナが叫ぶ。彼女がグリーンウェルに乗っ取られたのではないようだ。


「空間が歪んで剣だけ飛来するとは……邪悪な気配は消えました。宣戦布告といったところでしょうか?」

 

「セイヤさんだから無事でしたね。そういうのはさすがです」


 レイラちゃんも周囲を警戒して俺を見つめ、アンナも久しぶりに俺を見る目が汚れがないぜ。

 どこの誰だか知らんが、リア充か。ならチェッカーで探せば容疑者は絞れるな。


「わ、私たちじゃないわよ!」

「お、俺でもないぞ!」


 カーラもフェリックスのおっさんも慌てなさんな。分かってるさ。あんたらが犯人なら、俺、死んでたし。


 カレンは飛び散った剣の破片と、剣が出てきた空間を眺めていたが、「しまった。探知魔法をサーシャに感知された! 犯人はサーシャじゃない! あとで外で合流な!」


 そう言うとカレンが脱兎のごとく逃げ出したのだ。


「カレン様あああああああ!」


 ドドドドドッ!

 廊下の向こうから、凄まじい勢いで駆けてくるのは、制服姿のサキュバス、サーシャだった。やっぱりいやがった! カレンの危機管理能力、高すぎだぜ!

 サーシャは俺たちに目もくれず、ただただカレンだけを目指して追いかけていく。


「サーシャさん! 廊下を走らないでください!」


「は~い、生徒会長さーん!」


 カーラの苦言も生返事で聞き流しながら、2人はあっという間に廊下の角へと消えていった。


 ……カレン、逃げ切ってくれよ。

 ともかく、俺たちは魔法学校の校舎内から追い出されたのだった。フェリックスのおっさん付きで。


「……なんで俺まで。俺、教師なのに」


 校庭の隅で空を見上げて泣くなよ、おっさん。運が悪かったのさ。俺たちと一緒にいたという、ただそれだけの理由がな。


「とりあえずカレンさんと合流して、街で作戦会議しましょう!」


 アンナの気合の入った声が響く。


「あまり収穫はありませんでしたね。グリーンウェルが告げた数日までもう猶予はないでしょう。そちらの対策に集中すべきかもしれません」


 レイラの提案に、リイナも握りこぶしに力を込めて頷く。

 ともあれ、まずはカレンだ。しゃあない、俺がなんとかしよう。

 俺はポケットにしまっておいたサーシャの黒ビキニパンツを、高々と天に掲げた。


「聞こえるか? 名前はあえて言わないでおこう。だが、出てこなければこれがどうなるか分かるかな? 俺が顔に覆い被るまで、10、9、8……」


 大声でカウントダウンを始める。


「こんのド変態がああああああ!」


 思った通り、激おこのサーシャが近くの木の枝から飛び降りてきた。制服姿、尊いぜ。


「今だ! リイナ、アンナ、レイラ! カレンを連れて脱出しろ!」


 カレンもサーシャの背後から見つからないように覗いている姿が見える。

 殿を務めるのは勇者の役目! フフッ、俺、カッコいいぜ。

 ……ん? あれ? なんでみんなジト目なんだよ⁉


「サーシャ、ここは一緒にこの変態を倒す協力をしましょう」


「そのパンツ、サーシャちゃんのだったんですね。ドン引きです」


「どこで購入したかと思っていたらそういうことですか。まさか私のパンツも使用したのですか?」


 あれえ? なんで俺包囲網ができてんの?


「あんまり気が進まないけど、男2人! まとめて精気吸ってやるし! くらえええええ!」


 サーシャから禍々しいピンク色の魔力の波動が、俺とフェリックスのおっさん目掛けて放たれる!

 ぎゃああああ、ついに俺にも精気を吸われる体験がああああああ! さあ、俺が他人に与える精気! 特と味わうがいい!

 俺は大の字になって運命を受け入れようとするが。


「なっ⁉」


 サーシャが驚愕の声を上げた。

 そう、俺の身体の前に薄い黒色の結界が張られ、サーシャの魔法を完全に霧散させたのだ。


「俺を巻き込むなあああああ! 俺は関係ないだろおおおおおおお! ゼエゼエ……」


 フェリックスのおっさんの魂の叫びが、ロンブローゾの青い空に響き渡るのだった。

 ですよね~。てか、おっさん普通に凄腕なのかよ。

 

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