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第73話 同じ品に手を伸ばして指が触れ合う出会いは好きですか?

 ロンブローゾ領に到着した俺たち勇者一行は、これまでの街や村と同じように、至って普通の活気に満ちた光景に肩の力を抜いていた。

 だが、俺のスキルはすぐにこの街に潜む、奇妙な違和感を捉えていた。


 すれ違う、はっとするほどの美人たちの頭上に、次々と無慈悲なウィンドウがポップアップしていく。


【最終性交時間: 2時間14分前(相手:親友のミカちゃん)】

【最終性交時間: 8時間05分前(相手:街でナンパした女の子)】

【最終性交時間: 15時間33分前(相手:友達のサツキちゃん)】


(……は? 親友(女)? 友達(女)? ナンパ(女)? ……相手が、全部女だと⁉)


 俺は慌てて、対する男連中に視線を移す。するとそこに広がっていたのは、頬は痩けこけ、虚ろな瞳で口を半開きにした、生ける屍のような男たちの群れだった。

 時折、活気ある女たちに「邪魔よ!」と吹き飛ばされている始末だ。


(レ、レズの街だと⁉ ここで教育されていたカレンが女に好かれるのは必定だったのか⁉ カレンの【無】って奇跡だったのか! いや、学生はまだ見ていない。全寮制だっていうし、街とは違う可能性がある)


 だが、この街は危険だ。長居したらリイナたち全員がレズ堕ちする危険がある! 冗談じゃねえ、レズするのは構わないが、俺が見ていて参加していなければ却下だ!


 そんな俺の内心の絶叫をよそに、カレンがやれやれと肩をすくめながら呟いた。


「……サーシャの仕業だな、この街の男たちの状況。十中八九、ロンブローゾに戻ってそうだ」


「セイヤさんが強奪したっていう性転換銃をまた作るためですかね? 私も作成に協力して、今度は心も女の子になるセイコちゃんを作ってもらいましょう」


 無表情で怖いことを言わないでレイラちゃん! 心が女になったら俺の存在意義がなくなっちまうがな。


「魔法学校へ行く前に、鍛冶屋でリイナの剣を見繕ってもらいましょう!」


 アンナがフンスッと拳を握り、ナイスな提案をする。


「カレンちゃん、お勧めの鍛冶屋ってありますか?」


「ああ、それなら魔法学校御用達で、魔法杖も品揃えしている店があるぞ。無論、魔法剣もある」


 リイナのドロドロに溶けた剣問題があったな。

 ブリューレにはリイナの力量に耐えられる剣はなかったが、魔法学校御用達の専門店なら話は別だろう。

 リイナが弱気になっているのも、剣がないのが大きな理由になっているに違いない。

 鍛冶屋へ向かうのは名案なんだが、どうか街の女の子にナンパされませんように。

 この俺がしっかりとみんなを守らなくっちゃな。


 すると、歩き出した俺たちの後ろで立ち止まり、リイナが意を決したように告げる。


「それなんだがみんな、私は現状グリーンウェルという魔王軍の男に憑依される可能性がある身の上だ。私の所持している剣で獲物を仕留めようとする。剣を所持していたら、次も同じようになる可能性が高い。だから当分は剣を新調せずにいこうと……」


 そこで俯くリイナに、仲間たちが次々と優しく声をかけた。


「気にするなって。奴に武器の有無は関係ないさ。不意を突かれたら膂力だけで決着つくぐらい歴然とした力の差がある。剣があるかないかで危険度は変わりはしないさ」


「カレンさんの言う通りです! それよりもリイナが元気ないほうが大問題です。それに憑依されてしまうなんて考えちゃ駄目です! 根性で封じ込めましょう!」


「私としてはリイナ様が、追い詰められた時に自害をしないか心配です。なので約束してください。リイナ様の剣は悪を裁くのみに使用すると」


 レイラがチラッチラと俺に視線を送ってくる。なんで俺を見ながら言うのよレイラちゃん! 俺は裁かれるほどの悪事した覚えないぞ!


「つーかリイナ! 俺がいるんだ心配すんな! 今度も同じように気づいて止めてやる! 俺の真剣白刃取りの腕前、思う存分発揮してやるぜ!」


 俺たちの言葉に、リイナの目頭が熱くなる。


「……みんな。済まない。感謝する」


「まあ、なんだ。だから男に戻ったけれど、宿は同じ部屋に俺も泊まるぜ! 同じベッドでリイナの様子を見続けてやる!」


 そんな俺の決め台詞に、全員が華麗にスルーしながら、レイラとカレンが「結界はこうしよう」「私がリイナと一緒に寝ますね♪」「済まない、みんな、迷惑をかけるが頼りにしている」なんて会話が俺を残してスタスタ歩きながらされていくのだった。


 ……名案なのに。しゃあない、俺はみんなが泊まる宿の部屋の扉前で寝るとするか。

 鍵穴から覗けたりしないかな?


 それから暫くして着いた魔法武具店。

 いいねえ。こういう雰囲気。まさに英雄がさらなる成長をしたあとに訪れるお店って感じ。

 店主のドワーフは、やっぱり精気根こそぎ奪われたみたいに目の焦点が合ってないけど。


「う~ん、迷うぐらい多いな」

「これなんかどうですか?」

「これも似合いそうだ」

「値段は気にしないでください。セイヤさんが支払うんですから」


 女の子の買い物は長い。これは仕方がないことなのだ。男は迷わずカッコよさと性能で決めるから理解できないが、女の子にとって、この買い物を楽しんでいる時間も重要なのだ。

 だから男の役目は、そんな女の子たちをイライラしながら待つのではなく、背後から視姦し続けるのがセオリーなのさ。

 フッ、今回の俺、カッコいいぜ。男に戻って絶好調だな。


 おっ、それはともかく、この武具カッコいいな。

 装備できないけど、触ってみたい。そう手を伸ば瞬間、指が他の人の指と触れ合う。

 ふわりと、それでいて確かな感触。俺の指先に、柔らかな熱が伝わる。


(こ、これは恋愛発生イベント! 間違いない! ラノベで100万回は読んだ、運命の出会いのフラグだ! 相手はどんな美少女だ⁉)


 俺の心臓が期待に高鳴る。ゆっくりと、触れ合った指の先にある顔を見上げた。

 そこにいたのは、天然パーマに死んだ魚の目、無精髭を生やし、くたびれたマントを羽織った……おっさんだった。

 どこからどう見ても、人生に疲れ果てた、覇気のない中年男性。

 奴は俺と目が合うとすぐに逸らし、……ポッ♥っと顔を赤らめた。


 いや、ポッじゃねえよ、おっさん! 死んだ魚の目をしたおっさん相手のクセに、乙女のようなときめきすんな!

 でもこのおっさん、覇気はないが生気はあるな。街の男連中とは違うようだ。


【フェリックス(人間・魔導士)】

【最終性交時間: 無】

 

 ……どう見ても40代のおっさんなんだが無かよ。20年後の俺かよ。

 どうやら俺は、またしても変な奴と出会っちまったようだ。

 なんで清純で清楚で処女の美少女と出会えないんですかね?

 

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