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第66話 一生女の子のまま?

 湯けむりの向こうの天国から生還した俺たちは、宿屋が用意してくれた個室で、ようやく落ち着いて夕食の席についていた。

 卓上にはブリューレ名物の温泉蒸しや、新鮮な川魚の塩焼き、山の幸をふんだんに使った鍋が湯気を立て、食欲をそそる香りが部屋中に満ちている。


「皆さん、お疲れ様でした! さあさあ、遠慮なさらず! 私、お皿に取り分けますね♪」


 (セイコ)は完璧な女子力を発揮し、かいがいしく皆の皿に料理を盛り付けていく。

 フッ、どうだ、俺の女子力、高いだろう。


「私もお手伝いします! ウェイトレスだった私も負けてられません!」


 アンナもにこやかに手伝ってくれる。

 2人で初めて行う共同作業みたいでドキドキしちゃうぜ。


「あ、私、お肉通常の50倍でお願いします。あとご飯もてんこ盛りで」


 レイラが小さな口をもぐもぐさせながら、とんでもない量を要求してくる。

 シルフィとカレンが「えぇ……」とドン引きする中、リイナだけは「いつものことだ」と慣れた様子で茶を啜っていた。


「それにしても、リュカ様め、こんな時間まで戻らないとは! 男だけで何を話しているのだ!」


「勇者ともう1人も戻らないけど探さなくていいのかにゃ?」


 シルフィが頬杖をつきながら心配そうに呟き、カレンもそれに同意する。

 そんな自由気ままな会話が繰り広げられる中、俺はそれどころではなかった。ミャミャの猫目が、値踏みするようにじーっと俺の顔を見つめてやがる!


(やべえ、猫の野生の勘か! 俺の正体に気づきかけてやがる! だが、今はそれよりもっと重要な問題があるんだ!)


 温泉から上がった後、俺は脱衣所で最悪の光景を目の当たりにした。

 そこに隠しておいた、俺の全人類女体化計画の切り札の最期を見つけてしまったのだ。

 それはもう熱気でどろどろに溶け、もはやピンク色のスライムと化したラブリーショットの残骸だけが残っていた。


(まさか1発でぶっ壊れる代物だったとは! あのポンコツサキュバスめ! 1発専用の魔導具なんぞ作りおって! 今度会ったら窒息するまで唇吸いながら貝合わせしないと気が済まねえぞ!)


 このまま男に戻れないのは由々しき事態だ。

 確かに女の子の身体は感度抜群で、賢者タイムがなくて連続アレも可なのは最高だ。

 だが、俺は元の男の感度も知っている!

 それで女の子に突きまくりたいという長年の夢を捨てるなんて言語道断だ!

 なんとかしてもとに戻る方法を探さねば!


 俺が内心で絶叫している間にも、女子たちの会話は和やかに続いていく。


「それにしても、この温泉蒸し、絶品だな。肌もつるつるになる気がする」

 

「ブリューレの女性失踪事件も、カレンさん目当て以外 の裏はなさそうです。まあ、色々手は尽くしましたが、明朝にはまた襲撃されると思います。」

 

「なんか黒い羽根で飛んでいた薄桃色の髪の美少女が、ブリューレを半壊させてたらしいにゃ。聞かなかったことにするにゃ」


「領主様が、古城を攻めるために兵を増員させているみたいですよ」


「モグモグ。時すでに遅しですが、人員を復興に回せば問題なしですね」


 まあ、なんか色々ツッコみたいことはあるが、カレン以外の問題は解決だな!

 そこでリイナが、ふとカレンに視線を向けた。


「そういえば、カレンはどうしてあの古城に現れたのだ? あそこに何か用があったのか?」


 リイナの問いに、カレンは「ああ、それな」と、どこか気まずそうに頬を掻いた。


「まあ平たく言えば、悪党のカリスマって奴を追い出して、あたしが古城に引きこもろうとしたんだよ。あたし1人なら別に暮らしていけるだろうし、ついでに悪党のカリスマ目当てで寄ってくる連中を塵にしてやろうと思ってな」


(ほほう? 世捨て人になるつもりだったのか。勿体ない。美少女で、同性人気も凄い。俺ならブリューレから出られないと分かっても、惚れさせた女の子を集めてアンアンする日々過ごしていたぞ。フッ……それを古城でするのも悪くないな)


「それで盗賊とセイヤさんたちと対峙している私たちを目撃したんですね。助かりました!」


 アンナが目を輝かせていると、レイラがふいに、俺に純粋な瞳を向けてきた。


「ところで、セイコさんは家に帰らなくていいんですか?」


(おっ、レイラちゃん。俺が奢りなのを気にしてくれてるのか? 普段の俺なら、そんな遠慮しないくせに、やっぱりこの美少女フェイス最高だぜ)


 よし、ここは最後の一押しだ! これが済むまで男に戻れるか問題は棚に上げる!

 俺は儚げな美少女フェイスを最大限に活用し、少し寂しそうに微笑んでみせた。


「えっと、実は私も旅をしていて……。よろしければ今日、皆さんと一緒の部屋でお泊りしてよろしいでしょうか!」


 俺の渾身の上目遣いに、リイナが即座に反応した。


「ああ、構わないぞ! セイコも何か事情があるのだな。よければ力になるぞ!」


(フッ……さすがリイナだ。チョロいぜ! さて、架空の過去を構築しなければな)


「私も構いません! 巫女さんの特殊能力は普通に戦力になります!」


(フッ……さすがアンナだ。脳筋思考で助かるぜ! さて、巫女さんの勉強、この世界の設定、俺のいた世界と同じか擦り合わせなければな)


「お金持ちなのもポイント高いです。美少女なのも目の保養になります。セイヤさんのお墓選び楽しみです」


(レイラちゃん⁉ 俺死んでおさらばなの⁉ まあ、男の俺は死んだようなものだが。でもさ……毎年命日にはここに寄ってね!)


 俺の内心のツッコミなど露知らず、シルフィがやれやれと肩をすくめた。


「そういうことなら、私とミャミャは遠慮して別の部屋へ行こう。ベッドは広く使いたいからな」


(シルフィ……本音混じってるが遠慮する気遣い精神、ありがとうな。まあ、本音はシルフィとミャミャの寝姿も見たかったんだが贅沢言ってられないか)


 そんな中で、ミャミャの俺を見る猫目が横に逸れていく。


「みゃあ……みゃあいっか」


(いいのかミャミャ! サンキューミャミャ! 確証持てなかったんだな! お礼に今度、尻尾をブラッシングしてやるぜ!)


 こうして、俺の……いや、(セイコ)の禁断のお泊まり女子会への参加が、正式に決定した。

 俺たちは食後のデザートに舌鼓を打ち、他愛もないおしゃべりに花を咲かせながら、夜が更けるのも忘れて笑い合った。

 そしてついに、その時は来た。

 俺は禁断の、温泉宿屋の女子だらけの寝室へと足を踏み入れる!

 やべえ、心臓がドキドキしてきたぜ!

 

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