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第65話 嘘は重ねた分だけ後に悲惨な末路を遂げる

 じりじりと肌を貫く水風呂の冷たさが、俺の思考回路までも凍らせそうだ。

 水風呂の冷たい水が少女たちの汗が蒸発して立ち上る甘い匂いが混じり合い、俺の理性を根こそぎ奪い去っていく。

 だが、そんな桃源郷のような空間は今、絶対零度の視線によって凍りついていた。


「セイコ? なんで、セイヤが言ったことを知っているんだ?」


 リイナの純粋な疑問。アンナの「?」マーク。レイラの探るような視線。そしてカレンの訝しげな眼差し。

 全員の視線が、(セイコ)に突き刺さる。


(やっべえええええええ! つい、セイコが知っているはずがない情報を、得意げに口走ってしまったああああああああ!)


 背中を滝のような冷や汗が流れ落ちる。

 落ち着け俺。みんなの目はまだ男の俺を侮蔑で見ていた目ではない! 純粋な疑問に満ちた目だ。

 ここは冷静に対処すれば切り抜けられるはず!


「す、すみません!」


 俺は儚げ美少女フェイスを最大限に活用し、潤んだ瞳でぺこりと頭を下げた。


「実は私、巫女の能力を持っていて、少しだけ皆さんの過去を覗くことができちゃうんです! ご不快な気分にさせてしまって申し訳ありません!」


 刮目せよ! 俺の完璧な平謝りを!

 クックック、どうだこの設定の妙。俺のしおらしい態度と、突拍子もない告白に、みんなの顔に納得と感心と感嘆の色が浮かんでいるぞ。

 ここは畳み掛けるのみ!


「ご不快なら私の口を止めてください。私が知ったのは、他にはアンナちゃんは王都のギルド飯屋でウェイトレスをしていたことです」


「は、はい! その通りです! セイコちゃんにはまだ言ってないはずです!」


 アンナが目を丸くする。よし、食いついた!


「レイラちゃんは食べることが大好きですよね! 今も美味しそうに温泉饅頭を食べてます! 一番の好物は牛肉! 1食で10皿完食できます」


「はい。お肉が一番大好きですが、饅頭も好きです」


 レイラはもぐもぐしながらも、俺の能力に興味津々といった顔だ。


「カレンちゃんの魔法学校退学の本当の理由……私、知ってます。カレンちゃんは悪くないです!」


 その一言で、カレンは顔を耳まで真っ赤に染め上げると、たまらず水風呂に口まで浸かってブクブクと泡を立て始めた。

 っしゃあ! これはクリティカルヒットだ! カレンちゃんヨイショじゃなく、あくまで知っていて凄いと褒め称える! これこそがカレン流モテ術!

 フッ……完璧にマスターしたぜ。


「そしてリイナちゃんは可愛い人形が大好きなんですよね! 私のこと、着せ替え人形だと思ってください! いつでもどこでも着替えにお付き合いします!」


「な、何を言って……! こ、コホン。人形とは思わんが、人間として試着し合うことなら……その……私にもしてくれると嬉しい」


 リイナも陥落! 俺の舌、絶好調だぜ! 窮地脱出大成功! 今日はこれからベッドの上で全員と組んずほぐれずのパーティールート確定だ!


 俺が内心でガッツポーズを掲げた瞬間だった。

 露天風呂上空から流れ星がキラリと光ると、そこから1人の少女が舞い降りてきたのだ。

 瞬時に水風呂にダイブしていくカレン。

 あっ、なるほど。俺は現れた人物を直視して納得した。


「あんたたち! 変態外道で、魔王様より非道で、この世に生存した男で最も産まれてこなきゃよかった邪悪なクズ、今どこだし!」


 黒ビキニにピンク色貞操帯パンツ姿のサキュバス、サーシャだ。

 へえ、凄い悪態。魔王様より非道ってとんでもない男がいるんだな。

 なんて俺が思っていると、リイナたちが顔を見合わせ、即答した。


「魔族サキュバス! ……ああ、セイヤなら我々もあのあと見ていないぞ?」


「まさか⁉ 無理やりされたんですか⁉ あわわわわ、セイヤさん、いくら敵だからって女の子になんてことを……許せません! 背中に1万発の私のキック刑に処します!」


「専門のサキュバスすらブチ切らせるセイヤさん。……自分の快楽しか考えてないのでしょうか? 自分がイけば満足なんでしょうか? 呪殺しておくべきでしたね」


 ……あの~、リイナちゃんもアンナちゃんもレイラちゃんも、どうして速攻で俺の名前を連想するの? おかしいだろ! 相手は魔王軍の工作員なんだぞ!

 あと キック刑と呪殺はやめて! どっちも死ぬから!


 俺が内心で絶叫していると、サーシャの鋭い視線が俺を捉えた。


「ていうか、なんで温泉に下着で入ってるのか意味わからないんだけど! ん~。あんたどっかで見たことあるし。その黒いビキニパンツもどこかで見たような?」


 まずい! 俺を疑っている! しかも今度は、サーシャの黒ビキニパンツを俺が履いている物的証拠付き!

 水風呂ではカレンの潜水も限界に達している!

 ここは早く言い訳せねば!

 そんな俺の窮地を救ったのは、さらなる闖入者だった。


「リイナ様たち、ここにいましたか。なんで下着で入っているのです? ……エロすぎです」


 サウナ室の扉が開き、そこに立っていたのは湯気に濡れた豊満な裸体を惜しげもなく晒したシルフィだった。

 張りのある胸と、綺麗に整えられた秘所が目の前に……!

 生きててよかった! ビッチエルフの全裸、最高です!

 今なら事故を装って触っても怒らなそうだぜ。


「みゃ? サキュバスとも仲直りしたにゃ? なら腰の振り方とか教えてほしい……にゃ?」


 シルフィの背後からひょっこり顔を出したのは、同じく全裸のミャミャ。

 小振りながらも猫耳と尻尾が魅力を千%上げる肢体も最高です!


 『リア充チェッカー』が2人が今までしていたことを浮き彫りにする!


【シルフィ】【最終性交時間: 30分48秒前(相手:カレン様親衛隊の女の子A)】

【ミャミャ】【最終性交時間: 30分19秒前(相手:カレン様親衛隊の女の子B)】


(こいつら、そっちもアリなの⁉ カレン様親衛隊の女の子を性的に食って足止めしてたの? つまり……美少女になった俺もアリだよな! もう好みじゃないぞと言わせないぞ! シルフィも優しそうに俺に微笑んでくれてるし!)


 ありがとうございます神様! 俺、TSしてよかったです!

 ……ん? ミャミャが猫目でジーっと俺を見ているぞ? はっ⁉ まさか猫の能力で分かるのか! 俺の正体!

 落ち着け俺! まだ疑ってる段階なのだろう。ここは無だ! 無になりきるのだ!

 そうだ! サーシャよ反論せよ! それでこの空気を変えるのだ!

 

 水風呂の中で、カレンの顔が真っ赤になってる。彼女の限界も近い。


「仲間なんかになんないし! ガチクズと合流したら私がこう言っていたと伝言するし!『宦官にして魔王様に献上して、要らないって首振られて、みんなから嘲笑されながら魔王城で生きていく人生にさせるんだからあああああ』って!」


 長えし回りくどいよ!

 俺がそう思いつつ、泣きながら上空へと去っていく、黒ビキニブラとピンク色貞操帯姿のサーシャを見送っていると、彼女の敗残兵のような遠吠えが耳に届いた。


「ラブリーショット、1発分しかなかったのにいいいいいいい! ばかあああああああああ!」


 ……はい?

 

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