第60話 TS美少女になった俺は、まずアレをする
さて、皆さんは自分が超絶美少女になったら、最初に何をしますか?
当然、鏡の前でアレをするに決まってるよな?
俺は今、ブリューレの街にひっそりと佇む安宿の一室で、まさに歴史的瞬間に立ち会っていた。
月明かりが差し込む全身鏡に映るのは、黒髪ショートヘアの、どこか儚げで、庇護欲をそそるタイプの超絶美少女。
……フッ、俺だ。
「……くふっ、くふふふふ……」
思わず、自分でも気色の悪い笑い声が漏れる。
いかんいかん、これはリイナたちにしてもらわなくてはな。まずは自分の身体を隅々まで検分だ。
俺は浴衣の合わせをそっと開いた。
そこには、男だった頃の俺にはなかった、柔らかな膨らみと、きゅっと引き締まったくびれがある。
綺麗だ俺、完全に俺の理想だぜ。
そして、その下には……。こ、これが女性の生の!
…………。
「んんんんんんっっっっ! ハアハアハアハア……ふう。興奮と快感とドキドキで脳が昇天しちまったぜ。指だけでここまでとは……男の時より感度いいぜ」
ステータス【処女?】を守るため、奥まで突っ込まなかったが、この奥まで入れたいという欲求は凄まじいな。
女子は男と違って大変だ。自分の指でも称号喪失の可能性が高いなんて。
くふふふ、リイナもアンナもレイラも絶対これ毎日やってるだろ。
なら話は簡単だ。みんなで一緒の布団に寝る時、きっと見せ合いっこ触りっこしているに違いない! 俺も今は女の子だ。混ぜてもらおう。
さて、次に皆さんならどうする?
当然、ナンパだよな。するんじゃない。されるほうだ。
男の時には全く縁がなかったナンパ。これをされて「えーどうしようかな~」とか言いながら、バッサリ振る!
頭いいぞ俺! これを繰り返し、しつこい男を『リア充絶対殺すマン』発動でボコボコにすれば「謎の美少女現る!」的な噂が広まり、リイナたちの耳に入ってスカウトされるのは必定!
さあ早く俺をナンパするがいい! この街のイケメンども!
「ねえそこの君、ちょっといいかな?」
来た! さあどんなイケメンだ⁉
そこにいたのは、俺の期待を根底から裏切る腹の出た冴えないおっさん2人組だった。
「えへへ、援交しない? 金ならあるよ?」
俺の脳内『リア充チェッカー』が即座に仕事を開始する。
うん、21時間前に援交少女としている2人組か。
「あ、結構です」
俺は作り物の愛想笑いを浮かべ、スタスタと歩いていく。
身の程をわきまえろおっさんども。超絶美少女の俺はお前らなんぞ不必要なのだ。
「いいから行こうぜ~」
腕を掴まれた! 無理やり来た! これで正当防衛成立!
【ユニークスキル:『リア充絶対殺すマン』発動!】
俺がおっさん2人組を瞬殺しようとした刹那。
俺の視界の端で、銀色の閃光と黒い影が走った。
剣の柄による正確な当て身。おっさん2人は白目を剥き、音もなく崩れ落ちた。
無論、俺ではない。やったのは、そこに現れた新手の人物2人。超絶イケメンで、俺の知ってる奴らだ。
「お嬢さん、無事か?」
「この路地は治安が悪いと聞く。早く家へ帰るがいい。よかったら僕たちが家まで送り届けるよ」
爽やかイケメンスマイルのリュカと、クールなイケメンのウッドだった。
うん、まあ、カッコいいよ。言っていることもイケメンだし、態度も紳士だ。
俺も『リア充チェッカー』の表示がなければ、これからこの2人に四つん這いにさせられて前後からアンアンさせられたい気分になったかもな!
『リア充チェッカー』、仕事の時間だ。
【リュカ(人間・冒険者)】【最終性交時間: 30分前29秒前(相手:ナンパしてきた女の子)】
【ウッド(人間・剣士)】【最終性交時間: 25分前46秒前(相手:新人仲居さん)】
「お前らふざけんなああああああああ!」
俺の、可憐な美少女の喉から絞り出されたとは思えぬ、野太い怒号が路地裏に響き渡った。
次の瞬間、俺の小さな拳が、音速を超えて2人のイケメンの完璧な顔面を寸分の狂いなく捉えていた。
ゴッ! ゴッ!
リュカとウッドは「ぐふっ⁉」という奇妙な悲鳴を上げ、綺麗な放物線を描き、遥か彼方の空の星となった。
「しまった。あいつらを女体化させておくべきだった。つい、怒りで我を忘れてしまったぜ。フッ、俺もまだまだだな。次会ったらお前ら絶対女体化させてやる」
気を取り直して次だ、次! さあどんどんナンパ男を殴り倒して知名度を上げてからリイナたちと合流しよう。
「お嬢ちゃん、俺たちと遊ばなあい?」
さすが俺! いや、女体化の俺、もう来た。
って! どう見ても盗賊集団じゃねえか。数は20人以上。チェッカー全員24時間以内の【無理やり】。
はは~ん、さてはこいつら、悪党のカリスマ目当てでやってきた連中だな。古城が燃やし尽くされていたから、仕方なくブリューレに来たってとこだろ。
門番仕事しろよ。
「えっへっへ、いい身体してるじゃねえか。これから一晩中、俺たちがアンアンさせてやるぜえ」
「その後も壊れるまで、俺たちのお供して好きな時にアンアンされる係に任命してやるさ」
ギャハハと笑う盗賊たち。
まったく、清々しいクズどもだ。俺の理性を分けてやりたいぐらいだぜ。
「御託はどうでもいいさ。俺の知名度アップのために散れ! 外道ども!」
俺が『リア充絶対殺すマン』を発動させ、瞬殺しようとすると、またしても邪魔が入った。
輝く炎が連中を覆い、煌めく斬撃が宙を舞い、華麗な飛び膝蹴りが炸裂し、逃げようとした奴が頭を抱えて「ぎゃあああ」と言って口から泡を吹いて沈んでいく。
おお……見事過ぎる。勇者がいない勇者一行。
そう、現れて、俺に優しく問いかけてきたのはリイナたちだった。
「お嬢さん、無事か?」
「あたしたちに任せな。安心しな、あんたには指1本触れさせないさ」
「フンスッ! 女の子の危機を救えてよかったです!」
「久しぶりに最後まで詠唱しました。満足です」
……レイラちゃんのは聞かなかったことにしよう。
これは好都合! リイナたちがカレンと合流しているのも好都合!
ここから「ありがとうございました」で終わらせるな、俺! このチャンスを逃してなるものかああああああ!
「ありがとうございました! あ、あの! よろしければ御礼に、温泉でお背中流させてください! 私、皆さんの力になりたいんです!」
俺の精一杯の演技が、高音ボイスと美少女フェイスでコーティングされ、純真無垢な笑顔を作り出す。
「カレンさん探したり、戦ったりで汗掻きましたね。温泉入りたいです!」
アンナが目を輝かせる。
「せ、背中を流すのは不要だが、そ、そうだな。私も汗を流したい気分だ。一緒に入るのも構わないぞ」
リイナの、新しい同性の友達ができそうなワクワク声。
思っていた通り、リイナはちょっと百合っ気がある。これは今晩中に互いの肉体を知り尽くすところまで行けそうだぜ。
「そうですね。のんびり湯に浸かって、その後改めて御礼として御飯を奢ってもらいましょう」
「も、もちろんです!」
レイラちゃん、ブレないなあ。だが、そこがまたいい!
「勇者はどうするんだ?」
カレンのリイナたちへの問いに、俺も内心ドキドキして聞き耳を立てる。
こいつら、カレンと合流したあと、俺を探していたのか。泣けるぜ。
「セイヤなら心配ないだろう。奴は勇者だ。強さにかけては私が保証する」
ぶおおおおおお! リイナちゃん! 俺のことをそんな風に思ってくれたのね。嬉しいぜ。
「セイヤさん、絶対娼館とかのエッチなお店に行ってると思うんです。だから放っといていいと思います」
こ、これは! アンナちゃん、ちょっと嫉妬してくれてる? 嬉しいぜ! でも残念だったな。俺はそういう店になんかいかない。だって処女がいないからな!
「今頃サキュバスに手を出されて連れて行かれている可能性もありますね。魔王の隣にセイヤさんがいて戦いになるという想定もしておくべきです」
レイラちゃん? 惜しい、手を出されていたらそうなった可能性高いが、残念ながら出されていない! まだまだ読みが浅いようだな、お子ちゃまめ。
「それでは温泉に行きましょう、皆さん! あっ! 私の名前はセイコといいます!」
俺のペコリと頭を下げる笑顔に、みんな笑顔になる。
ふう、最高のステージに向かう道が今、構築されたぜ。
俺は先頭を歩くためにみんなに背を向ける。
当然、俺の表情は美少女にあるまじき、邪悪に歪んでいた。