第59話 性転換する方法
俺はサーシャにツッコみつつも、いよいよ核心に迫る問いをする。
この状況を打開し、俺の、いや、全人類の未来を切り開くための、唯一の希望の光を。
「なあ、サーシャ。どうやってカレンを性転換させるんだ? あんただけじゃねえ、他の女の子たちも確信してるようだったな。……あるんだろ? 手段が。手伝ってやるからさ、俺にも教えてくれないか」
俺は可能な限り真面目な顔を作り、サーシャの黒ビキニからこぼれ落ちそうな豊満な胸の中央で、存在を主張する突起部分を見つめながら尋ねた。
俺の真摯な視線に、サーシャは一瞬「キモ……」と顔を引きつらせたが、すぐに勝ち誇った顔で胸を張った。
「フフン♪ 私を誰だと思ってるし! 100年に1人のサキュバスの天才児とママから言われた私だし!」
(いや……ママって。魔族もママって言うのかよ。まあいい、今はそこじゃねえ)
俺が内心でツッコむのをぐっとこらえ、気持ちよく喋らせる。
こいつ自身しか放てない魔法だったら、俺の全人類女体化計画が頓挫する。頼む! カモン! 魔導具!
「よく見るし!」
サーシャがそう叫ぶと、空間がぐにゃりと歪み、裂け目の中から禍々しいオーラを放つピンク色の何かが現れる。
ショットガンだ。ゴツくて、無骨で、それでいてどこか艶めかしいデザインの、ピンク色のショットガン。
「名付けて、『精気圧縮式性転換銃』! 私が今まで手に入れた精気を圧縮して魔法結晶にして、弾丸にしてるんだし! こうやって構えて、当たれば性転換完了♪ やっぱ私、天才だし♪」
ルンルンと鼻歌交じりで、サーシャはラブリー・ショットをくるりと回して見せた。
ほう……もうこいつに用はない。
「スキル発動! 【オプションで追加料金を払い、対象の下着を我が手に召喚する】!」
俺の右手に、ふわりと小さな黒い布の感触が生まれた。
パタパタと小さな羽根で飛んでいたサーシャが、下半身に走る、ありえないほどの解放感に気づき、甲高い悲鳴を上げた。
「きゃああああああああああああっ!」
驚きのあまり、彼女の手からラブリー・ショットがポロリと滑り落ちる。
計画通り! 俺の目よ追え! サーシャの下半身を! スカート履いていなかったのが貴様の敗因だ! じゃない! 性転換銃を追え! 駄目だ! 見たい! 薄桃色のサーシャのあそこを!
だが俺の視界に飛び込んできたのは、桜色の秘所などではなかった。
(て、貞操帯……だと⁉)
そう、サーシャはパンツの下に、乙女の純潔を物理的に守護する、ピンク色のハート型ロックが付いた金属製の貞操帯を装着していたのだ。
こいつ、魔族側でサキュバスだが、カレンへの想いはガチだぜ。
……フッ、敵ながら天晴れ。
俺は絶句するも瞬時に思考を切り替え、ラブリー・ショットを手にした。
「何するし! 返すし!」
「返す義理はない。さらばだサーシャ!」
俺は猛ダッシュでその場を離れた。
まず実験を兼ねてリュカとウッドを性転換させてやる! フハハハ、ざまあみろ! 永遠に女の子とアンアンできなくしてやるぜ!
「待つんだし! 炎よ、あいつを燃やしちゃえええええ!」
「どわっ⁉」
火の球が俺の浴衣を掠めた! なんちゅう威力だ。ギリギリで避けた火の球が、土産物屋の壁をドロリと溶解させてやがる!
こ、これが魔法学校2位の実力⁉ リア充絶対殺すマンが発動しないこいつに、俺は勝ち目がない! なさすぎる! ならどうする! 三十六計、逃げるに如かず!
「待つんだしいいいいいいいいいいい!」
激おこのサーシャが、パタパタと空を飛び、俺に雷撃を雨のように繰り出してくる。
俺はサーシャの黒のパンツと性転換銃を人質に、ブリューレの街を半壊させながら、ギリギリで躱し続ける!
ハアハアハアハア。非常にしつこい。なんとか路地裏に隠れることに成功したが、サーシャめ、ランダムに炎と雷魔法を放って、俺を炙り出そうとしてやがる。
ここから逃れる手段を考えろ、俺! サーシャに性転換銃を発射するか? バカ言え、超絶美少女処女サキュバスが超絶美男子童貞インキュバスになるだけだぞ! 速攻そのままカレンを抱きに行って、ついでにあちこちの女の子を食いまくるわ!
なら……どうする⁉ 考えろ俺! この窮地を脱する策を想像するんだあああああ!
(そうだ。これしかない。サーシャも絶対、俺がこの使い方をすると想像していないだろう)
フッ、愚かだな、サーシャ。その思い込みが貴様の敗因だ。
俺はラブリー・ショットの銃口を、自分自身の眉間に躊躇なく突きつけた。
(ま、美人にならんだろ。でもこれでリイナ、アンナ、レイラと一緒に温泉入って洗いっこもできるし、一緒の布団にも入れるぞおおおおお! 女子同士は、胸を揉んだりキスしたりするのは普通だっていうもんな!)
俺は引き金を引いた。
痛みは全くなかった。
ただ、感じたのは下半身の俺の分身がすぅっと内側に入ってくる奇妙な感触。胸の辺りがむず痒く、張りが出てくる感覚。そして、骨格が軋み、五体がわずかに縮んでいく感覚。
やがて、違和感がなくなり、俺はふうっと息を吐いた。
試しに自分の胸を揉んでみる。おっ、案外ある。意外だ。
次に顔を触る。果てさて俺の容姿はどうなったことやら。お腹回りのくびれと手足の細長さ、肌が滑らかになっているのは分かるが……?
「ちょっと! そこの女の子! 変態見なかったし!」
サーシャがブチギレて俺の目の前に現れた!
わわっ! いきなりバレた⁉ いや……でも、俺を女の子だって⁉
「み、見てません……」
うわっ! 俺の声、高音で可愛いぞ!
「そっ! あんのクソ野郎! 絶対美少年を美少女に変えて調教しようとしているはずだし! それはそれとして、あんたみたいな可愛い子も危険だから、早く避難するんだし! キモメンヤリチンめえええええ!」
そう言って、サーシャは俺に気づかず去っていった。時折、炎と雷で周囲を焦土にしながら。
可愛い? 俺が? つーか俺はヤリチンではないぞ! 純度100%の童貞だ!
それはともかく、美少年ショタを美少女ロリに変えるのは名案だな。
俺はゆっくりと歩き出す。温泉街だ、あちこちの店のガラスが鏡代わりになる。
そこに映っていたのは、黒髪ショートヘアの、どこか儚げな美少女。
え? なにこれ? 俺、産まれてくる性別間違えてたの⁉
そこに映るのは100人の男のうち、100人が恋人にしたいと願うであろう、庇護欲をそそるタイプの超絶美少女だ。
そんな美少女の顔が、ゆっくりと歪んでいく。
「……くふっ」
俺は自分のステータスウィンドウを脳内に表示させた。
称号の欄が、点滅し、バグったように文字化けを繰り返している。
【称号:童貞?】
【称号:処女?】
【称号:童貞?】
【称号:処女?】