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第58話 昔語り(サーシャ)

「こんなことしてる場合じゃないし! カレン様がさっきまでここにいたのは間違いないし!」


 サキュバスのサーシャがそう叫ぶと、彼女を囲んでいたカレン様親衛隊のモブ少女たちも「「「カレン様を探しに行きましょう!」」」と、蜘蛛の子を散らすように宿屋のロビーから駆け出していった。

 後に残されたのは、顔に白いタオルを被らされた男2名と、ドン引きしている女子5名、そして俺1人。

 硫黄の香りが混じった風が、静まり返ったロビーに虚しく吹き込んでくる。


「あっ! 待って!」


「私たちも探しましょう!」


 リイナとアンナの言葉に、レイラとシルフィとミャミャも力強く頷く。

 俺もまた、仲間たちに向かって、ビシッと親指を立てて応えた。


「応!」


(……だが、俺が本当に追うべきはカレンじゃない……! あの処女ビッチサキュバスだ! あの女、自信満々に『性転換させて』とか言ってたな。まさか、本当にそんなアイテムか魔法があるのか⁉ もしあるなら……もし、この世の全てのオスどもを女の子に変えちまえば……! この世界は自動的に、俺のハーレムと化すじゃねえか! クックック……待ってろよ、俺のユートピア……!)


 俺は仲間たちに「別ルートからカレンを探す!」と適当な嘘をつくと、彼女たちの制止を振り切り、サーシャを追って駆け出した。


「うおおおおおおお!」


 湯けむりが立ち上るブリューレの道を、俺は全力で駆ける。石畳が濡れて滑りやすいのも構わない。

 さすがはサキュバス。外見がめちゃくちゃ目立つ。薄桃色の長い髪に、ボンキュッボンのスタイル。すれ違う男たちが全員、俺と同じように股間を膨らませ、恍惚の表情で崩れ落ちている。非常にわかりやすい道標だ。

 俺は小さな黒い羽根をパタパタさせて、土産物屋付近を軽やかに跳んでいくサーシャに、全力疾走してなんとか追いついた。


「おい! サキュバス!」


「うわ……なんで私に付いてくるし!」


 サーシャは心の底から嫌そうな顔で、ゴミでも見るかのような目で俺を見下ろした。

 くそっ! こいつの俺への好感度も地核を突き抜けてやがる! ここはまず相手の警戒心を解き、懐に入ってから性転換アイテムを奪取だ!


「戦うならやってやるし!」


「まあ待て! 俺はあんたの味方だ! 俺がカレンを性転換させてやるのに協力してやる! だから教えてくれないか? 動きながらでいい、あんたがカレンに惚れた経緯を!」


 俺は彼女の、黒ビキニからこぼれ落ちそうな豊満な胸と、きゅっと引き締まったくびれと、プリンと突き出た尻を見ながらハアハアと荒い息を吐きつつ尋ねた。

 サーシャは「キモ……」とボソリと呟いたが、俺の、カレンへの想いに満ちたサーシャに協力してやるという、真っ直ぐな瞳に利用価値を見出したのか、チッと舌打ちしながらも語り始めてくれた。


「あれは魔王様に『ロンブローゾ魔法学校に行け』って言われたのが始まりだし」


 サーシャは屋根の上を走りながら、ぶっきらぼうに言った。


「私は最初、なんで私が人間の学校なんかにって思ったし。でも命令だから仕方なく、男子生徒や男教師の精気をこっそり吸い取りながら、人間の魔法の授業を学んでいったし」


「ちょっと待てい! 精気吸うだと⁉ どうやって吸うんだ? 俺のも吸ってくれ! チューチューとな!」


 キスか⁉ キスなのか⁉


「そんなんじゃないし! そりゃあ、直接が一番効率いいけど、魔力で吸収できるし!」


「なら俺のも吸え! 俺の味を覚えろ! そして俺の虜になれ!」 


「絶対嫌だし! もう次はカレン様のだけって決めてるんだし!」


「クソったれ、精気吸われる感覚、味わいたかったぜ……」


「話を戻すし! 私は魔法学校でずっと成績2位だったし! 天才だし!」


 そう言って、サーシャは教会の尖塔のてっぺんへ向けてポーズを決め、豊かな胸を張る。


「フッ、2位は天才じゃないな。天才の称号は1位のみに与えられるのだ!」


「分かってるし!」


 プンスカと頬を膨らませて拗ねるサーシャ。くっ、可愛いじゃねえか。

 サキュバスボーナスで、カウントされずにこいつと経験できるってオチがないか真剣に考えなければ!


「その1位の真の天才が、カレンだったってわけだな」


 俺がそう言うと、サーシャは小さく、悔しそうに首を縦に振った。


「屈辱だったし。周りの男も女もみんな私をチヤホヤしてくれるけど、ホントはみんなカレン様に惚れてるの知ってたし。その時のカレン様はいつも1人で行動してるのに、誰かがピンチになると必ず現れて解決するヒーローだったし。……おかげで魔王様から『工作が進んでない』って怒られたし」


「ちょっと待てい! 誰かがピンチって、その状況作ったのあんただろ⁉」


「それが私の仕事なんだから当然だし! でもカレン様は、最初から私が犯人だって勘付いていたのに、何も言わなかったし。だから直接、カレン様を倒すべく動いたし……男どもを使って寝込みを襲撃しようとした……けれど」


「返り討ちか」


 俺の言葉に、サーシャは再びコクンと頷いた。


「そのすぐ後、カレン様は私のところに来たし。殺されるってマジで思って震えたし。でも……」


 サーシャの脳裏にあの日がよぎる。

 恐怖と絶望と、涙に濡れた自分の表情を。


『サーシャ、お前、その黒い羽根、無理して隠してるだろ? 別に羽根があったっていいじゃないか』


 サーシャが恐る恐る見たカレンは、優しげに微笑んでいた。


「それだけ言って、カレン様は私に背を向けたし。そのあと、カレン様は襲撃させた男子たちを全員フルボッコにした件で、退学になったし」


 そこでサーシャは立ち止まり、大きな瞳からポロポロと涙を流し始めた。


「退学になったことも、私に何も告げないし! ついでに他に潜入していた魔王様の部下の男どもも全員フルボッコにしていったし! もうこうなったら、私がカレン様にできる恩返しは、激おこの魔王様が送り出す刺客からカレン様を守って……私の一番大切な処女を捧げることだけだし!」


 気合を入れ直し、再び走り出すサーシャ。


 ん? こいつ今、さらっと凄いこと言ったな。

 魔王が送り出す刺客がなんだって?

 

 俺は理不尽な世界の真実を叩きつけるべく、サーシャの背中に向けて、魂からのツッコミを叫ばずにはいられなかった。


「って! カレンが魔王に狙われる理由、お前が原因かああああああああい!」

 

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