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第55話 お土産は曽祖父の首級をご所望のようです

 保養都市ブリューレの、とある宿屋の一室。

 天井の梁にリュカとウッドが綺麗に突き刺さり、俺はわなわなと震え、顔面蒼白になりながら、目の前の少女の顔をまともに見ることができないでいた。

 そんな俺の異変に気づいたのか、カレンが「どうした? まだ気分悪いのか?」と、顔を覗き込んできた。

 その仕草はどこか男性的で、ぶっきらぼうでありながら、気遣いが感じられる。


(可愛くてカッコいいなこの子……。でも望みが曽祖父の首級って……。怖すぎるだろ! 戦国武将かよ! この子が仲間になったら、夜中に寝首を掻かれそうで眠れねえ!)


 ちなみに、天井ではシルフィとミャミャが「リュカ様、しっかりしてください!」「もうちょっとにゃ、頑張るにゃ!」と、リュカの足を掴んで必死に引き抜こうとしているが、びくともしていない。

 うん、もう諦めろ。

 ウッドが無視されてる絵面が地味にシュールだ。


 そんなカオスな状況を無視し、リイナがすっとカレンの前に進み出た。


「大魔導士パーカッションの曾孫、カレン殿とお見受けする。どうか我々に力を貸していただけないだろうか。どうしようもない勇者が一緒だが、私もアンナもレイラも歓迎する。共に魔王と勇者を倒そうではないか!」


「って! ちょっと待てい! なんで俺も倒す流れになってんだよ!」


 俺の魂のツッコミも虚しく、カレンは俺たちを一瞥すると、あっさりと首を横に振った。


「悪いな。あたしも色々あってな」


 彼女は天井に突き刺さった2人の男を親指でクイッと指し示す。


「一応全員目覚めたし、あたしはここで失敬する」


 そう言うと、カレンはくるりと踵を返した。

 その背中に、アンナが慌てたように声をかける。


「あっ、待ってください! さっきも言いましたがカレンさんのひいおじいちゃんに頼まれたんです! セイヤさんが気に入らないならここに置いていきますので!」


「って! ちょっと待てい! 勇者パーティで勇者の俺を置いていってどうするんだ!」


 そして内心ではこう思いながら。


(爺さんの名前出すなああああ! ここで首が欲しいなんて言われたら、俺のSAN値がゼロになっちまう!)


 だが俺の心配をよそに、カレンは少しも動揺した様子を見せない。


「ああ、曾祖父さんな。何を思って言ったのかは知らんが、老人の世迷い言さ。暇してる魔女なら他にもいるだろ。悪いな」


 カレンはアンナの手をそっと両手で包み込むと、真っ直ぐにアンナの目を見て、諭すように呟いた。

 その姿は、まるで少女漫画に出てくるイケメンそのものだ。


(おお、イケメンだ。……ん? でも、パーカッションの爺さんの首を欲しがっているようには見えないぞ。もしかして……)


「な、なあ、欲しいものがあったりするか? 例えば、曾祖父さんの首級とか」


 俺は意を決して、お土産スキルの精度を確かめるべく、禁断の質問を口にした。

 もう一つ意味がある。そこからグリーンウェルがカレンを始末しようとする意味、守れる手段がないかを見極めるためだ。

 まあ、本音は戦国武将思考は怖い、だが。

 その瞬間、カレンは心底怪訝そうな顔で、眉をひそめて俺を見返した。


「ハァ?」


(よかった! カレンが戦国武将じゃなくて本当によかった! でも、これでこのスキルがただのハズレスキルだってことも確定したな! 封印だ、封印!)


「セイヤ!」

「セイヤさん!」


 リイナとアンナが、ムスッとドン引きした目で俺を見ている。

 レイラちゃんは温泉饅頭を食べる手を止めて、ただ静かに俺を観察している。

 お願いだから会話に参加して!


 だが次の瞬間、カレンが「……名案だな」と、ボソリと呟いた。


「え?」


 俺の問いかけを無視し、カレンは天井を見上げる。

 彼女はため息を一つつくと、まるで邪魔な小枝でも払うかのように、天井に向かって指をパチンと鳴らした。

 その瞬間、リュカとウッドの身体が淡い光に包まれ、ずりずりと音を立てて梁から抜け落ち、床に綺麗に着地した。


「……無詠唱魔法……ですか」


 レイラが驚愕に目を見開いて呟く。

 シルフィとミャミャは助け出されたリュカに駆け寄りながらも、カレンに向かって深々と頭を下げた。


「あ、ありがとう!」

「助かったにゃ!」


 カレンはそんな感謝の言葉に「別に」とだけ短く返すと、今度こそ本当に背を向けた。


「じゃあな。あと、あたしに出会ったことは内緒な!」


 カレンはそれだけを言い残すと、俺と初めて出会った時のように、廊下を猛スピードで走り去っていった。


(……お土産スキル、ザッハークの人形でのリイナの時もそうだったが、本人が自覚していない深層心理を暴き出すのか……? もしかしてこのスキル、とんでもなくヤバい代物なんじゃ……!)


「セイヤ! ふざけたことを言ってあの子を惑わすな!」

 

「そうです! カレンちゃん、何か秘密を抱えているようです! そこをゆっくり解き明かしたかったのに!」


 リイナとアンナがプンスカと頬を膨らませて俺に詰め寄ってくる。

 シルフィとミャミャは助かったリュカを介抱している。

 頼むからウッドのことも気にしてあげて!


「というか、なんで大魔導士パーカッションの命なんて発想に至るのか不思議です。セイヤさん、なんでそう思ったんですか?」


 レイラの純粋なフリをした瞳が、俺の心の最も柔らかい部分を的確に穿ってくる。

 俺がしどろもどろになって言い訳を考え始めていると、ふわり、と甘い香りが部屋を満たす。

 いつの間にか、部屋の入口に新たな人影が立っていた。

 薄桃色の長い髪に、ボンキュッボンという擬音が世界で一番似合うであろう、奇跡のスタイル。そして、背中には小さな黒い羽根。

 まさかこいつ!


『リア充チェッカー』

【サーシャ(魔族・サキュバス】【最終性交時間: 無】


(無、だと⁉ サキュバスで無って何だよ! 存在意義の根幹を揺るがす矛盾じゃねえか!)


 俺が内心で絶叫していると、リイナが鋭く叫んだ。


「その黒い羽根、魔族か⁉」


 その一言で、ようやく天井から解放された2人以外の全員が、一斉に臨戦態勢に入る。

 だが、そのサキュバスは俺たちの殺気など意にも介さず、甘ったるくて、男の脳髄を蕩かすような声で、こう言ったのだった。


「カレン様は、どこ?」

 

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