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第50話 昔語り(シルフィとミャミャ)

 ウッドが立て籠もり、リュカが捕らえられた山の古城へと、俺たち勇者一行は足を進めていた。

 先導するのはリュカのパーティメンバー、シルフィとミャミャだ。


(くそっ、聞きてえ……! めちゃくちゃ聞きてえ! ミャミャに、さっきの『リイナからグリーンウェルのおっさんの臭いがする』って話の続きをよ!)


 だが俺にそんな隙はなかった。

 女3人寄れば姦しいとはよく言ったものだが、今は5人だ。

 普段のリイナ、アンナ、レイラの姦しさに、シルフィとミャミャが加わったのだ。

 俺が割り込む隙間など原子レベルで存在しないほど、会話が途切れない。

 ちなみに姦しいの字に、俺は興奮した過去があります。


「リイナ様、古城が見えてきたら、まずは私が先行して斥候を務めます」

 

「いえ、シルフィちゃん。それは危険ですよ。私たちも行きます。みんなでウッドさんをボコボコにして経験値に変えましょう!」

 

「孤高の剣士ウッドの実力は折り紙付きです。報酬として、彼にタダ働きさせるのもアリですね」

 

「待て、お前たち。ウッドの事情も聞こう。勇者選定武闘大会の準優勝者なのだ。みんな顔見知りだろ」

 

「リイナ王女様は優しいにゃ。今度は王女様もいるにゃ。説得が通じるかもしれないにゃ」


 俺は俺で、別の心配事しながら聞き耳を立てていた。


(よしよし、今のところビッチトークの気配はねえな。頼むから俺の仲間たちを穢してくれるなよ、このビッチどもめ!)


 そんな俺の心配をよそに、話は本題へと向かっていく。

 リイナが真剣な表情で2人に尋ねた。


「しかし、解せん。君たちほどの腕利きが、なぜウッドたった1人に敗れたのだ」


「……私たちも、ウッドと親しかったからショックでした。まさか、彼が悪党のカリスマになってるなんて……。それで、出頭するように説得したんです……」


 シルフィが悔しそうに唇を噛む。

 親しいの意味が男女の仲ってことはツッコまないでやろう。


「……戦闘になっても、ウッドは私たちに目を合わせてくれなかったにゃ……。それでリュカ様が縄で縛られて、古城の奥に引き摺られて……! その隙に、私たちは命からがら逃げたにゃ」


 しょんぼりと肩を落とす2人に、リイナもアンナも感情移入するように悲しい顔をする。


「そうか……辛かったな」

 

「大丈夫ですよ! 私たちがついてますから!」


 レイラは……うん、温泉饅頭を食っている。

 おい、ちびっ子聖女! 迷える子羊の話を聞くのもシスターの仕事だろうが!


(目を合わせず、ねえ……。それってアレだろ。恨みからだろ。ウッド闇堕ちの理由、やっぱりこいつらが作ったんじゃねえのか? ウッドのアレの大きさをからかったとか、経験の差を見せつけたとか……! まさか……リュカの尻に入れたのをウッドも後から知って、あれは男の尻だったと確信し、絶望したとか? くっ! 闇堕ちする理由、十分過ぎるぜ……!)


 俺が女の子5人の後ろで、友の悲劇に感極まって静かに泣いていると、リイナが意外なことを口にした。


「シルフィ、ミャミャ。黄金のナイト殿を慕う君たちの気持ち、痛いほど伝わってくる。もしよければ、君たちの馴れ初めを教えてくれないか?」


(何ぃ⁉ リイナに他人の色恋沙汰への興味があっただと⁉)


 まあ、あらゆる問題があるが、慕ってるっちゃ慕ってるし、俺も興味はある。

 いいか? リイナがリュカに興味を持たないように「リュカ様は私のだから、王女様は話だけを聞いてね」モードで話すんだぞ、と俺は内心でシルフィに念を送る。


「はい! 私も興味あります! エルフの里とか猫獣人の里にも行ってみたいですし!」


 アンナがにこにこして言うけど、俺にはわかる。彼女の瞳の奥で「エルフの里(EXP:5000)」「猫獣人の里(EXP:8000)」とか経験値換算してるのがな!


「私も気にならないと言えば嘘になります。聞かせてください」


 レイラまでが興味を示す。

 シルフィとミャミャは顔を見合わせ、頬をポリポリ掻くと、シルフィが観念したように語り始めた。


「私はエルフの里で、まあ……不良娘ってやつでした。里の近くを通る人間を襲っては、身ぐるみ剥いで、手に入れた武具を街で売ったりして。その金で不良仲間と美味しいものを食べる……そんな毎日を過ごしていました」


(なにそれこわっ! エルフの不良少女集団ってなんだよ! それで街で美味しいもの食べる? 森の民のエルフのイメージぶっ壊すなよ!)


「どうして、そんなことを?」


 リイナが訊ねる顔に不快感はない。ちくしょう、リイナも同性には甘いんだな。

 俺がそう思っていると、レイラが補足するように歴史を口にする。


「10年前に、とあるエルフの里に魔族が攻め入った時、近隣の人間の領主は救援要請に応じず、多くのエルフが犠牲になったと聞き及んでいます」


「鬱憤晴らし……ですか?」


 アンナも続ける。


(な⁉ レイラちゃん、無知な俺に知らせるように呟いてくれてナイス! そんな当然の知識があるから、リイナもアンナも金品強奪犯の自供を冷静に聞いているんだな。おっと違った。シルフィの過去話だった)


 俺が納得していると、するりと隣にミャミャが移動してきた。

 俺たちはひそひそ話を開始する。


「ミャミャはシルフィの話はもう知ってるから、こっちに来てやったにゃ。聞きたいことがあるのにゃ?」


「感覚鋭くて助かる。どうなんだ? 今のリイナは?」


「あのヤバい感覚は全くないにゃ。気のせいかもしんにゃい……って言いたいけど、あのあと急速に臭いが消えてったのを嗅いだにゃ。この感覚、間違いないにゃ」


「……まさか、口でやって、一滴残さず綺麗にごっくんしたから消えたとか! うああああああ! 考えるだけで気が狂いそうだ! 」


 俺のチェッカーがバグってる可能性も出てきたぞ! 実は無じゃなかったオチは、俺の魂の死を意味する!


「……とんでもない発想にゃ。勇者オオイシセイヤ。ミャミャが今まで出会った人間で一番の激ヤバにゃ……」


 俺とミャミャがそんな密談をしている間に、シルフィの昔語りはクライマックスを迎えていたらしい。


「……というわけで、私はリュカ様と生涯共にいることを誓ったのです」


(なんと! シルフィの過去話が終わってる!)


 気づけば、リイナもアンナも号泣しており、あのレイラちゃんまでが目元を指で拭っているではないか。


「辛かったな、シルフィ……。今後も何かあったら、私たちを頼ってくれたまえ」

 

「うっぐ……ひっぐ……シルフィちゃん、黄金のナイトとお幸せにいいいい……。『君のその綺麗な金色の髪が、血で汚れるのは見たくない』って反則だよおおおお」

 

「主は全てを見ておられます。シルフィさんの清い想いは、きっと主も涙を流して導いてくれるでしょう」


(え? え? リイナもアンナもレイラちゃんまでも、そんなこと言うぐらい凄い話だったの? 何この仲間はずれ感!)


「次はミャミャちゃんの番だよ~」


 アンナが涙声で促す。


「しょうがにゃいにゃあ」


 ミャミャはそう言うと、自身の過去を語り始めた。

 猫獣人の里での辛い境遇、悪徳な奴隷商人との出会い、そして絶体絶命の危機に颯爽と現れ、彼女を救った黄金のナイトの雄姿……。


 聴き終わる頃には、俺もまた、嗚咽を漏らしながら号泣していた。


「うおおおおお……! 奴隷商人と、そいつに雇われた傭兵100名をたった1人でなぎ倒す黄金のナイト……! 『もう君は1人じゃない。僕が、君の家族になる』って、かっけえよおおおおおおおお!」

 

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