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第44話 悪党たちのカリスマ

 崖崩れの現場は、俺たちが開けた風穴によってかろうじて道が繋がった。

 だが、周囲にはもう一つの惨状が広がっていた。

 ついさっきまで威勢よく馬に跨っていた盗賊どもが、今は縄でひとまとめにされて無様に地面に転がっている。


「さて、と」


 リイナは剣についた土埃を払うと、冷徹な眼差しで盗賊たちを見下ろした。


「尋問の時間だ。レイラ、頼む」


「はい、かしこまりました。……えー、口だけ喋れるようにする回復魔法、ワンコインでいかがですかー?」


 レイラはにっこりと、商魂たくましい笑顔を盗賊たちに向ける。

 おいおい、金を取るのかよ。

 まあ当然、返事をする者はおらず、レイラはチッと小さく舌打ちすると、仕方なさそうに手をかざした。

 聖なる光が盗賊たちを包み、彼らの呻き声が止まる。


「お前たち、どこへ向かおうとしていた? 何が目的だ?」


 リイナの王女としての威厳に満ちた声が谷間に響く。

 けれど盗賊のリーダー格は、ニヤリと汚い歯を見せてせせら笑った。


「へっ、お前らみたいな小娘に話すことなんて何もねえな。さっさと殺しやがれ」


「ふふっ♪」


 その瞬間、リーダーの隣でアンナが満面の笑みを浮かべながら、両手の拳をパキポキと小気味よい音で鳴らし始めた。


「そうですかあ。それなら、まずはその口を物理的に開かせる練習から始めましょうか。下顎の骨を粉砕しないように、ギリギリの力で殴る練習です♪ とってもいい経験値稼ぎになりそうですね♪」


「ひっ……!」


 アンナの笑顔の裏にある、純粋な狂気に盗賊の顔が引きつる。

 そこへ、レイラの天使のように澄んだ声が盗賊たちの脳内に直接響き渡った。


『……闇よりもなお昏きもの、ヤマの投げ縄が汝の生命を捕らえ、ヴィタラニーの腐水が汝の骨の髄までを蝕むだろう。マーヤーの濃霧が汝の理性を覆い、サンサーラの車輪が汝の精神を永遠に砕き続け……』


「わああああああ! なんじゃこりゃー。頭が割れそうだ! 話します! 何でも話しますから! それやめてくれええええ!」


(フッ、悪を知らぬ者が悪を取り締まれるか、ってよく言ったものだな)


 火付盗賊改方かよという女の子たちの拷問に、盗賊どもは命欲しさに、我先にと情報を吐き始めた。


「お、俺たちは保養都市ブリューレの近くの山に向かってたんだ!」

「そ、そこに、とんでもねえお方が現れたって聞いてな!」

「ああ! 俺たちみたいな悪党を束ねてくれる、最高のカリスマだってよ!」


 悪党たちが口々に叫ぶ。

 リイナが眉をひそめ、さらに問い詰めた。


「カリスマだと? 一体何者だ」


「そ、それは俺たちもまだ会ったことがねえんだ! だが腕は確かだ! なんせ、あの有名な1級冒険者、黄金のナイト率いるリュカ一行を、たった1人で倒したって話だからな!」


「何ぃ⁉ リュカを倒しただと⁉」


 思わず叫んだのは俺だ。

 リイナとアンナも驚いた顔で顔を見合わせている。


(え? あのリュカが俺以外に負けたのか? 嘘だろ? いや、ちょっと待て、正直、あいつが強いところ、一回も見たことねえしな。俺のサンドバッグになってる姿しか知らんから、いまいちピンとこねえな。でも、シルフィとミャミャも一緒だったか。あいつらの実力は武闘大会で見た。間違いなく本物だった。その2人もまとめて倒したとなると……相当な手練れか)


 まあ、あのビッチどもがどうなろうと知ったこっちゃない。

 リュカ以上に、助けたいと1ミリも思わん2人だ。


 俺が内心で毒づいていると、遠くから馬の蹄の音が近づいてくる。

 現れたのは近隣の領主から派遣された、屈強な衛兵の一団だった。

 俺たちは盗賊を衛兵に引き渡し、レイラがちゃっかり報奨金の入った革袋を懐にしまい込むのを横目に、再びブリューレへと続く道へと足を踏み出した。


 歩きながら、リイナが険しい表情で口を開いた。


「セイヤ、盗賊の言っていたことが気になる。各地の悪党どもをまとめ上げようとするカリスマの存在……。見過ごせば、大規模な叛乱に繋がりかねん。我々の手で調査すべきだと思うがどうだ?」


 リイナの真剣な眼差しに、俺の脳内計算機が高速で答えを弾き出す。


(よしきた! 悪党のカリスマで、近くの街で女性失踪事件が起きている。これ犯人確定だろ。犯人なら、絶対ヤッてる! それも24時間以内に! つまり俺の『リア充絶対殺すマン』が発動して、瞬殺確定! 計画通り! こんなに好都合な話はない!)


 俺は仲間たちに向かって、ビシッと胸を張って宣言した。


「ああ、もちろんだ! ブリューレの女性失踪事件! パーカッション爺さんの曾孫の勧誘! 悪党のカリスマ成敗! 全部まとめて、この俺たち勇者一行が解決してやろうぜ!」


 俺の言葉に、リイナも、アンナも、レイラまでもが力強く頷き返してきた。


「うむ!」

「はい!」

「そうですね!」


(うおおおおお……! みんなが俺の言葉に……! 俺の提案に、スルーせずに頷いてくれた……! 俺には仲間がいる。こんなに嬉しいことはない! これが仲間の絆……! なんて温かいんだ……!)


 俺は異世界に来て初めて味わう、本物の仲間との一体感に、柄にもなく目頭を熱くさせた。

 だが俺がそんな感動の余韻に浸っているのも束の間、3人はさっさと俺に背を向け、歩きながら「ブリューレに着いたらまず何を食べようか」という女子トークで盛り上がり始めた。


「おーい! もうちょっと俺の感動に付き合ってくれてもいいだろ!」


 俺の魂の叫びは、みんなの陽気な喧騒にかき消されていった。


 ***


 その頃。

 陰鬱な空気が漂う、古城の地下牢。

 汚れた石畳の上に、手足を固く縛られたリュカがうつ伏せに転がされていた。

 彼のプライドは度重なる敗北と屈辱によって、ズタズタに引き裂かれている。


 カツン、カツン……。


 静かな牢獄に、無機質な足音が響き渡る。

 足音はリュカの目の前でピタリと止まった。

 リュカは憎悪に燃える瞳で、ゆっくりと顔を上げる。


「なぜ……こんなことをするんだ! ウッド!」


 そこに立っていたのはかつて孤高の剣士と呼ばれた男。

 だがその表情に昔日の面影はなかった。

 リュカの瞳に映ったのは、氷のように冷たく、昏い光を宿した、憎悪に滾る顔だった。

 

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