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第43話 崖崩れは物理的に対処しよう

 村の小さな診療所のベッドで、伝説の大魔導士パーカッションは弱々しく横たわり、俺たち勇者一行に見守られながら、最後の力を振り絞るように、か細い声で語っていた。


「ゴホッ……ゴホッ……。儂も、もう長くはあるまい……。じゃが、心残りがある。……保養都市ブリューレを目指すのじゃな、王女様御一行。……ならば、ブリューレに、儂の曾孫が……ガハッ!」


「おじいちゃん! 無理しないで!」


 アンナが涙ながらに駆け寄る。

 爺さんはアンナの手を弱々しく握り返すと、言葉を続けた。


「……名はカレン。……どうしようもないお転婆で、魔法学校退学になる一族の恥じゃが……儂の才能を一番濃く引き継いでおるのじゃ。……どうか、あの子を……仲間に誘ってくれんかのう。この、役立たずの儂の、代わりに……未来を切り拓く魔法を……王女様たちに……」


 そう言うと、パーカッション爺さんは満足したかのように、ふっと息を吐き、安らかな顔で目を閉じた。


「……ああ、我が魔法人生に、一片の悔いなし……」

 

 爺さんの言葉は、まるで燃え尽きる蝋燭の最後の輝きのようだった。


「おじいちゃああああああああん!」


 アンナがベッドに突っ伏し、子供のようにワンワンと泣きじゃくる。

 リイナも瞳を潤ませ、偉大な魔法使いに向かって、そっと敬礼した。


「パーカッション殿……。あなたのその熱き想い、確かに受け取りました。あなたの曾孫、必ずや我々が勇者パーティの一員として立派に育ててみせましょう」


「もぐもぐ……。すごい魔法使いなら、食料を魔法で作り出せたりしないんですかね……」


 感動的な光景の中、レイラだけが冷めた目で干し肉を咀嚼していた。

 

 そして俺は……俺だけはこの茶番の真相を知っていた。

 俺のスキル『リア充チェッカー』が安らかな顔で眠る爺さんの頭上に、無慈悲なウィンドウを煌々と輝かせている。


【パーカッション(人間・大魔導士)】

【最終性交時間: 20時間8分9秒前(相手:村の御婦人(38歳)と不倫)】


(……いや、秒数、しっかり進んでるし! ピンピンして生きてるじゃねえか、このスケベ爺! ていうか90歳で不倫って、元気すぎだろ! ギックリ腰の原因絶対そっちだろ! 大魔導士ってのは下半身もレジェンド級なのかよ! 仲間にならなくってよかったぜ!)


 俺は天を仰ぎ、深いため息をついた。


(それにしても、カレンねえ。この爺さんの曾孫で、お転婆で、魔法学校退学だあ? ……100%ビッチに決まってんだろ! 却下だ、却下! リイナやアンナ、レイラが影響されてビッチになったらどうするんだ! 俺のハーレム計画が崩壊するだろうが!)


 俺は固く心に誓うのだった。


 ***


 爺さんの一件はともかく、道が塞がれているのは事実だ。

 俺たちは村の男たちと協力し、崖崩れの現場で少しでも早く道が通れるよう、地道な復旧作業にあたっていた。

 そんな時だった。

 パカラッ、パカラッ、と複数の馬の蹄の音が谷間に響き渡る。


「む? 近くの領主が噂を聞きつけ、応援に駆けつけてくれたのだろうか?」


 リイナが期待に満ちた顔で音のする方角を見るが、姿を現した一団を見て、チッと鋭く舌打ちした。

 アンナとレイラも瞬時に食事や手入れを中断し、臨戦態勢に入る。

 それもそのはず、現れたのは見るからに柄の悪い、十数名の武装した男たちだった。


「なんだよ、崖崩れかよ。ちっ! 困ったぜ、こちとらお尋ね者なのによお!」


「ギャハハ、でも奴隷どもがいるじゃねえか。おいお前ら! 近くの村のもんか? 汗水流して働けや! 女は村まで案内しろ! 村に着いたらた~っぷり可愛がってやるぜえ。馬の上でもヤッてやるけどよお!」


「ケッケッケ、超可愛いのが3人もいやがる。崖崩れとは運が悪いと思ったが、こりゃあ超絶運がいいぜえ!」


 男たちは馬上で下品な舌舐めずりをしながら、俺たちを値踏みするように見下ろしてくる。

 俺の『リア充チェッカー』も、仕事の時間だとばかりにウィンドウを表示した。

 うん、全員が数時間前の【村娘に無理やり】という、わかりやすいクズリア充だ。


 怯える村人たち、ブチギレ寸前の仲間たち。

 そんな状況で、俺はにやりと口の端を吊り上げた。

 仲間たちが飛び出すのを手で制し、一歩前に出る。


「おい、そこのゴミども。てめえらの相手はこの俺1人で十分だ。怖いのか? たった1人相手にボコられるのがよ!」


「なんだと⁉ このクソガキが!」


 盗賊たちが一斉に怒りを露わにする。俺は視線だけで仲間たちに「崖崩れ現場から離れろ」と指示を送った。


「セイヤ、カッコつけたいのはわかるが多勢に無勢だ。村人もいる。……10秒だ。10秒で決着しなければ加勢する」


 リイナが冷静に、だが俺を信頼した目で告げる。


「トドメを刺しちゃダメですよ♪ 私がトドメを刺して、経験値に変えるんですから!」


「まあ、期待してますね。盗賊を突き出して得られる報奨金を」


 アンナとレイラも通常運転だ。

 俺は雄叫びと共に、地面を蹴った。


【ユニークスキル:『リア充絶対殺すマン』発動!】


「うおおおおおおおおおお!」


 神域レベルの力を得た俺にとって、盗賊どもはサンドバッグ以下の存在だ。

 俺は面白いように盗賊たちを掴んでは投げ、ぶん殴っては蹴り飛ばす。

 全員を、崖崩れで道を塞いでいる巨大な岩石めがけてな。


 ドゴォッ! バキィッ! ゴシャアアアン!


 盗賊たちが岩に叩きつけられるたびに、岩盤に亀裂が走り、面白いように穴が空いていく。


「ひいいい! 逃げろ!」


「ば、化け物だ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げようとしたり、リイナたちを人質に取ろうとしたりする不届き者もいたが、リイナの剣閃とアンナの回し蹴りが奴らの思惑を許さない。

 10秒後。全ての盗賊は地に伏し、完全に沈黙していた。


「うわあああ! 岩が崩れてくるぞーっ!」


 俺が盗賊に与えたダメージが、崖崩れの均衡を崩したらしい。

 無数の岩石が轟音と共に降り注いでくる。

 村人たちが悲鳴を上げる中、俺たちは誰に言われるでもなく、同時に動いた。


「どりゃああ!」

「フンスッ!」


 俺とアンナの拳が巨大な岩を粉々に砕く。


「そこだ!」


 リイナの剣閃が落ちてくる岩を細かく切り刻む。


「結界、展開します」


 レイラの張った聖なる結界が、降り注ぐ岩石から村人たちを完璧に守り切った。


 やがて土煙が晴れた時、そこには俺たちの目の前に、向こう側へと続く道が奇跡的に開けていたのだ。


 俺は汗を拭い、クールに決める。


「フッ、盗賊が通りがかって助かったぜ」

 

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