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第19話 11歳の美少女聖女レイラちゃんとの準々決勝戦!

 闘技場を揺るがす鬨の声が俺の鼓膜を不快に震わせる。

 準々決勝第四試合。観客の視線は期待と好奇と、俺に対する侮蔑が入り混じった複雑な色をしていた。

 無理もない。ここまでの俺の勝利は全て相手をワンパンで沈めるという、あまりにも理不尽で、実力が全く見えないものだったからだ。


 俺は闘技場の中央に進み出る。

 向かい側から、対戦相手である聖女レイラが静かな足取りで歩いてくる。

 年は11歳。陽光を浴びて輝く清らかな銀髪に、穢れを知らない純真な碧眼。

 紺色のシスター服に身を包んだ姿は血と汗と野心が渦巻くこの闘技場において、場違いなほどの神々しさを放っていた。

 もちろん、彼女の頭上に浮かぶ表示は【無】だ。

 俺の最強スキルが通用しない、絶望的な相手である。


 ゴォォォォォン、と試合開始を告げる重々しいゴングが鳴り響いた。


「さあ、試合開始! 一切の戦闘を見せず勝ち上がってきた聖女レイラ選手! 対するは全ての相手をワンパンで葬り去ってきた謎の新人、オオイシセイヤ選手! いったいどんな戦いが繰り広げられるのかーっ!」


 審判のシャーロットが、まだリュカショックの余韻が残る気だるげな声で叫ぶ。

 俺は腰を落とし、慎重に構える。

 まずは相手の出方を見る。戦わずに勝ってきたということは何らかの特殊能力の使い手のはずだ。

 上目遣いでのお願いだったらどうしよう。

 銀髪11歳少女シスターにそんなことされたら……参りましたと言うしかない!


 そう思考した刹那。


『闇よりもなお昏きもの、ヤマの投げ縄が汝の生命を捕らえ、ヴィタラニーの腐水が汝の骨の髄までを蝕むだろう。マーヤーの濃霧が汝の理性を覆い、サンサーラの車輪が汝の精神を永遠に砕き続け……』


「な、なんだこれ⁉」


 俺の脳内に直接、不気味で禍々しい呪いの言葉が響き渡る。

 頭蓋骨の内側を直接ヤスリで削られるような、耐え難い苦痛と不快感が襲う。

 視界がぐにゃりと歪み、立っていることすらままならなくなる。


 すると脳内にレイラの澄み切った、感情の読めない声が追い打ちをかけるように響いてきた。


『それは聞き終われば必ず死ぬ呪文です。私の勝ちを認め、降参すれば、今すぐ呪文を止めますよ』


 俺は脂汗を流しながら、目の前で静かに微笑む少女を見た。

 彼女の顔は聖女そのものなのに、やっていることはえげつないにも程がある。

 必ず死ぬってチートにも程があるだろ! ザ◯キの確定演出は戦闘をつまらなくしちゃうんだぞ!


(か、可愛い顔して、やってることが暗殺者の手法じゃねえか! 清廉なシスターがこんな外道スキル持ってていいのかよ⁉)


 だが俺の内心のツッコミも虚しく、呪詛は進行していく。

 意識が急速に薄れ、膝がガクガクと震え始めた。

 くそっ、このままじゃ本当に殺される!

 降参? ふざけるな! 俺にはリイナ王女と結ばれるという、輝かしい未来がかかっているんだ!


(そうだ、スキルだ! この闘技場での戦いでレベルは20になっている。上がった時に、いくつか新しいスキルを習得していたはずだ! 何か……何か、この状況を打開できるスキルは……!)


 俺は薄れゆく意識の中、必死で脳内のスキルリストを検索する。


【新スキル:視認した対象の乳首の色がわかる】

 

(うおお、これは後々めちゃくちゃ役に立つ神スキル! だが今は役に立たねえ!)


【新スキル:視認した対象がパイパンかどうか鑑定できる】

 

(これも非常に重要度の高い情報だ! だが今はどうでもいい!)


【新スキル:視認した対象へのお土産に何が喜ばれるか提案する】

 

(これはマジでどうでもいい! なんだこのクソスキル!)


【新スキル:視認した対象にタトゥーがあるか確認できる】

 

(まあまあ重要だが、戦闘にまったく関係ねえよ!)


 使えないスキルのオンパレードに、俺の心は絶望に染まっていく。

 ああ、もうダメだ。降参するしか……。


『……破壊神の第三の目が開くとき、マハープララヤの劫火が汝の存在を痕跡すら残さず焼き尽くす……』


 諦めかけた俺の目に、スキルリストの最下層で、悪ふざけのような名前のスキルが飛び込んできた。

 これしかない。効果は未知数だがこのまま呪殺されるより万倍マシだ!

 何より、今際の最期はそれを手にしながらでいたい!


(こ、これだ! 賭けるしかねえ! 幸運値だけは高いあいつよ、今だけ俺に乗り移れ!)


 俺は残った全ての気力を振り絞り、そのスキルを発動させた。


「スティ……じゃなかった。スキル発動! 【オプションで追加料金を払い、対象の下着を我が手に召喚する】ッ!」


 次の瞬間。

 俺の右手に、ふわりと柔らかくて温かい布の感触が生まれた。

 見れば、そこにあったのは紛れもなく少女ものの小さなパンツだ。

 白地に、愛らしいクマさんの刺繍がワンポイントで施されている。


 闘技場が水を打ったように静まり返った。

 観客も、審判も、貴賓席の王族たちも、目の前で起きた超常現象を理解できず、あんぐりと口を開けている。


 そんな静寂を切り裂いたのは聖女の悲鳴だった。


「キャアアアアアアアアアアッ!」


 レイラが甲高い声を上げ、スカートの裾を両手で必死に押さえながら、その場にへたり込んだ。

 聖女の仮面は剥がれ落ち、顔は羞恥でリンゴのように真っ赤に染まっている。

 それと同時に、俺の脳を苛んでいた不気味な呪詛がプツリと綺麗に途切れた。

 

 スースーしてるんだろう。フッフッフ、ハッハッハ、思った通りだ。呪殺なんて強力呪文、凄まじい集中力を要するはず。お年頃が股間がスースーしていたら呪殺どころじゃないよなあ?

 

(……勝った!)


 形勢は完全に逆転した。

 俺は笑みを限界まで口の端に浮かべると、レイラのパンツを人差し指でくるくると回しながら、勝ち誇って宣言した。


「おい、聖女様。パンツを返して欲しければ、さっさと降参するんだな」


「……あ、あなたのような方の手に触れたパンツ……もう、履けません……。でも、あなたがそれを持ち続けるのは……もっと嫌です……」


 レイラは瞳に大粒の涙を浮かべ、屈辱に声を震わせる。

 彼女の痛々しい姿に、我に返った観客席から、俺に向かって嵐のようなブーイングが巻き起こった。


「卑怯者ォォォ!」

「最低だ!」

「聖女様に何てことをしやがる!」


 だがそんな声は俺の耳には届かない。

 俺はゆっくりとレイラの前に歩み寄り、しゃがみ込むと悪魔の囁きを吹き込んだ。


「へえ、いらないんだ? じゃあ、このパンツ、俺がもらっちゃうかな。なんなら今ここで、この闘技場のど真ん中で被って、クンカクンカしてやるわ。俺は容赦しねえぞ? もし臭かったら『臭い! このパンツは臭い!』って叫んでやる。そしたらどうなるかなあ? レイラちゃんは臭いパンツを履いてる女の子だって、国中の噂になっちゃうなあ」


 それは人の心を持たない外道の脅迫。

 うん、我ながら大人げない。でもよ、この子だって聖女と言いながら俺を呪殺しようとしたんだぜ?

 やられたらやり返す。倍返しだ!

 

 この一言が聖女の心を完全にへし折った。


「うぅ……うわああああん……! こ……降参、します……! 降参しますから、それだけはやめてください……!」


 レイラは子供のようにワンワンと泣きじゃくりながら、白旗を上げた。


 ゴォォン……と、虚しいゴングが鳴り響く。

 審判のシャーロットがゴミを見るような目で俺を見ながら、引き攣った顔でコールした。


「しょ、勝者……オオイシセイヤ、選手……」


 俺は鳴りやまない大ブーイングを浴びながら、レイラの温かいパンツを無造作に制服のポケットにねじ込むと、何事もなかったかのように悠然と勝ち名乗りを受けるのだった。


 ちなみに、パンツは良い匂いがしました。

 

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