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第99話 誰だって主役として輝きを放つ

 王宮は混沌状態に陥っていた。

 リイナとマーサの姉妹喧嘩が巻き起こす衝撃波、カレンたちの魔法が炸裂する轟音が絶え間なく響き渡り、謁見の間を破壊し尽くしていく。


「くそっ! キリがねえ!」


 俺はグリーンウェルの人格が表に出た瞬間に放たれる魔法を【リア充絶対殺すマン】で弾き返し、フェリックスの人格が戻った瞬間に「俺ごとやれ!」と叫ぶも結界を張るおっさんの悲痛な声を無視して次の攻撃に備える。

 なんて面倒くさいボス戦だ! 交互に無敵状態になるギミックとか、クソゲー以外の何物でもねえぞ!

 てかフェリックスのおっさん、やられる気全くねえだろ。全力で防御してきやがる。


 そんな状況の謁見の間に、新たな闖入者が嵐のように舞い込んできた。


「カレン様! 遅れてごめんだし! って、うわ、何この状況! 全然ついていけないし! 魔王様は誰だし!」


 現れたのは制服姿のサキュバス、サーシャだ。

 彼女は周囲で繰り広げられる魔獣との乱戦に、完全にキャパオーバーを起こして目を白黒させている。


「魔王? サーシャ! 魔王がこの中にいるのか!」


 カレンが獄炎でアルディスの動きを牽制しながら叫ぶ。


「気配がする。私に……魔王城で魔法学校行くように告げた時の、恐怖を覚えるぐらいの魔力が……」


「偉そうなのはマーサ王女ですけど、どうなんですか⁉」


 アンナがマーサ王女を指さす。


「ううん、戦ってる魔力ではっきりわかったし……魔王様は……」


 サーシャの呟きと視線に、アルディスが忌々しげにチッと舌打ちした。


「……ようやく気づいたか、このポンコツサキュバスが」


 アルディスの身体から禍々しいオーラが噴き出し、エルフ特有の尖った耳だけではなく、背中から蝙蝠のような巨大な翼が現れた。


「なっ……! 魔王様⁉ ……どうしてこんなことを! 人間の王女とどうして一緒にいるんだし! 私に人間の学校通わせたのは人と魔族の友好のためって嘘だったんですか⁉」


 サーシャが驚愕に目を見開き、アルディスを見る。

 アルディスはただ、クスクスと愉悦に満ちた笑みを浮かべるだけだった。


「そういうことか。アルディスが魔王で、マーサが協力者。……魔王が戦線を膠着させているのも魔王自らが人間の領土で活動するため。……サーシャ、君は情報収集という名の目眩ましに過ぎなかったのだろう」


 リイナがマーサの闇の槍を弾き返しながら残酷な真実を告げると、アルディスはニヤリと口角を吊り上げた。

 

 サーシャはわなわなと唇を震わせ、大きな瞳からポロポロと涙をこぼしていく。


「う……うわああああん! 私の純情を弄びやがってええええええ! 私、魔王様から貰った任務嬉しかったんだからあああああ! もう私にはカレン様しか勝たんだしいいいい!」


(いや、お前の純情のベクトルもおかしくね?)


 俺の内心のツッコミ中に、サーシャは怒りと悲しみのエネルギーを魔力に変え、アルディスに向かって突っ込んでいった。

 これで戦況はどうなる?


 ***


 玉座の間では、別の戦いが繰り広げられていた。


「陛下、お下がりください」


 壁を突き破って現れた巨大なゴーレムの前に、エルグランド公爵が立ちはだかる。


「エンデバン! 死ぬ気か⁉」


「フッ、陛下、死には順番があるのです。子より親が先と同様、生き延びるのは公爵ではなく陛下が世の理。さあ来い、ゴーレム! このエンデバン・エルグランドが相手をしようぞ!」


 ゴーレムの振り下ろす腕が、エルグランド公爵に向かう。


「やれやれ、年寄りをこき使うでないわい」


 王の背後から、のんびりとした声が響く。パーカッション爺さんだ。

 彼は杖をトン、と大理石の床につくと詠唱もなしに巨大な魔法陣を展開させた。


「まあ、可愛いおなごに頼まれれば、儂もまだまだ頑張れるがのう。……見せてやろうか、伝説と呼ばれた儂の魔法の、ほんの触りだけでもな! 『極大重力地獄(タルタロス・プレス)』!」


 爺さんの呟きと共にゴーレムの巨体が目に見えない力によって押し潰され、轟音と共にただの瓦礫の山へと変わった。


「……ふぅ。腰が痛い。誰か可愛い看護婦はおらんのかのう」


「私でよければさすりましょう。いやはや、まだこの命、続くようで感謝します」


「おっさんにさすられても嬉しくないわい」


 エルグランド公爵に悪態をつきつつ爺さんが腰をさすっていると、背後から震える声が響いた。


「……余は……間違っていたというのか……」


 レンデモール四世は、ただ一人、自らの無力さと過去の過ちを噛み締めていた。

 兄を、グリーンウェルを止められなかった後悔。真実から目を背けて娘たちの確執を生んだ罪。全てが今、国を滅ぼす災厄となって己に降りかかっている。


「陛下……」


 マーマレード王妃が、そっと王の手に自らの手を重ねた。


「今は悔やむ時ではございません。王として、父として、為すべきことを為されませ。……たとえ、この身がどうなろうとも」


 王妃はそう言うと、ドレスの裾から抜き放った細身の剣を構え、侵入してきた魔獣の群れの前に凛として立ちはだかった。


 ***


 王都の貴族街でも、さらなる地獄絵図が繰り広げられていた。


「ソフィ! サファイヤ! 私の後ろへ!」


 エルグランド公爵夫人が剣を手にして屋敷に侵入してきた巨大な魔獣の前に立ちはだかるも、魔獣の硬い皮膚の前では無力だった。


「きゃああああ!」


 魔獣の腕が、公爵夫人に直撃するべく振り下ろされる。

 絶体絶命。ソフィとサファイヤが悲鳴を上げるが……。


「そこまでだ、魔獣!」


 黄金の閃光が迸り、魔獣の腕を寸断する。

 黄金のナイト、リュカが颯爽と現れたのだ。


「リュカ様……!」


 公爵夫人とソフィとサファイヤの瞳が、ハートマークに輝く。

 リュカは完璧なイケメンスマイルで振り返り尋ねる。


「お嬢さんたち、怪我はないかい? この僕がいる限り、もう安心さ」


(……ん? この姉妹、幼いのに女の目をしているような……。まあいい、今は人命救助が最優先だ!)


 リュカは再び魔獣に向き直り、華麗な剣技で魔獣を追い詰めていく。

 彼の英雄的な姿に、夫人と姉妹は完全に心を奪われていたのだ。

 

 全く、リュカの野郎、カッコつけやがって。

 ……まあ、俺がいたら、彼女たちの頭上に浮かぶ表示は【使用人】や【父】のままで暴れていただろうがな!


 ***


 商業区では筋肉ブラザーズが悲鳴を上げていた。


「ぐわあああ! 俺たちの自慢の筋肉が、魔獣の爪の前では無力だとおおお!」

 

「兄貴! もうダメだ、囲まれちまった!」


 瓦礫の山に追い詰められて涙目で抱き合っているのは、2級冒険者、筋肉ブラザーズの3人組。


「ここまでか……! 俺たちは筋肉と共に死ぬ……!」


 長男が悲壮な覚悟を決めた刹那、一陣の風が吹き抜け、彼らの前に立ちはだかっていた魔獣の首が音もなく宙を舞った。


「無事か?」


 静かだが鋼のような意志を宿した声。

 現れたのは、孤高の剣士ウッドだ。


「あ、あんたは確か、武闘大会で……!」

 

「俺たちの筋肉じゃ、魔獣に傷一つつけられなかった……!」


 筋肉ブラザーズが呆然とする中、ウッドは振り返ることなく、残りの魔獣を一閃のもとに斬り伏せていく。

 一閃! まさに一閃! 洗練されきった剣技が魔獣を沈黙させていく。


「あ、ありがとうございます、兄貴! このご恩は、生涯の筋肉をもって……!」


 駆け寄った筋肉ブラザーズを視界にして、ウッドの身体がピシリと固まる。

 土下座してくる三兄弟の、芸術的なまでの大殿筋に。


(ゴクリ)


 って! ウッドお前、結局そっちに行くんかい!


 ***


 そして冒険者ギルド前。

 街路に溢れ出た魔獣の群れを前に、1人の女が厳かに立っていた。

 逃げ惑う群衆の中にバニーガールの姿を見つけて駆け出す。

 そう、年齢詐称疑惑のある実況娘、シャーロットへ!


「なんで私が巻き込まれるのよおおおおお! 私はただの可愛い17歳のピッチピチなバニーガールなのにいいいい!」


 魔獣に追い詰められて悲鳴を上げるシャーロット! あわや魔獣の餌食かと思われたが!


「お客様、お怪我はございませんか?」


 営業スマイル的な声と共に、一陣の風が吹き抜けた。

 気づけばシャーロットは屈強な魔獣の腕から華麗に救い出され、目の前には完璧な営業スマイルを浮かべたサリアが立っていた。


「さ、サリアさん……!」


「大丈夫です。ここは私にお任せを」


 サリアはふぅ、とため息をつくと、受付嬢の制服のスカートを躊躇なく大胆にたくし上げた。


「私のスキルは『交合吸収(セックス・アブソーブ)』。強い男と性交することで、力の片鱗を吸収し続ける……。ギルドマスター、副ギルドマスター、衛兵隊長、リュカ様、ウッド様……そして数多の腕利きの冒険者の方々……。まだまだ吸収し足りないので、あなたたちには経験値になってもらいます。……屠ります」


 そんな文言と共に、サリアの姿が霞む! 彼女が通り過ぎた後には首を刎ねられ、心臓を貫かれた魔獣の死体の山が築かれていくだけだった。

 あまりの光景に助けられたシャーロットも最初は「ひぃっ……!」と腰を抜かしていたが、やがて瞳にプロの光が宿りだす。


「な、なんて……なんて美しい蹂躙……! この歴史的瞬間を、この私が実況せずに誰がするというのだああああ!」


 彼女はマイクをギュッと握りしめ、高らかに叫んだ!


「さあ始まりました! 王都防衛戦! 実況はこの私、皆様の永遠の17歳アイドル、シャーロットがお送りします! 解説は……いません! この戦場に解説できる者など存在しないからです! みんな戦ってます。見てください、あのサリア選手の華麗なナイフ捌きを! まるで幾多の男たちを骨抜きにしてきた指先のテクニックのように滑らかだああああ!」


 実況を聞く冒険者たちは、ただゴクリと唾を飲む。


「……おい、サリアさんって、あんなに強かったのかよ」

「……もう、絶対に逆らわないと心に誓おう。報酬額に不満なんて絶対口にしねえ」


 王都終末決戦。

 誰もが主役として輝いていた。

 この混沌の戦場で、最後に笑うのは一体誰なのか。

 ただ一つ、サリア無双を伝え聞いて俺の中で確信が産まれる。


(……受付嬢サリア、あんにゃろ、勇者である俺のスキル吸収しようとしないって、結局顔じゃねえかああああ)

 

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