case.3:巫女セラフィナ・クローデル ~沈黙と交渉術~
神殿の奥で、ひっそりと祈りを捧げる少女、セラフィナ。三人目のヒロインは、内気で引っ込み思案な神殿の巫女だった。
彼女の祈りには治癒の力が宿っていたが、その力を自分の意見を主張するためには使えなかった。
ゲームなら、カイルが彼女を優しく守り、自信を与えていく展開だろう。しかし、カイルは彼女が神殿内の派閥争いで、他の聖職者たちから都合よく利用されている様を見過ごせなかった。
彼女の功績は横取りされ、面倒な仕事は全て押し付けられていた。ある日、カイルはセラフィナを神殿の図書室に呼び出した。
「セラフィナ様。あなたの優しさは美徳です。しかし、他者の要求をすべて受け入れ、自分の意見を押し殺すことは、自己犠牲であり、健全な関係とは言えません」
カイルが彼女に提案したのは、甘い愛の言葉ではなく、「アサーティブ・コミュニケーション研修」だった。
「アサーティブネスとは、自分も相手も尊重しながら、自分の意見や気持ちを正直に、しかし適切に表現する技術です。攻撃的になるのでもなく、非主張的になるのでもない。誠実で対等なコミュニケーションを目指すのです」
カイルは、具体的な場面を想定したロールプレイングを繰り返した。無理な要求を断る方法、自分の功績を正当に主張する方法、対立を恐れずに意見を述べる方法。最初は小鳥のように震えていたセラフィナだったが、カイルとの練習を通じて、少しずつ「NO」と言う勇気と、「YES」を伝える自信を身につけていった。
彼女の変化は、神殿内に静かな波紋を広げた。これまで彼女をないがしろにしていた者たちは戸惑い、逆に彼女の誠実さに気づいていた者たちは、彼女の味方についた。
やがてセラフィナは、その治癒の力だけでなく、対話によって人々の心を癒し、派閥間の対立を収める調停者としての才能を開花させていく。彼女の言葉は、誰よりも誠実だったからだ。
そんな彼女の情報網が、やがて王国の慈善事業に深く食い込み、寄付金を不当に搾取している組織の存在を突き止める。その金の流れの先に、またしても「ジャミル商会」が関わっていることが判明するのだった。