case.2:騎士リリアナ・シュルツ ~データと騎士道~
二人目のヒロインは、王都騎士団に所属する元気っ子のリリアナ・シュルツ。平民出身ながら、その剣の腕と誰にも負けないガッツで、若手のホープと目されていた。
ゲームシナリオでは、カイルが彼女の無鉄砲な訓練に付き合い、恋が芽生えるはずだった。しかし、カイルが訓練場で見たのは、根性論だけで無駄な動きを繰り返し、生傷を絶やさない彼女の姿だった。
「リリアナ君」
訓練後、カイルは汗だくの彼女にタオルではなく、一冊のファイルを手渡した。
「これは、君の過去一か月の訓練メニューと、その成果をデータ化したものだ。見ての通り、訓練時間と成果の相関関係は薄い。これは非効率的と言わざるを得ない」
ファイルには、動作分析に基づくフォームの改善点、最適な休息時間、筋力トレーニングと持久力トレーニングのバランスなどが、グラフや図を用いて詳細に記されていた。
「君に必要なのは、がむしゃらな努力ではない。PDCAサイクルに基づいた、科学的な訓練効率の改善だ。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)。このサイクルを回すことで、君の才能はさらに開花するはずだ」
最初は「何だかよくわかんないけど、とにかくやってみる!」と持ち前の明るさで受け入れたリリアナだったが、カイルの指導はそれだけでは終わらなかった。
「そして、将来を見据えたキャリアプランニングも重要だ。君は五年後、十年後、どのような騎士になっていたい? 一人の剣士として最前線に立ち続けるのか、それとも部隊を率いる指揮官を目指すのか。目標によって、今習得すべきスキルは変わってくる」
恋の駆け引きなど微塵もない、まるで企業の上司と部下のような面談。しかし、精神論ではなくデータで自分の問題点を指摘され、未来への道筋を示してくれたカイルに、リリアナは絶大な信頼を寄せるようになった。
彼女は驚異的なスピードで成長し、ついに騎士団選抜試合で優勝、史上最年少で隊長格へと昇進する。
だが、彼女の急すぎる出世は、騎士団内部の既得権益、特に貴族派閥からの嫉妬と反発を招いた。
訓練中の事故に見せかけた妨害工作、装備の意図的な不備、そして彼女の出自を貶める根も葉もない噂。
その陰で、貴族派閥に武器を納入し、影響力を強めている「ジャミル商会」の影がちらついていた。
リリアナは、剣の腕だけでは乗り越えられない壁に直面することになる。