転生とコンプライアンス遵守の誓い
初AIを使って書いてみた。書いてほったらかしにしたプロット全部救済できるかも?
佐藤健司、享年三十五。
彼にとって人生とは、盆栽の枝を剪定し、囲碁の石を置くような、静かで秩序正しいものであった。
仕事では、中小企業のコンプライアンス部係長として、社内のあらゆる規律違反――備品の私的利用から、上司による不適切な指示まで――に目を光らせてきた。
その厳格さは社内で「歩く社内規定」と揶揄されるほどだったが、健司自身はそれを誇りに思っていた。
女性との交際経験はゼロ。
彼にとって、公私混同やセクシャルハラスメント、あるいはその他のあらゆるトラブルに発展しかねない「恋愛」は、最も避けるべきリスク案件の筆頭だったのだ。
そんな彼が、ある日の帰り道、横断歩道でスマートフォンを見ながら歩いていた若者をかばい、トラックに轢かれた。
それが、佐藤健司としての人生の、あまりにもあっけない幕切れだった。
次に目を開けた時、健司の目に飛び込んできたのは、見たこともない豪奢な天蓋付きベッドと、シルクのカーテンの隙間から差し込む柔らかな光だった。
そして、おそるおそる視線を向けた先の姿見には、自分のものとは思えぬ、まるで少女漫画から抜け出してきたかのような金髪碧眼の美青年が、呆然とした表情でこちらを見ていた。
《初めまして、プレイヤー。当ゲーム『エターナル・ラバーズ』へようこそ!》
頭の中に直接響く、やけに軽薄な電子音声。状況がまったく飲み込めない健司に、声は構わず続けた。
《素晴らしい! 完璧な同期を確認しました! あなたはこの世界の主人公、カイル・アシュフォード公爵子息に転生しました! 目的はただ一つ! 一年以内に六人の魅力的なヒロインたちを攻略し、ハーレムを築くことです!》
「は……はーれむ?」
健司の眉間に、くっきりと深い皺が刻まれる。聞き慣れない単語ではなかったが、彼の人生とは最も無縁だった言葉だ。
《はい! ハーレムです! 彼女たち全員から真実の愛を勝ち得なければ、この世界の存続に関わる重大なペナルティ――すなわち、世界の崩壊が訪れます! さあ、誰もが羨むイケメン主人公になって、夢のハーレムライフをエンジョイしてください!》
「待て」
健司は、鏡に映る見慣れない美貌の青年(自分自身)を鋭く睨みつけ、静かだが有無を言わせぬ口調で言った。
「いくつか確認したい事項がある。まず、その『ゲーム』とやらの利用規約を提示しろ。次に、『攻略』および『ハーレム』の定義を明確にされたい。そして最後に、『世界の崩壊』とは具体的にどのような事象を指すのか、その根拠とデータを開示要求する」
《え……えっと、き、規約?》
電子音声は明らかに面食らっていた。そんなことを尋ねてくるプレイヤーは前代未聞だったのだろう。
「当然だ。いかなる契約においても、内容を正確に把握するのは基本中の基本だ。口頭での説明のみで、一方的に不利な条件を飲まされるわけにはいかない」
健司――いや、この世界ではカイル・アシュフォードとなった彼の断固たる態度に、システムはたじろいだようだったが、やがて渋々といった体で彼の脳内に膨大な情報を流し込んできた。それは、この世界の成り立ち、ゲームのルール、そしてヒロインたちのプロフィールだった。
情報を精査したカイルは、固く、固く誓った。
「断固、拒否する」
《えええ!? なんでですか!?》
「そもそも、複数の女性と同時に交際関係を結ぶなど、民法上の不法行為(重婚)にあたる可能性がある。また、私が公爵子息という立場を利用して恋愛関係を迫ることは、優越的地位の濫用であり、深刻なパワーハラスメントに該当する。断じて許されることではない。私は、このゲームのプレイヤーとしてではなく、一人の人間として、彼女たちの人権を尊重し、健全かつ適切な関係性を構築することを、ここに宣言する」
《いやいや、そういう高尚なゲームじゃないんで! いいから攻略しないと、世界が崩壊しますってば!》
「世界の崩壊と私のコンプライアンス遵守、どちらが重要かは言うまでもない。個人の尊厳は、世界の存続よりも優先されるべきだ」
カイルの前途多難な異世界ライフは、こうして幕を開けた。
彼がまず取り組んだのは、アシュフォード家の使用人たちとの労働環境改善ミーティングだった。
彼の突然の変貌ぶりに戸惑う執事やメイドたちに、彼は労働時間の適正化と、業務内容の明確化、そして内部通報制度の設置を提案し、使用人一同をさらに混乱させた。
そんな中、最初の「攻略対象」との接触イベントが強制的に発生した。
ターゲットは、公爵令嬢のイザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン。薔薇のように美しく、棘のように気位が高い、典型的なツンデレ令嬢だ。
シナリオ通り、王家の庭園で催された夜会で、彼女はカイルを見つけるなり、扇で口元を隠しながら高慢な態度で絡んでくる。
「あなたごときが、わたくしに気安く話しかけないでくださる? 同じ公爵家とはいえ、成り上がりのアシュフォード家とは家格が違いますのよ」
ゲームであれば、ここで「強気な君も素敵だよ」だとか「その瞳に乾杯」的な選択肢を選ぶのだろう。
システムも《選択肢A! その強気な態度、たまらないね!》などと煽ってくる。だが、カイルは迷わずそれを無視し、腕を組んで真剣な表情で一歩踏み込んだ。
「イザベラ様。単刀直入に申し上げます。そのように他者に対して攻撃的な言動を取られるのは、心理学的に見て、ご自身の内面に何らかの不安や劣等感を抱えていることの表れと拝察いたします。すなわち、自己肯定感の低さの裏返しです」
「なっ……!?」
「ご自身の価値を、他者からの評価や家格といった外的要因に依存させてはなりません。それは非常に不安定な状態です。まずは、ご自身の内なる価値を認識し、自己肯定感を醸成することから始めるべきです」
「な、何を訳の分からないことを……!」
顔を真っ赤にして後ずさるイザベラに、カイルは追い打ちをかける。
「そこでご提案なのですが、まずはSWOT分析から始めませんか? あなたの『強み(Strength)』、『弱み(Weakness)』、『機会(Opportunity)』、そして『脅威(Threat)』を客観的に洗い出し、そこから自己肯定感を高めるための具体的なアクションプランを策定するのです」
「す……すうぉっと分析?」
ポカンとするイザベラを前に、カイルは懐から常に持ち歩いている手帳(転生時に奇跡的に所持品として具現化していたもの)と万年筆を取り出し、近くのテーブルで滑らかなペンさばきでマトリクス図を書き始めた。
「さあ、イザベラ様。あなたの強みは何でしょう? 美貌? 家柄? それも結構ですが、もっと本質的な部分を考えてみましょう。例えば、あなたが管理されている薔薇園の年間収支報告書を拝見しましたが、コスト管理に見るべき点がありました。そこにあなたの才能が眠っているやもしれません」
カイルの予期せぬアプローチに、イザベラの頭は完全に処理能力を超えていた。
しかし、これまで誰からも指摘されたことのない「本質」という言葉と、自分のささやかな薔薇園の管理を認められたことに、彼女の胸の奥で、何かがカチリと音を立てた。
これが、後に「ヴァレンシュタイン家の氷の薔薇」と呼ばれた美しき公爵令嬢が、その卓越した経営手腕で領地を立て直し、社交界の華から経済界の鬼才へと変貌を遂げる、記念すべき第一歩であった。