第一章 6 「第一異世界人遭遇」
そう、それは奇跡とも言える一瞬、その一瞬の違いが、朝宮 康の運命を大きく変えることとなる。
一瞬の違いが時にはループから抜け出す事きっかけともなり得ることを康は実感することとなる。
そう、一瞬の違いとは一瞬の違いのまま終わる可能性だってあったのだ。
なんせ、その犬は一瞬弾かれただけであって、またもその赤ん坊を頭から噛み砕こうと駆け出すのであった。
しかし、その生まれた一瞬にこそ、意味があった。
むしろ、その一瞬さえ作れていれば、もっと早くから朝宮 康はこのループから抜け出せていたのかもしれないが…しかしそんなタラレバを言っていても仕方がない。
一つだけ言えることは、朝宮 康には何も理解できずにいたということだけだ。
どういうことだよ…
ただ、そんな一瞬がやはり康の死のループを止めた。
「ふぅ、よっと!」
気の抜けた声、ただ太い声が耳に伝わったのと同時に目の前で、今にも襲いかかってくるはずだった犬が目の前の視界から完全に消え、それと同時に赤く染った何かが視界を覆い尽くしたのが見えた。
「ぁ?」
「おっと、なんでここに赤ん坊がいるんだ?くそっ、レッドウルフの群れの討伐って聞いてたのによー、俺苦手なんだよなー…」
ぜんぶ聞こえてるっつーの、
男と康の目が合い、気まずい時間が流れる。
男は左目に大きなきり傷を負っており、金髪、それでいてとてもガタイもよくボディビルダーとも遜色のないレベルであった。
そんな男だが、右手に細く異様なオーラを放つ剣を持ち、それを肩に担ぐようにして持ち面倒くさそうに深くため息をつく。
ただ、異世界初心者の康でさえ、この男の異様さはわかった。
「はぁ、なんでこんなところにいるもんかね、しかも…お前一人か!?」
そうだよ!!!
思っているだけでは届かない、そうわかっていてもツッコミが止まらない。
ただ、男の一言で康は気づくのであった。
「げっ、すぐ泣くから赤ん坊は嫌いなんだよな、」
は?俺が?いつ泣いて…
その時、康の視界が突然滲み始めた。
それに気づいてから、あっとゆう間にその感情が溢れ出し、そして気づいてしまったのだ。
ああ、そうか…
それは誰もが本当は持っていて当然の感情、急な異世界転生からの死のループ、それから抜け出せないでいたことによって康の中から完全に消え去っていた感覚が取り戻されたのだった。
安心感…それは男の登場、つまりは死という危機が遠ざかったことによって生まれた隙…それが朝宮 康の心を落ち着かせ、これまでの死のループで失っていた物を巻き戻すかのようにどんどんとそれが流れ込んできた。
「はぁ、泣き疲れて寝ちまったか?」
その男は赤ん坊を見下ろすとそれを抱き抱えそっとその場を立ち去った。
「お前、あと一歩で食われるところだったんだぞ?感謝しろよな、俺に…」
その男は優しい瞳でそっとその赤ん坊を覗き込み、そして静かに、起こさないようにと、歩いた…