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第一章 2 「名も無き赤ん坊」

 熱い熱い熱い、痛い痛い痛い、苦しい、息ができないっ…


朝宮 康はそんな永遠とも思える苦しみを受け続けた。

これもまた、自分のやってきたことへと天罰なのだとすればそれでいい、それが康の考えであり、そして康の願いだったから…


 自覚してたんだ、悪いことをしてるって…けど、そうしなきゃ生きていけないってんなら、するしかねぇだろ?


悶え、苦しみ、迷って見つけた先がそれだったのだ。


誰も康に手を差し伸べてはくれなかった。

誰も康を救おうとしなかった。


それなのに、康が居なくなれば『ああ、良かった』と安堵する者ばかり、そんな世界でクソ人間として立ち回った康もまた『ああ、良かった』と心から思う。


 ようやく、ようやくだ。ようやくこの苦しみから…生きるという苦しみから開放される、『ああ、良かった…』


康はそうして瞳を閉じて最期を噛み締めた。


意外にももう痛みは感じない、そのくせ何故か意識がはっきりとある。

死ねばもう終わりじゃないのか、と落胆する康はそっと、瞼を開いた。


「ぁ?」


やけに高い声で、だがそんなこと今はどうでもよく、康は仰向けになったままの空を見上げる。

さっきまでは暗かった空がやけに明るい、それに何故か雲も消え去っている。


何が起こっているのか分からないまま、康は辺りの様子を確認しようとする。


―ふと立ち上がろうとして違和感に気づいた。


何かがおかしい、何かが、

康は手の力で立ち上がろうとするも一切立ち上がれそうにない、その上に首も自由が利かず周囲の様子を見るのにも一苦労だ。


それでも何とか見ることのできたその世界はまるで…まるで、前にいた世界とは別世界のようであった。


高い木々に囲まれた花畑の真ん中に、そして自身の周りには編んだ籠のようなものが目に入った。


―異世界転生、なんて言葉を耳にしたことがある。

そういう作品、フィクションだらけではあるがそんな主人公になれたら、なんて何度思ったことだろう。


康自身もそんな物語を見て何度も主人公になれたのならと何度思ったことだろう。


そんな願い虚しくその願いが叶うことも無く時は過ぎていったのだが…しかし、これはその異世界と言うやつなのではないか、と康は思った。


もしそうであるのなら…


 もし、仮にそうなら俺は…俺の人生は…


一度目の人生、過ちだらけで失敗も後悔も沢山した。だが、もしこの世界での主人公が康なのであれば、それならきっと…


 俺は、俺の人生を…やり直せる。


まず初めに状況把握から始める事にした。

そうして康は恐る恐る違和感のあったその手を前に、視界に映るように伸ばす。


 ちっさ…


文字通り、言葉にならない思いが康の頭を巡っていく。

その小さな手と喋ることすら許されない口、発することの出来る言葉は『あ』や『う』なんて簡単な母音ばかり、もちろん理由は明白だ。


異世界転生…文字通り、転生という言葉がつくだけあって赤ん坊からのスタート…そう、朝宮 康は赤ん坊へと変化を遂げていたのだった。


だが、問題はもう1つある―いや、異世界転生自体を問題としないならこちらしか問題では無いのだが、しかし1番の大問題とも言える点…やはり異世界転生の時点でお察しはつくだろうが康は赤ん坊、しかし周りには人っ子一人としていない。


これはそう、所謂あれだ、つまりは―


 俺は捨て子ってわけだな…


そう、朝宮 康は捨て子として転生したのだった。

しかも人の来ないような木々に囲まれた花畑に1人、ポツンと置かれて…

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