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第一章 22 「それを知った日」

「うぅー、」


「セト…今日は一緒に寝る?」


浮かない表情をうかべるセトにアスランは慎重に言葉を選びながら少女の横に座る。


「確かに今日は雨だったから帰ってこなかったのかもだけどさ、明日にはきっとシトラさんも…」


そうアスランがセトを宥めようとしてもセトは「うん」と言いながらも俯くばかり、そんな少女にかけれる言葉など、もうアスランは持ち合わせていなかった。

だからこそ、アスランは言葉に頼るのではなく、行動で…、そう、行動で示したのだった。


「あ、アスランくん…?」


「大丈夫だセト、明日にはきっとシトラさんがお前のこと説教しにここまで来てるから、、」


窓際からはまだ、ザァザァと雨の音が聞こえてくる。

そんな窓際のベット、そこに座る2人は小さい体ながらにそっと抱き合っていた。

いつもはセトからする行動を、今はアスランから行った。

それしかできることがないとわかったから、だからこそ、アスランは彼女の小さな腰に手を回し、ギュッと抱きしめたのだった。


「あ…ぅっ、」


突然抱きしめられた時はフリーズしていたセトも、すぐにアスランの腰へと手を回し、寂しさを紛らわすかのごとく、そっと抱きしめあったのだ。


「大丈夫、シトラさんはきっと…」


「アスランくんっ…アスランくんっ…」


支える物がなければあまりにすぐに崩れ落ちてしまいそうな程小さな体を、アスランは大事に大事に、そっと抱き抱えてそのままゆっくりと頭を撫でた。

少女の涙が枯れ果てるまで、少女が泣き疲れて眠りにつくまで…


気づけば外の雨音も次第に止んできて、そっと窓の方をベットの上で大事なものを膝元に抱えたまま眺めていた。


「明日にはきっと…だから大丈夫だ、セト。おやすみ…」


そのままそっと髪の毛に触れ、彼女の髪の変化に気づいた。


「おまっ…ふふっ…まさかな、セトが俺の言うことを聞くなんて…」


違和感の正体は彼女の髪の触れた時の質感にあった。

前までは乱暴に扱っていたのが、アスランと風呂に入り、髪は丁寧に洗うようにとアスランが言ったあとから、セトはおそらくずっと、それを守ってきたのであろう。


「継続してくれるかはわかんねーけど、それでも嬉しいよ、セト。」


そのままアスランもそっとその髪を撫でながら一夜を少女と共にした。


「んっ、うぅ…」


「アスラン、アスラン、」


「んぅ…ん?」


「アスランっ!」


「うわぁっ!?」


目を擦りながらそっと穏やかな朝…を迎える予定だったアスランには想像を絶するような光景、朝一番、目の前に飛び込んできたのは父であるダイツのいかつめの顔であった。


「ど、どうしたんですか!お父さん」


「アスラン…少し話がある。」


「ど、どうしたんですか?お父さん、。それにセトは…」


辺りを見回すと一緒に寝ていたはずのセトがいない。

その事に対する疑問とダイツからは初めて見る真剣な表情にアスランは押しつぶされそうであった。


「セトちゃんはチサと中庭で遊んでいる。そんなことより早くっ!」


ダイツの険しい表情と怒鳴るような声、そしてアスランの小さな手を引っ張る手がアスランを硬直させた。

そのことに気づいたダイツは「あっ、、」と声を漏らす。


「す、すまなかった…けど本当にっ」


少し、いつもの調子に戻ってきたダイツに対し、アスランの表情も少し穏やかなものとなる。

そして言われるがままに着いていく。

何度も通ったことのあるものだからこの長い長い廊下もご愛嬌…少し早歩き気味ではあったが、アスランでも追いつけるほどの速度で歩く。

そうして着いたのは―


「客室…ですか?」


まるで自分への客がいるとでも言うのだろうか、けれどもそれは絶対にないとアスランの脳内が結論を出す。

アスランはこの世界に来て一度も外に出たことがない。

ましてや家族以外の者などとの関わりは一切なく、アスランに対しての客などとんだ思い上がりだとアスラン自身でも思っていた。


「失礼します…」


そっと扉を開くと、やはりそこに居たのはアスランの全く知らない男と、それから美しい少女であった。


「あぇっ?」


ただ、初対面であっても、アスランは他に驚く理由を見つけた。


「君がアスラン君かな?」


それは男が自分を知っていたからなんてものじゃない。それは少女にも男にも言える…そしてアスランにも言えるものではあった。


「私の名前はスイルス・エンイーズ、以後お見知り置きを…アスラン・フォルト君。」


男はその黒髪と黒の瞳を覗かせた上で、アスランに小さく一礼したのであった。

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