第一章 22 「始まりの魔人の負の遺産」
「アスランくん、せっかくこの部屋に来たんだし、本でも読もう?」
「セト、字読めないだろ?」
「そこはアスランくんが読み聞かせをするってことで」
本が山積みになったダイツの書斎、そこへ足を踏み入れたアスランとセトはそっと離れるとアスランが座ったのをいいことに、アスランの膝元へとセトが座った。
「そもそも俺は1週間読書が禁止で…」
「セトが読みたいって言ったって言えば収まる話でしょ?」
「そうかもしれないけど…」
チラリとセトの方に目をやるとそこには目を輝かせた少女が上目遣いでこちらを見ていた。
「仕方ない…」
そう言って手に取ったのは1冊の黒い本、それはアスランがこの世界について知る際に一番最初に読み始めた本でもあった。
「これは?」
「この世界の…裏話的なやつだよ」
裏話…とはよく言ったものだ。
アスランが手に取った本はあくまでこの世界について記された話。
決してセトのような子供が見る童話なんかとは違った、実在する話なのだから…
「なんて書いてあるの?」
そこに記される文字、本のタイトルを指さしてアスランの膝の上に乗ったセトは首を傾げる。
「『あるし日の出来事』…これはこの世界の宿敵と、それが残した負の遺産について書かれたものだよ。」
「ふの…いさん?」
首を傾げたままのセトに小さく頷きを入れる。
そしてそのままアスランはそのまま本の1ページ目をめくったのだった。
この世界の宿敵…それだけ聞けば過去に起こった話というだけで済んだというのに今となってはアスランにとっても他人事じゃすまされない。
そう、この世界にとっての宿敵とは唯一無二、たった1人の者しか当てはまらないのだ。
「始まりの魔人、ストレリ…それがこの世界の最大の宿敵であり、俺に…いや、なんでもない。」
「アスランくん…?」
アスランの言いかけた言葉にセトは再度、そっとアスランの表情を覗き込んだ。
「よし、続きから読もうか、」
「むぅ、隠し事?」
「なんの事やら、」
両手を掲げ、何もわからないとばかりにしらを切るアスランだったが、その瞳をムスッとした顔でセトが見つめる。
アスランが隠したこと、それはアスランが始まりの魔人と同一の種族である、ということだ。
「始まりの魔人、ストレリ。彼は死後も多くの者にその恐怖をうえつけた。その中でも彼の遺した負の遺産として今でも人々の暮らしを脅かす存在、それが魔物だとされている。」
「死後って何?」
「死んだ後ってこと、」
「じゃあ負の遺産って?」
それは―
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始まりの魔人、ストレリ。
彼がなぜ、今になっても恐れられているのか、その大半の理由として挙げられるのが、彼の遺した負の遺産…
では一体、その負の遺産とはなんなのか、そこまで言いたらしめるものとは…その正体を、アスラン・フォルトは知っていた。
そして今、その魔の手がある女性にも降り掛かっている事に誰も気づかずにいた。
「何かおかしい…セトを待たせる訳には行かないのに…何か…」
レインコートを羽織った状態で竜を操縦する女の名はシトラ、彼女が今直面している危機、それは―
「魔物…しかもこれは…」
魔物、それは始まりの魔人が産み落としたとされる負の遺産、それらは個体によって特徴があり、下位種、中位種、上位種、と現在となってはそれぞれの個体による強さを振り分けられている。
その中でもこの世界に唯一無二の五体の個体のことを―
「最上位種、しかもこれは…」
その瞬間、彼女は小さな祈りと願いを込めてただ1人、そっと壮絶な死を遂げた。
グチャッという音とともにその上半身がその黒いくちばしの餌食となりながら…




