第一章 16 「半魔人」
アスラン・フォルトはつくづく思う。
この世界は自身の今までの行いに対しての正当な結果を思い知らせる為に作られた世界なのではなかろうかと、
魔人と英雄…普通は相反する2つの立場の者同士で義理ではあっても親と子という関係になっている。
それは現代の最強が1人、『英雄』ダイツ・フォルトによって繋がれ、今も断てないでいる関係…
「やっぱり俺は…」
「あ、アスラン様っ、すみません…」
先程までの態度から一変、それまでに見せたことの無いような焦りを見せるメイドの姿がアスランの困惑を確信へと変えた。
全部父さんの差し金か…
恐らく、セト意外の全員が加わって隠しとおそうとしたであろう事実…それをアスランに知られたことによる焦りをアスランは決して見逃さなかった。
その単語は前にも聞いたことがある。
アスランがここへ来て日も経たない頃、アスランは現在の母、チサ・フォルトから何度か言われたことがあったのだ。
それでもその意味を深く理解しようとしなかった、してこなかった。
それを理解してしまえばきっとアスランは彼らとの関係を変えようとすると思ったから、そしてそれは彼らも…ダイツもチサも同じことだった。
アスラン・フォルトは魔人である。
アスラン・フォルトは忌み嫌われている。
アスラン・フォルトはこの世界の敵である。
「いや、いいんです。全部俺のこれまでの行いのせいですから…」
シトラの失態をアスランは笑って受け流す。
ただ内心では全くもって違う感情で溢れかえりながらも…
「いえ…そんな…、あっ!そうです!セトの話をしませんか?セトの身体能力が高い話…気になってましたよね?」
今まで本題に入ろうとしなかったシトラが話の流れを変えるべくアスランに話しかける。
ただ、アスランはそれどころではなかった。
「すみません…、その話はまた今度…」
そう断りを入れようとしたその時、シトラは大きく口を開いた。
「半魔人っ!」
「―――?」
いきなりの大声にそしてその出てきたワードにアスランは一瞬で興味を惹かれる。
「半魔人…?」そう復唱するアスランにシトラは頷くとそっと胸を撫で下ろした。
「はい…半魔人…その言葉に興味はありませんか?…というか、ありそうですね」
そう、アスラン・フォルトは魔人だ。
だから同じ魔人と名のつく…けれども少しだけ違うような、そんな言葉にアスランは興味を惹かれた。
それを隠しきれずに結局アスランはその話を聞き入ってしまった。
「半魔人…普通の魔人とは違い、半分だけ魔人の種族のことです。それらは普通、魔人として持って産まれてくるべきだった『権能』を持たずしてこの世に産まれ落ちる、その代わりとして異常なまでの身体能力を持ち合わせるのが特徴の種族なんです。」
聞き覚えのないワードが1つ、アスランの内に残るがそれだけを聞くとまるで1人の少女のことを指して言っていることのように聞こえた。
「セト…」
「さすがアスラン様、お察しの通りそれはセトの特徴と類似…いえ、セトは半魔人です。」
一度クッションを置こうとするも言い換えて断定したシトラ、表情は懐かしさと嬉しさから来るような柔らかな笑みを浮かべていた。
「えっ、てことはシトラさんは…セトのお父さんは…まさか…」
「立派な魔人ですよ、セトの父であって…それでいて私の愛する夫…いえ、今は元夫…でしょうか、」
確かにそれだとセトの身体能力の異常性にも説明はつく。
ただ、アスランにとって1番驚愕だったのはシトラには夫がいたということ、そしてその男が魔人だったということだ。
アスランはてっきりシングルマザーであるため元からそうなのだろうと思っていた。
男には逃げられ、そして1人頑張って今はここで仕事をしているものだとばかり…
「セトが産まれる時は会いに行ったりもしたんですよ?未だにあの人も私のことが好きみたいで…私もあの人のことを好きで…」
それならばなぜ元夫と呼ぶのか、そんな疑問はシトラの少女のように初々しい笑顔を見るだけで聞く気が失せた。
「ふふふ、少し話しすぎましたね。」
無邪気な顔をして笑う女性にアスランは目を奪われる。
しばらくそうして彼女の気分が少し落ち着くと彼女はそっとアスランと目を合わせ「それと、」と口を開ける。
「アスラン様が魔人であろうとなかろうと、きっと私も、ダイツ様やチサ様だって…それにセトもきっと、きっと同じ態度で接していましたよ。」
なんだそれは、と言いたくなる一言だった。
余計で、無駄で、無意味で、無理な励ましであった。
ただ、それでもアスランはそんな言葉で"それ"を改めて感じさせられる。
アスラン・フォルトは魔人だ。
だが、その事がどうあれ少なくとも、今この瞬間だけはアスラン・フォルトはそのことを気にしてなどいなかった。
ダイツが居てチサが居て、シトラが居て、そしてセトがいる。
とにかく、なんであれアスラン・フォルトが魔人であろうとなかろうと、現時点でアスランのことを忌み嫌ってくる者などいないのだ。
"それ"をアスランは感じさせられた。
みんなアスランのことを"好き"なのだと…




