第一章 14 「優れた能にはカラクリがある」
「ふぅ、気持ちよかったなー」
久々の長風呂にさっぱりした表情のアスランはセトの方を向きながら笑いかける。
セトの方も満更でもないかのようにして、えっへんと鼻を高くしてアスランの顔をのぞき込みながら「うんっ!」と頷く。
そんな浴室から出てきたアスランたちを待ち構えていたのは他でもない、アスランとセトが一緒に風呂に入るようにと指示を下したメイドであった。
彼女は自身よりも遥かに年齢が下のアスランに対し一礼すると、
「アスラン様、ありがとうございました。では、後でお待ちしております故…」
「シトラさん…あ、はい、!」
呆然とするアスランを他所にシトラは自身の娘であるセトの方にも顔を向ける。
「どうだった?」
「えっと…その…たまにはアスランくんとも…悪くないかも…」
「―?」
アスランは、セトのその見当違いな回答に首を傾ける。
てっきりアスランは、セトのことだ、『アスランくんと一緒に入るの楽しかったー!!!』とでも言うのだろうと思っていた。
故にその期待は裏切られ、代わりとしてアスランはその少女の口角がいつもより少しだけ上がっているのが見えた。
「そう…よかった、、―改めてお礼させていただきます。アスラン様、セトのこと、本当にありがとうございました。」
「いえいえ、俺もセトと入れて良かったです。」
そうしてセトの方をむくアスランとセトの目線が一瞬合った。
その後すぐにセトは目を背け、何かを言いたげにしながらも先程までアスランが触れていたその、艶のある髪をいじりながら1人だけ先に自室へと戻って行った。
「2人になっちゃいましたね、」
「それではセトの話について聞かせてください。」
そう、元はといえばそれが目的でアスランはセトと風呂に入っただけなのだ。
それだけのはず…だったのだが、
「アスラン様のお部屋に行きましょう、そこで全てお話しますよ」
そんな言葉に乗せられ、アスランはシトラと2人、自室へと戻るのであった。
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「さぁ、着いたしそろそろ話を…」
「私の部屋と同じくらいの大きさですね、セトの部屋よりは少し大きめな気がします。まぁ、毎日掃除の時に入っているので普通に知ってるんですけどね」
聞いた質問をふふふと笑うだけで返そうとしない姿勢にアスランも調子が崩れる。
「し、シトラさん…」
「ねぇアスラン様、」
「――、」
「アスラン様はセトのことをどう思っていますか?」
それは我が子の身を案じるための質問とは捉えられずにアスランの元へと来る。
そう、それは我が子に対しての心配なんかの感情では無い。
もっと言えばセトに対しての心配ではなく、アスランに対する興味から来るもの…その質問はそういう意図として女から発せられたのだ。
「別に…ただ、セトの事も大切な人の1人で…」
「では、質問を変えましょうか。アスラン様はセトに恋心を抱いてはいますか?」
「はっ?」
ふと、喉を通り抜けて出てきた声、それにも気づかずにアスランはシトラの言葉の意図を徐々に理解する。
それに伴って、アスランはその答えをどう返して良いものかわからなくもあった。
―青春、それはまるで誰もが経験をするようなことに見えて、実はそうでは無いのかもしれない。
何かに熱くなれた、何かを本気で好きになった、何かを目標にし、何かを目指し、そして何かを成し遂げようとする。
そんな時間がアスランにはあったであろうか?
また、それを恋愛のみに置き換えてみても同じだ。
誰かを本気で好きになったことはあるか、誰かに振り向いて欲しいと思ったことがあるか、誰かのために全力を尽くすことが今までにあったか、誰か、その誰かと一緒に過ごしたいと思ったことがあるだろうか…
そういう意味ではアスランもまだまだ子供なところもあって、なんならアスランより歳の下の子供の方が上なところもあって、そうしてアスランは今も"恋愛"がわからない。
故に、
「俺はまだそれを知りません。けどいつかはきっと…きっと、俺にもそう思える人が…恋心を抱ける人が現れたらなと、ずっと願っています。」
「そう…ですか、アスラン様はやはり、その知性だけは本物ですね。」
「いえいえ、俺だってたまたま…」
「アスラン様、転生者ですよね?」
「は?」
アスランは一瞬、拍子抜けしたような顔をしてその次の瞬間にしまったと思った。
なぜならその表情を確認した瞬間にシトラは自身の頬を緩め、緊張感がその瞬間に一切無くなったからだ。
「その反応は…当たりということでよろしいですね?」
「あ…ああ、」
「やはり…」
「けど、どうやって気づいたんだ?」
それは素朴な疑問…ただ、アスランにとってはこれほどまでにない大切な質問であった。
「簡単なことです、」
そうしてシトラは笑いながらにアスランに告げる。
「アスラン様の事、1番近くで見てきたのは誰だと思っているんですか?それに私は優れた能力にはカラクリが存在すると信じていますので、」
だからと割り切ってアスランを転生者と決めつけたのは彼女にとっても賭けではあっただろう。
いや、シトラは賭けたのだ。
自身のこれまでの関わり合いと、それから彼女自身が見た、実在するとされた古の物語を…




