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第一章 12 「鬼ごっこ」

「ふぅ、酷い目にあった…」


俯く少女を前に少年は畳み掛けるように言葉を吐く。


「ごめん…」


少女の誠心誠意の謝罪も何もかも、少年にはどうでもよかった。

なんせ少年は――


「気にすんなよ、たかだか1週間、しかも本を読むのが禁止ってだけだ。その期間はセトが遊んでくれるんだろ?」


すると少女は表情をぱっと明るくし、面を上げて明るく返したのだった。


「うん!!」


アスランは結局、今までのセトに対しての乱暴、それからダイツとチサ、それからシトラの"とある事情"によって1週間の間は読書を禁止、その間はセトと遊ぶようにと命令が下された。


「はぁ、それにしても何して遊ぶよ、俺はなんでもいいけど…」


「じゃあ今日は鬼ごっこしよう?アスランくんが鬼ね!」


「げっ、…」


聞いたのが間違いだったと言わんばかりにセトは元気はつらつと言った様子でアスランの方を振り返りながら中庭へと向かう。


そもそもここ、フォルト家はかなりの敷地を誇っており、中でも中庭なんかはアスランにとって、昔よく遊んでいた学校の校庭かと思えるくらいである。


 まぁこの世界には学校なんかないからそれを言ったって通用しないか…


そうしてセトの後ろをついて行き、中庭へと出るところで靴へと履き替える。

洋風の家、しかも文化なんかもそれに寄っているとはいえ、さすがは異世界だけあってしっかりと違いはあった。


まずアスランの知る限りでは、このような建物の場合は基本的に靴で上がり各部屋ごとなどにスリッパなどを完備しているところが多い。

ホテルなんかがいい例で、ああいう場所に似た雰囲気でありながらもしっかりと日本―アスランの故郷の文化も取りえれられている。

それが玄関、つまりは上履きと外履きを履き替える場所だ。


「とは言ってもまぁ、毎日泥だらけってなると洗濯が大変そうだから俺はなるべく引きこもりたいタイプなんだけどな」


アスランの元々の性質上、アスランはアウトドアよりインドア派の側の人間だ。

だから泥だらけになると洗濯が困る、という言い訳を常備してなるべく外での遊びには参加しないようにしていた。


「体育の授業も出来れば体育館だったし、けどセトめ…」


アスランは目の前の少女を恨む。

なんせアスランとセトとでは大きくわけた時に分類が違う。

男女の括りとしてではなく、つまりは陰か陽かという問題だ。


「アスランくん!早く早くー」


そう急かす彼女は間違いなく陽、人馴れもしており誰とでも気軽に話せるアスランの敵…とは言ってもその敵を大切な人間として扱っているのだからおかしなものだ。


いや、決してはおかしくはないのだが…それに少女はアスランの本当に嫌がることは決してしないと心に決めている。

故にアスランが真に少女を嫌うことも無く、そうして今まで関わってきたのだ。


「久しぶりだから少しは休憩を…」


「何言ってるのー?まだ始まってすらいないのに」


そうは言っても彼女とアスランとでは精神面が大きく違ったのだ。

彼女は外での遊びが大好きな所謂、物心のつき始めた子供、対してアスランは精神年齢だけでいえばそれにプラスで17をしているのだから実は立派な成人…と言ってもこの世界での成人は男女共に16なので転生してきた時点でアスランはとっくに成人だったのだが…


「ほらほらー、鬼さんこっちらー」


「そもそも久しぶりすぎて…」


動けない、とも言えずにいたずらに眉を顰める少女を追いかけ回す。


「あはははは!!」


「ちょっ、セト…速すぎる…」


もう一つ、アスランはセトと外で遊びたくない理由があるのだった。


セトは追いかけ回すアスランから必死に逃走…するとアスランとセトとの間にはありえないほどの差がつく。

そう、これこそがアスランがセトと外遊び(主に鬼ごっこ)をしたくない理由である。


アスランとセトとでは何故か身体能力に差が大きい、その理由についてはダイツに尋ねてもどこか変な感じで


『さぁ、どうしてだろうなー?』


と相手にしてくれない。

必ず原因はあるはずだ。

なんせ、差と言っても同い年…しかも体格もそこまで変わらないでいるはずなのにここまで大差が着くとは思えない。

アスランとセトとの間には100メートル程の差が毎回と言っていいほどでき上がる。


「なんでそんな速いんだよ…」


散々セトに振り回されているアスランは、せめてもと思いアスランにとって有利なはずの鬼ごっこを挑んだことがある。

それでもセトの身体能力によるゴリ押しで敗北を喫し、それからはセトと外遊びはしないようにとしてきた。


セトのちょっかいが酷くなったのはその少し後からであった気がするが…


「はぁ…はぁ…」


「そろそろ中に入る?疲れたでしょ?」


「そういうお前はっ…全然っ…疲れてなさそうだけど…っ、?」


息を整えながら手で汗を拭いつつ、アスランはそっと彼女の方を向く。

「まあね!!」と自信満々に返事をする少女も喜んだ様子でえへへへへ、と笑っている。


「あ、おかえりなさいませ、沢山汚れてきましたね…セトも嬉しそうね、」


そうして安心した様子で外からの帰りを心待ちにしていたかのような女性が1人、笑顔でお出迎えしてくれる。


「うん!アスランくんと久々に鬼ごっこできて嬉しかった!!」


「セトが速すぎて…全く相手になりませんでした…なんでこんな速いんですかね…」


「アスラン様も久々に外で遊ばれたことです…どうかうちのセトと一緒にお風呂に入っては頂けませんか?その後でその話は詳しく…」


目を細めるメイド服姿の女性に首を傾げつつ、この年頃なら普通に風呂に一緒に入ることもあるだろうとアスランは頷き、


「では、その話は風呂上がりにお願いします!シトラさん」


アスランはセトの身体能力の秘密が知りたい、そしてシトラはセトとアスランに仲良くなってもらいたい、そう言った互いの思いの交差があり、取り引きのような、けれども少し違った形で互いにとっての要望は通された。


そして、最後に彼女の名前を呼ぶとご機嫌なセトの手を引っ張ってアスランは風呂場へと直進するのであった…





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