第一章 10 「4年後」
―この世界に生まれ落ち、4年が経った。
とは言っても、俺にそこまでの変化はない。1つあるとすれば―
「シトラさん?どうしました?」
そう、喋れるようになったことくらいだろう…
この世界に来てアスランが一番苦悩していたのがその言葉の壁であった。
とは言っても話も理解でき、通じるためしっかりと喋れるようになるまで時間はそうかからなかった。
最初は不自然に思われるかと思っていたアスランではあったがダイツはそんなことには驚かない程に規格外、チサも天才肌な一面があるため「あら、すごいじゃない」程度、かろうじて驚くかと思っていた今、アスランの目の前にいるメイド服姿の女性…シトラですらも全くもって動じずであった。
いや、シトラに関しては決して2人のような規格外さが原因では無い。
むしろ家事スキル以外においては平凡と言ったところであるシトラ、そんな彼女がアスランの言語理解が早いのを不自然に思わなかったのは全部シトラが真面目である反面、天然であったからだ。
「そろそろ朝食の時間なので呼びに来ました、」
と、朗らかな声で一言。
そんな礼儀正しく、目下であろうと使用人であるという立場からアスランを様付けするシトラだが、4年という時を経て…いや、初対面から何度か接触した上でアスランは彼女に対する印象を大きく変えた。
初対面の時はそもそもメイド服を着ておらず、代わりに青のワンピースを纏って現れ、アスランに優しく触れていた。
その頃のアスランは赤ん坊だったこともあり、一切話すことは出来なかったのだが、それでも彼女とダイツやチサの話し声を聞き、やはりシトラは少々抜けているということをその会話が裏付けていた。
「ありがとうございます。すぐに行きますね、」
そうしてベットから降りたところでアスランは嫌な気配を感じとった。
「げっ、」
振り返る間もなくそれはいつの間にかアスランの背後まで忍び寄り、そして駆けてアスランの背中にダイブ…
「ちょっ、セトやめろって!」
「アスランくーん、おはよう!!」
青みがかった水色の髪に薄い青色の瞳が特徴的な少女、それが黒い髪に黒い瞳を持つ少年に対し襲いかかる。
「こらセトッ、アスラン様にまたそうやって…」
「えへへへへ、アスランくんの反応が毎度毎度面白いんだもーん、」
そう少女が言うようにアスランは毎度の事ながらこうして少女に抱きつかれている。
セトめ…可愛いだけじゃ世の中は生きていけねーんだぞ?
その少女の方を見てアスランはそう思いながらもそれを揺さぶって取ろうとする。
「うっ、ああ…」
転がりながらも残念そうな声を出す少女に少しの申し訳なさも生まれずにそのまま少女は無視して食卓へと向かった。
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アスランがこの世界に来て一番嬉しく思ったことは顔がいい事だ。
この世界は今のところ…ダイツ、チサ、シトラ、セトとあってきた順でも全員が美人に美青年揃い、セトに関してもその歳で完全に美少女だとわかる程であった。
「まぁ顔だけだけどな!」
鏡の前、顔を洗いながら自身の顔に見とれる毎日…これではまるでナルシストではないかと言われてもしょうがない。
なんせこんな顔になれたのは生まれて初めてなのだから…
いや、とても変な風に聞こえるかもしれないが仕方がない。なんせアスランは二度目の人生…異世界転生をしてきたことで持たされたありがたき異世界転生の特典と言っても過言ではないだろう。
「何してるの?アスランくん」
「あー、そうだな…やっぱ俺がこういう顔だったらなーって…」
それは前世の話…つまりは前世でこんな顔つきで生まれてきていたらと言う空想上の話、それを投げかけられた問いへの答えとして返した。
「ってはっ!?セトっ!?」
「今更ー?けどいいよ、アスランくんだしね」
「ちょっ待っ…一体いつから…」
「うーん、前髪をちょんちょん濡らして変な風にしてる時?から」
その言葉にアスランは頬が熱くなるのを感じた。
「茹でダコみたーい」
そう言ってつんつんとアスランの頬を人差し指で指すセト、そんなセトに余計に腹が立ち、アスランはあまりにも酷い被害妄想でセトの手を払いのける。
「あー、もう、アスランくんってば」
「いいか?さっきのは忘れろ!わかったな?」
アスランは少女に顔を近づけ迫力満点の声でそう言う。
すると嫌々「はーい」というやる気のない声での一言、それにまたもカチンときたアスランはセトの頭を掴み、
「あー、アスランくんわかった!わかったから!!」
「本当か?わかんねーようだったらこの頭を…」
「アスラーン」
「あぐっ、」
そっとそのセトの頭を掴んでいた方の手を誰かが掴み、そして背後からぞっとするような声で少年の名前を呼んだ。
「かかかかかか、か、か、母さん、どうしてこちらへ?」
「うーん?セトちゃんがぁ、アスランと一緒にいるって言うからまーたアスランがセトちゃんをいじめたりしないか少しチェックに来たのよー?」
目が笑ってねーよ!!
チサは表情だけ笑顔のままでそっとその手を掴んで「言ったよねー?」とさらに威圧的に言い放つ。
「セトちゃんは絶対いじめちゃダメだって、アスランはそれに頷いたよね?ねぇ、アスラン?何をしてるのかなー?」
「あっ、あっ…」
「ぷぷぷ」
チサに説教をされているアスランの横でセトはにやけ顔をして笑っていた。
アスランは普段からセトとはあまり接さないようにしていた。
とは言っても仲良くしていないとシトラが悲しそうな顔をするため、たまに遊んでやる程度。
アスランがセトに対してアスランにとっての最低限しか関わってこなかった理由…そう、この女はかなりのクソガキなのであった!!




