第一章 9 「使用人」
―アスランもこの世界に来て1ヶ月程たったある日の事だった。
アスランはそれまで、この世界について少しづつだが確実に学んでいった。
まだ言葉も発せないため、やはりコミュニケーションを取るのは容易ではないが今、アスランが住んでいる場所、そしてこの家に住むアスランとは血の繋がりのない義理の両親のことについては大体知ることが出来た。
チサ…お母さんはこの国きっての治癒術師、そしてダイツ…お父さんは国から『英雄』って称号を貰った国の最高戦力かぁ…
そんな2人の出会いなども気になるところではあるがそんな驚く程にすごい肩書きを持った2人の…一応は息子ということなのでアスランも気が気でない。
そもそも、アスランの精神年齢ではチサ、ダイツ共にほぼほぼ同じであるため、父や母と言うのには少し抵抗感があった。
まぁ一番意外なのはそんなお偉いお二方に使用人ってのが居ないんだよなぁ。
そう、アスランが…朝宮 康が偉い立場の人間というのを見てまず初めに思うのは見た目や性格なんかの内面、そこはダイツとチサとも1ヶ月過ごして何となくわかってきたところではあるが偉い立場と言えば必ず思い浮かぶであろうランキングトップ3に入る使用人。
それが居ないことにアスランは少し驚きがあった。
もちろんチサもダイツも家事を一切しない訳では無い。
むしろ、どちらも家事は完璧、作りなれていないであろうアスラン専用の離乳食でさえも完璧に作ってしまうのだから大したものだ。
やっぱりそこまで家事ができるから使用人はいらないってことなのか?
そんな感じでとやかくこの家…ダイツ、そして今はチサの姓であり、アスランも受け継いだ姓…フォルト家には使用人がいないらしかった。
それにしても暇だ、この世界のことについてまだまだ知らない事ばかりだけど…でも一番の問題は―
「あ、あうあ、」
この声だろう。
生後1ヶ月前後ということもあり、アスランは言葉を話すことが出来ずにいた。
せっかくダイツやチサの言葉の意味が分かり、そして言葉を発することも出来るというのに相手に意味が伝わらない。
これは異世界の壁とかそういうのじゃなく単純にアスランがまだ赤子であるから、だからこそアスランは早く時が経てばいいのにとも思っていた。
唯一幸いだった点をあげるとすればアスランは現時点で言葉を理解できる点であろう。
これがもし異世界語というものがあったとすればアスランはまたゼロからの学習の日々が始まってもおかしくはなかった。
そういう意味では感謝してるけどさ、
そうして変わらず今日も退屈な日常が過ぎ去っていこうとした時だった。
「失礼致します。」
その言葉と共に誰であろう?知らない女性がアスランの部屋、つまりは赤ちゃん部屋とでも言うべき部屋に入り込んできたのであった。
女性はどこか水色がかった髪の色に瞳は海のような青、そして赤ん坊をオブっているようだった。
「あなたがアスラン様でしょうか?」
「あう?」
「お会いするのは初めてですね、私はシトラ…そしてこの子はセトと申します。是非、今後ともよろしくお願い致します。」
赤ん坊であるアスランに対してこれでもかという深いお辞儀、その言葉遣いも丁寧そのものでアスランの会った中で恐らく初めてとも言える敬語の大人相手にどうしていいものかわからなくなってきた。
とは言っても赤ん坊であるため、そんなことを思っているとは考えもしないだろうが、
「そんな畏まらなくてもアスランは気にしないのに…」
「そうだぞシトラ、赤ん坊相手なんだし普通に直で話な」
「いいえ、セトのお友達になるかもしれないお方なんですから、今のうちに挨拶なんかもしっかりしておきたくて…」
セト、と呼ばれるのは察するにその女性…シトラの抱える赤子のことだろう。
アスランはまだ知らなかった。
そのセトとの出会いがアスランのこれからの異世界生活を大きく変えることになろうとは…
これはこれから暑くなるであろう初夏の、とある日の出来事であった。




