第8話 エリザベートの家訪問
エリザベートの家へ行く前に、俺は母親に許可を取ることにした。母はザイドル商会の経営を支える一方で、自身の菓子店を3店舗経営している。
「エリザベート・ファルクの家に招かれたんだけど、行ってもいい?」
母は驚いた様子だったが、すぐに微笑んで頷いた。
「もちろんいいわよ。ファルク家は織物商として名の知れた家だし、商家同士の交流は大切だからね」
そう言うと、母は店の奥から焼き菓子の詰め合わせを取り出した。バターと蜂蜜の香ばしい香りが漂う。
「これはうちの店の人気商品だから、エリザベートちゃんの家への手土産に持っていきなさい。きっと喜ばれるわよ」
「ありがとう、お母さん」
俺は菓子の包みを受け取り、母の気遣いに感謝しながらエリザベートの家へと向かった。
―――
数日後、俺はエリザベートの家を訪れることになった。ファルク家はエーバーハイムでも名の知れた織物商で、彼女の家は町の中心部にある立派な建物だった。
ファルク家の建物は、通りに面した店の奥が倉庫となっており、2階と3階が住居部分になっているそうだ。通りに面した店には、反物や繊細な刺繍布が美しく陳列されていた。
店舗の入口から入ると、エリザベートが満面の笑みで迎えてくれた。
「マクシミリアン、来たね! さあ、入って!」
中に入ると、部屋には色とりどりの布が並び、棚には美しく織られた反物がぎっしりと収められていた。繊細な刺繍が施された布や、手触りの良さそうな生地が目に入る。
「すごいな……」
「でしょ? ここは私のお父さんの自慢の店なの」
エリザベートは誇らしげに胸を張る。彼女の家がこの町で成功しているのがよくわかる。
「ねえ、せっかくだから織物を見ていってよ! それに、奥にはもっとすごい布があるんだよ!」
俺は興味をそそられながら、奥の部屋へと案内された。
―――
「その前に、これを持ってきたんだ」
俺は母から持たされた焼き菓子の包みを取り出し、エリザベートに手渡した。
「わぁ、いい匂い! これ、君の家のお店の?」
「うん。うちの菓子店の人気商品らしいよ」
エリザベートは嬉しそうに包装を開き、小さな焼き菓子を一つ手に取った。
「いただきまーす!」
そう言ってかじると、目を輝かせた。
「おいしい! これ、すごく香ばしいね!」
「だろ? 俺も好きなんだ」
二人でお菓子を食べながら話しているうちに、少しずつ打ち解けていくのを感じた。
「ねえ、さっきまでお店の中ばっかりだったけど、お庭で遊ばない?」
「庭があるのか?」
「ううん、倉庫の裏にちょっとしたスペースがあってね、私、そこでよく遊ぶの!」
―――
エリザベートに連れられ、俺たちは倉庫の裏に出た。そこには木箱が積まれたスペースがあり、ちょうど子供が遊ぶには十分な広さがあった。
「ねえ、ここでちょっとした競争しようよ!」
「競争?」
「うん! この木箱をよけながら、向こうの壁までどっちが早くたどり着けるか!」
エリザベートはいたずらっぽく笑いながら、すでにスタートラインに立っていた。
「いいよ。でも、手加減しないからな」
「私だって本気だよ!」
「よーい……スタート!」
俺たちは一斉に駆け出した。木箱を避けながら走るのは思ったよりも難しく、狭い道を通り抜けるたびにスピードを調整しなければならなかった。
「ふふっ、私の方が速いよ!」
エリザベートは身軽に木箱の間をすり抜け、俺の少し前を走っている。
(くそっ、意外と速い……!)
最後のコーナーで俺は一気に加速し、なんとかエリザベートと同時にゴールについた。
「引き分けだな」
「えーっ、もう一回やろうよ!」
「俺はもう疲れたぞ……」
エリザベートは少し不満そうだったが、すぐに笑って肩をすくめた。
「楽しかった! ねえ、また遊びに来てくれる?」
「もちろん。今度は俺の家にも来いよ」
「ほんと? じゃあ絶対行く!」
こうして、俺たちは新たな友情を築き、今後も互いの家を行き来する約束をした。
俺の異世界生活ではじめて出来た友だちだな。