第7話 エリザベートとかくれんぼ ちょっと恥ずかしい
工房を出た俺たちは、近くの広場に向かった。エリザベートは元気よく駆け出し、振り返ると楽しそうに笑っていた。
「ルートヴィヒおじさんの工房の周りには、隠れるのにちょうどいい場所がたくさんあるの!」
俺は一瞬、躊躇した。心は大人のままの俺が、子供と同じように遊ぶのは少し気恥ずかしい。それに、かくれんぼなんて何年ぶりだろうか。
「……まあ、いいけど」
「じゃあ、俺が鬼をやるから、君は隠れて!」
エリザベートはぱっと笑顔になり、嬉しそうに目を輝かせた。その無邪気な様子を見ていると、断るのも申し訳ない気がしてくる。
「……いーち、にー……」
俺は目をつぶり、数を数えた後、工房の周囲を探し始めた。
「さて、どこに隠れたかな……」
木箱の陰、樽の後ろ、細い路地……それらしい場所を順番に覗き込んでいく。子供の遊びに興じる自分が妙に滑稽に思えて、少し顔が熱くなった。
「ふふっ、こっちこっち!」
エリザベートの小さな声が聞こえた。どうやら、完全に隠れきれず、つい笑いが漏れてしまったらしい。
俺は音のした方にそっと回り込み、積み上げられた麻袋の陰を覗き込んだ。
「みーつけた!」
「きゃっ!」
エリザベートは驚いた顔をしながらも、すぐに笑顔になった。
「次は私が鬼ね!」
「おう、じゃあ次は俺が鬼だな!」
俺は少し戸惑いながらも、再びかくれんぼを続けた。何度も鬼を交代しながら遊ぶうちに、少しずつ気恥ずかしさが薄れていくのを感じた。
―――
しばらく遊んだ後、日が傾き始めた。
「楽しかった!」
エリザベートは満足そうに息を弾ませている。
「ねえ、マクシミリアン。また一緒に遊ぼうよ!」
「もちろん。でも、次はどこで?」
「私の家に来なよ!」
「君の家?」
「うん。ファルク家はこの町で織物を扱ってるの。だから、家には色んな布があるんだよ!」
そういえば、父が話していたことがある。ファルク家はこの町でそれなりに名の知れた商家で、高品質な布を扱っているらしい。
「布か……じゃあ、今度お邪魔しようかな」
「約束ね!」
エリザベートは嬉しそうに笑いながら、小指を差し出してきた。
「指切りげんまん!」
「……なんでそんなの知ってるんだ?」
「え? だって、みんなやってるよ?」
(異世界にも似たような風習があるのか……?)
少し驚いたが、俺も小指を出して約束を交わした。
「じゃあ、またね!」
エリザベートは軽やかに駆け出し、自分の家へと帰っていった。
(……思ったより、元気な子だったな)
こうして、俺は初めての友達を得ることになった。
次回、エリザベートの家を訪れることになる。