第6話 初めてのガラス成形、エリザベートとの出会い
炉の中で溶けた砂は、赤く輝く液体へと変わりつつあった。ルートヴィヒが鉄の吹き竿を手に取り、慎重にその溶けたガラスを巻き取る。
「おい坊主、ここからが本番だぞ」
俺はゴクリと唾を飲み込みながら、その手元を見つめる。
「まずは均等に回しながら形を整える。少しでもバランスが崩れたら、まともな形にならねえからな」
ルートヴィヒは吹き竿を巧みに操りながら、ガラスの塊を均一な球状へと整えていく。その動きには一切の無駄がなく、長年の経験が染み付いた職人技を感じた。
「試しにやってみるか?」
「……はい!」
吹き竿を受け取り、慎重に溶けたガラスを巻き取る。だが、予想以上に粘り気があり、少しでも動かすと重力に引っ張られて形が崩れそうになる。
「回せ、ゆっくり均等にな。力を入れすぎると偏るぞ」
必死に回し続け、なんとか丸みを維持する。ルートヴィヒが手早く竿の先端を調整し、ようやく形が整い始めた。
「上出来だ。あとは膨らませるぞ」
「膨らませる?」
「吹き竿の穴に口をつけて、ゆっくり息を吹き込め」
言われた通りにそっと息を吹き込む。熱されたガラスが少しずつ膨らみ、球状になっていく。
「おお……!」
「調子に乗るなよ。加減を間違えると破裂するぞ」
慎重に息を吹き込み、徐々に形が出来上がっていく。最後にルートヴィヒが細かい調整を加え、試作第一号のガラス球が完成した。
「これが……ガラス」
光に透かすと、今まで見たものよりも透明度が高い。まだ完全ではないが、最初の一歩としては十分だった。
「坊主、これからが本当の挑戦だぞ」
ルートヴィヒの言葉に、俺は大きく頷いた。
「試作品は俺とルートヴィヒで作るが、量産するとなれば工房の弟子たちに任せることになる。彼らの技術を上げることも、これからの課題だな」
「その通りだ。技術の標準化ができなければ、安定した品質のガラスは作れない」
俺はこの世界での商売の可能性を実感し始めていた。
(この技術をもっと洗練させて、完璧な透明ガラスを作る……!)
その時、工房の扉が勢いよく開いた。
「ルートヴィヒおじさん! あのね——あれ?」
突然の声に振り向くと、そこには金色の髪を揺らす少女が立っていた。
「……君は?」
「私はエリザベート・ファルク! ルートヴィヒおじさんの知り合いだけど、あなた誰?」
彼女は興味深そうに俺を見つめながら近づいてきた。目は鋭くも知的で、どこか大人びた雰囲気がある。
「坊主、こいつはエリザベート。貴族じゃねえが、この町でなかなか有名な家の娘でな。小さい頃から工房を出入りしてるんだ」
「へえ……」
「それで、あなたは? ルートヴィヒおじさんがこんな小さな子を弟子にしたの?」
「俺はマクシミリアン・ザイドル。ザイドル商会の跡取りだよ」
エリザベートは少し驚いたような表情をしたが、すぐに微笑んだ。
「ふーん、商人の坊ちゃんね。じゃあ、私にガラス作りを教えてよ!」
「え、俺もまだ習ってる最中なんだけど……」
「えー、つまんない!」
エリザベートは頬を膨らませた後、パッと笑顔になった。
「じゃあ、ガラス作りはいいから、一緒に遊びに行こうよ!」
「遊びに?」
「うん! せっかく知り合ったんだから、工房ばっかりじゃなくて、遊びましょ」
俺は彼女の元気な様子に少し圧倒されながらも、その提案を断る理由もなかった。
「……まあ、いいか。じゃあ、外でかくれんぼでもする?」
「やった!」
エリザベートは嬉しそうに手を叩き、俺の袖を引っ張った。
俺はルートヴィヒに断りを入れ、エリザベートと工房を後にした。