第4話 ガラスの純度とマクシミリアンの新たな試み
ルートヴィヒの工房を訪れ、ガラス作りの基本を学び始めて数日が経った。
「マクシミリアン、今日も来たか。坊主にしては根気があるな」
「知りたいことがたくさんあるので」
ルートヴィヒは鼻を鳴らして笑いながら、炉の前で鉄の棒を振るう。熱せられたガラスの塊が、棒の先でゆっくりと回転している。
「お前が言っていた“透明なガラス”を作るには、まず材料が重要だ。今のガラスが曇っているのは、不純物が混じっているからだ」
俺は彼の言葉に頷く。市場で見たガラス製品は、どれも不透明で、光をまともに通さなかった。
「より純度の高い砂を探すのはどうでしょうか?」
「簡単に言うがな、砂を選別するのは骨が折れる仕事だぞ。川砂を洗ってみるか?」
ルートヴィヒは工房の裏手へと俺を案内した。そこには大量の砂が山積みにされていた。
「この砂を水で洗ってみろ。手で触って、何か違いを感じたら教えてくれ」
俺は桶に砂を入れ、水を加えて手でかき混ぜる。すると、砂の中に小さな黒い粒が混じっていることに気づいた。
「この黒い粒、取り除いた方が良いですよね?」
「おっ、分かるか。そうだ。これは鉄分を含んだ鉱物だ。こいつが混じるとガラスが黒ずんでしまう」
「では、より純度の高い砂を求めて、別の採取地を探した方が良いですね」
ルートヴィヒは腕を組み、しばらく考え込んだ。
「……なら、お前の父親に相談してみろ。ザイドル商会の流通網を使えば、良質な砂を手に入れられるかもしれん」
確かに、それは良い考えだ。商会のコネクションを使えば、採取場所の候補を増やせる。
「分かりました。すぐに相談してみます!」
ーーー新たな試みと商会の協力ーーー
父に相談すると、彼はすぐに興味を示した。
「なるほどな……確かに、透明なガラスが作れるようになれば、大きな商機が生まれる。だが、良質な砂の採取には人手が必要だ」
父は商会の記録を確認しながら、俺をじっと見つめる。
「しかし、お前はまだ五歳だというのに……よくここまで考えたな」
驚きとともに、父の顔には誇らしげな表情が浮かんでいた。
「お前の着眼点の鋭さには感心する。ザイドル商会の未来を担う者として、期待しているぞ」
父の言葉に、胸が熱くなる。自分の考えが認められたという実感が湧いてきた。
「ただし、砂の採取には経験者が必要だ。お前一人ではまだ無理だろう」
父は書類を手に取り、商会の中堅商人であるオットー・ラングを呼び出した。
「オットー、お前がマクシミリアンを補佐しろ。経験豊富な者がついていれば、採取もうまくいくだろう」
「かしこまりました、ご主人様」
オットーは三十代半ばの実直な男で、商会の物流担当。長年の経験を活かし、交易や採取の現場にも精通している。
「よろしくお願いします、オットーさん!」
オットーは微笑み、軽く頭を下げた。
「マクシミリアン様、砂の採取は思ったよりも大変ですよ。しかし、しっかりと準備すれば成功できます。まずは採取地の候補を確認しましょう」
父は商会の地図を広げ、いくつかの採取地を指し示した。
「ここと、ここ。この二つの採取地は以前から質の良い砂が採れると聞いている。ただし、片方は山奥で、もう一つは川の支流だ」
俺は地図を覗き込みながら考える。
「山奥の方は運搬が大変そうですね……。まずは川の支流から調べてみます」
「よし。なら、商会の馬車を手配しよう。護衛もつける」
こうして、俺は商会の協力を得て、オットーとともに良質な砂を探すための旅に出ることになった。